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少年を踏み潰す「車輪」の正体とは?ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』③
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今月は、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』を取り上げます。
『車輪の下』とは、ドイツ語で『落ちこぼれ』という意味で、ヘッセ自身の学生時代の体験が投影されている自伝的小説です。
一人の少年の人生が周りの大人たち(社会)の期待に踏み潰されてしまった悲劇が描かれます。
受験戦争の過熱した現代の私たちにも、必要な教訓が含まれているかもしれません。
『車輪の下』―周囲の期待?大人の利己心?少年を踏み潰す「車輪」の正体とは?
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ヘルマン・ヘッセ(1877~1962)
ドイツの詩人、小説家。
牧師の父を持ち、自らも神学校に進むが退学。
転入した高校も退学し、町工場などで働く。
十八歳で書店見習いとなったことをきっかけに、文筆活動をスタート。
二十代後半には人気作家となる。
仏教などの東洋思想にも造詣が深く、晩年は老荘的な生活を送る。
1946年、ノーベル文学賞を受賞。
代表作品:『郷愁』『青春は美わし』『デミアン』『知と愛』『シッダールタ』『ガラス玉演戯』など
【書き出し】
仲買人、兼代理店主、ヨーゼフ・ギーベンラート氏は、同じ町の人にくらべて、目だつようなすぐれた点も変わったところも、べつに持ってなかった。
みんなと同じように、恰幅のある丈夫そうなからだつきで、商才も人なみだった。
〈高橋健二 訳『車輪の下』(新潮文庫)より〉
【名言】
疲れきってしまわないようにすることだね。そうでないと、車輪のしたじきになるからね。
あの連中も、あの子をこういうはめに落とす手伝いをしたんじゃ。
きみはどんな勉強でも好きですすんでやっているのじゃない。ただ先生やおやじがこわいからだ。
※あらすじはこちら⇓⇓
【解説①】
私の在籍していた中高一貫校は「進学校」に分類されており、大学受験が近づくにつれ、先生がたのかけるプレッシャーも上がり、生徒たちの受験熱も過熱していきました。
そんななか、ある国語の先生が、「ヘッセの『車輪の下』は読んでおいたほうがいいですよ」と授業中におっしゃっていたことを今でも覚えています。
『車輪の下』とは、ドイツ語で「落ちこぼれ」という意味。
ヘッセ二十九歳のときの作品で、本人の学生時代の体験が投影されているそうです。(自伝小説)
優等生から転落、やがて謎の死へ
主人公のハンス・ギーベンラートは、地元の大人たちの期待を一身に背負う秀才です。
受験勉強にすべてを費やし、エリート学校である神学校に二番で合格します。
しかし、詩や文学を好む自由な友人ハイルナーとの出会いから、勉強一筋の自分の人生に疑問を持ち始めます。
ハイルナーの退学を機に、ついに勉学への気力を失い、ハンス自身も退学することに。
その後、地元に帰ったハンスは、すでに働いていた同世代からの遅れを取り戻すように、機械工として働き始めます。
しかし、やっと少しずつ仕事を覚えてきたという矢先に、同僚との飲み会で慣れない酒に酔い、川に落ちて溺死。
なんともあっけない、悲しい最期を遂げてしまうのです。
この溺死が事故だったのか、自死だったのか……本当のところはハンスしか分かりません。
ただ、話の流れから見るに、ハンスは社会から潰され、殺されたようなものだ、ということかもしれません。
行きすぎた学歴社会のひずみ
この『車輪の下』というお話は、受験戦争の過熱化する現代日本においても、必要な教訓が含まれている気がしています。
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