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村弘氏穂の『日経下段』2017.4.1~

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土曜版日本經濟新聞の歌壇の下の段の寸評
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2018年5月の記事一覧

村弘氏穂の日経下段 #59(2018.5.26)

村弘氏穂の日経下段 #59(2018.5.26)

くるくると傘を回して飛び散った雨粒みたいに卒業をする
( 東京 やすふじまさひろ)

 くるくると回した傘は黄色くて持ち手には名前が書かれてた。いったい最後に傘を回したのはいつだったんだろうと今、ふと思い出してみたら遠く昭和まで雨垂れのように滑り落ちた。ぼくの場合は幼稚園か小学校の低学年だったと思う。まあ、女子高生あたりが肩のうしろでくるくる回してるくらいだったら可愛らしいけど、いい大人になってか

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村弘氏穂の日経下段 #58(2018.5.19)

村弘氏穂の日経下段 #58(2018.5.19)

ああ壁よ扉よ床よ天井よ 今日もひとりっきりをありがとう
(名古屋 古瀬葉月)

 この作品は、ひとり暮らしの小さな部屋で何もしなかった一日という読み方もできるんだけど、何かをした、もしくは何かをしようとした、という読解も可能だ。そのどちらだったとしても、結果として、何もふれあいがなかった一日ということだ。壁、扉、床、天井は部屋を出た先の建物にだって存在する。この一日に主体が何をしたのかは全く書かれ

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村弘氏穂の日経下段 #57(2018.5.12)

村弘氏穂の日経下段 #57(2018.5.12)

たまごかけごはんみたいな陽だまりの道路に銀色のおばあさん
(枚方 久保哲也)

 枚方の久保氏の欄に久方と書きそうだったほどに久しい。イギリスの絵本作家のような描写で詠い上げる久保氏のファンとして心待ちにしていた一首だ。それにしても、なんてやさしい歌なんだろう。目にする世界のあらゆる対象と愛情を経由して繋がりを持つ作者の本領発揮といったところか。ほぼ平仮名で綴られた上の句は、平坦で穏やかな春の日の

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村弘氏穂の日経下段 #56(2018.5.5)

村弘氏穂の日経下段 #56(2018.5.5)

営業で手にした名刺を怪人とライダーに分けホルダーに挿す
(東京 織部 壮)

 名刺を手にする機会っていうとほぼ初対面時だから、そうそう長い商談時間は設けられないだろう。つまり熟々とした本当の戦いは次回以降ということになる。営業戦士はそれまでの限られた時間内に戦略を練らなくてはいけない。その第一段階での、一目瞭然のファイリング術は大きな武器となることだろう。それは脈アリと脈ナシの仕分けか。それとも

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村弘氏穂の日経下段 #55(2018.4.28)

村弘氏穂の日経下段 #55(2018.4.28)

時間とはをんなのこゑにふりつもり光を消してゆくものと知る
(東京 本多真弓)

 ここには書かれていない『をとこ』を登場させて、まだ明るい寝室の長い枕に一首を置いて全体的に艶っぽく読ませてもらうこともできる作品なんだけど、想像が膨張しすぎて弾けて消えてしまったので、もうひとつ浮かんだもう少し真面目なほうの読みを公開します。ひとことでいえば時間の定義。だけどその独自の解釈による時間の概念の捉え方が至

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