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村弘氏穂の日経下段 #1(2017.4.1)


地底湖の水のボトルを開けたとき最高裁が遥かに匂ふ

(盛岡 藤原 建一)

 地底から最高への発想の飛躍に思いがけない魅力がある。国の天然記念物に指定されている龍泉洞の水であろうか。遥かとは過去なのか金輪際なのか、それとも不穏な未来だろうか。匂わないものの匂いに啓示的な詩情を感じる。


ここからは学習塾が覗けるぞ時計が見えるエアコンも見える

(仙台 工藤 吉生)

 下校後の子どもの世界は二つある。しかし異界を覗き見た者の目に映ったものは、自分の世界にもある時計とエアコンであり黒板や塾生ではない。秘密感が秘密感のまま終わる下の句には翌週の続きがありそう。きっと塾に行かない者だからこそ、塾生よりも習得できる好奇心や体得できる探求心が多くあるのだろうから。


左利きは左に下げているのかなお巡りさんの拳銃ホルダー

(白井 毘舎利道弘)

 当然といえば当然の疑問。左利きのお巡りさんも絶対にいるはず。たしか利き手に関わらず制服警官の拳銃は右、警棒が左って定められてたと思うけど、日本の場合は滅多に撃たないことが前提にあるからかもしれない。ところでビリー・ザ・キッドはどうだったかな。


中にいたいのか外に出たいのかがわからないクレーンゲームのそのぬいぐるみ

(守口 小杉なんぎん)

 捕られたくない設置者(店)と捕りたい捕獲者(客)の都合以外にも当事者(ぬいぐるみ)の意思を慮ろうとする視点がユニーク。そのことによってガラスケースの中に異次元が生まれた。それがどんなぬいぐるみであるのかを限定していないところに奇妙な味わいがある。


マリリンの巻き毛みたいなかつ節の光に満ちている乾物屋

(東京 小野田 光)

 アメリカ産のマリリンと日本産のかつ節の対比が印象的。共に乾いてしまった存在だがここには生の実感がある。マリリンの時代にはたくさんあった乾物屋も今ではすっかり減ってしまった。光によって照らし出されたのは古き良きあの時代なのかもしれない。

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