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第2章 自動車整備科存続の危機  10.一軒家の主となる

 水道が直ったので、なんとか生活はできるようになった。

 守衛も家政婦も早速来てくれている。治安や家事は、人がいるとやっぱり安心する。ボランティアに対して、このような労働サービスがつけられるのも、人が溢れるほどにいる発展途上国だからかもしれない。しかし、人の重さは変わらない。この一軒家の宿舎にも、人が集まり、一つのコミュニティが生まれ、なぜかその中心に私がいる。日本では、ありえなかったことが、目の前に現れている。毎日が変化しているのを感じる。

 守衛のアデンさんは、とっても優しい方。ただ、人を追っ払う時だけ、無茶苦茶怖く凄む。

 宿舎の中が、がらんとしていたので、自分の机や家具を作ろうと強引にアデンさんに手伝ってもらった。アデンさんも楽しそうだったのでよかったかも。それにしても、板(1枚5000フラン〔3000円〕)は高かったかもしれない。またぼられたか。

 アデンさんを含むジブチ人は、元々遊牧民であった伝統も影響してか、「世界一暑い国」といわれる酷暑の厳しい環境もあってか、人の動きがテキパキしているわけではなく、のんびり・ゆったりとした時間の流れで生活している。

 「時間を無駄に浪費してしまっているよ」「Time is mоney だよ」と突っ込みを入れたくなる時もあるが、このゆったりとし過ぎているスローペース、時間がたくさんある感覚は何とも贅沢だ。「郷に入っては郷に従え」だ。

 日本を出て、このスローペースの環境で生活しながら「日本と日本人」を思う。度を越して仕事の予定がギッシリ入っている日本人。寝ても覚めても仕事・仕事・仕事のワーカホリック。なんで日本人は、あんなに仕事をするのだろうと。

 ジブチ人と接していると、暇な時間、ゆっくり・のんびりした時間って大切なんだなと思う。「そんなんだから、いつまで経っても途上国なんだよ」という先進国の一部の人達からの上から目線の意見は確かにある。

 そもそも日本の社会って、なんで早くやらなければいけないのか、時間に正確でなければいけないのか。日本人にとっては、それらが当たり前であり大切なことなので、それらを否定すると怒ってしまうかもしれない。しかし、ジブチ人のスローペースな感覚は、ある意味羨ましい。結果はなるようになる。

 アデンさんも、仕事場である私の宿舎では、日陰に茣蓙(ござ)を敷いて、ただ座っているか寝ているだけとゆったりした雰囲気で仕事をしている。そんなアデンさんに話かけると、会話が通じなくてもいつも笑顔で「トレビアン(It’s gооdのフランス語)」と返してくれる。これがまた和む。

 ジブチの公用語はフランス語とアラビア語。現地の方々は、高齢になればなるほど公用語の習得率が低いようだ。現役の小学生が、お父さんのために通訳や翻訳している光景も見られる。

 フランス語で「トレビアン」だけを知っているアデンさんとコミュニケーションを図れたことで、そんなに語学が堪能でなくても海外生活ってできるんだなという世界観を持った。「こんにちは」「ありがとう」「水」「いいね」「さようなら」、この5つくらい現地語を知っていれば、何とでも生きていけるなと。

 仕事から宿舎に帰ったらアデンさんがいるというのは、なんだか落ち着くなと日々感じた。

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