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友情のために命を懸けられるか?太宰治の『走れメロス』③

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9月第2作目には、太宰治の小説、『走れメロス』を取り上げます。


『走れメロス』―友を信じ、命を懸けられるか?男たちの友情物語


太宰治(1909~1948)

青森県生まれ。
本名、津島修治(太宰のペンネームは太宰府天満宮から)。
小説家。
高校時代に芥川龍之介や泉鏡花に傾倒。
芥川の自殺にショックを受け、高校三年生の冬、自らも自殺未遂をする。
東京帝国大学(現東京大学)文学部仏文学科入学後、井伏鱒二に師事。
一時期、左翼運動にも参加する。
『走れメロス』などの優れた短編小説を発表し、1947年の『斜陽』で作家としての地位を確立するが、翌年、山崎富栄と玉川上水にて入水心中。

代表作品:『走れメロス』『ヴィヨンの妻』『斜陽』『人間失格』など


【書き出し】


メロスは激怒した。

必ず、かの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意した。

メロスには政治がわからぬ。

メロスは、村の牧人である。

笛を吹き、羊と遊んで暮らして来た。

けれども邪悪に関しては、人一倍に敏感であった。



【名言】


人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。

一番きらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。

私は生れた時から正直な男であった。正直な男のままにして死なせて下さい。



【解説】

『走れメロス』は太宰治の作品のなかでも比較的明るい短編小説です。

国語の教科書でも扱われているため、なじみのある方も多いのではないでしょうか。

作品の最後に、「古伝説とシルレルの詩から」と書かれていることから、この作品は、ギリシャ神話のエピソード(『ダモンとピュティアス』)と、ドイツの詩人・シラーの詩(『人質』)をもとに創作されたことが分かっています。

日本人の書いた作品なのに、どこか世界文学を感じさせるようなスケールの大きさも、大衆に好まれた理由の一つかもしれません。



お互いを信頼し、命を懸ける美しい友情物語


処刑されるのを承知の上で、命懸けで友人との約束を守るメロス。

メロスを信じ、身代わりとなって待つセリヌンティウス。

その二人の友情の姿に、人の心を信じられない王が、信頼することの大切さを学びます。

普通の人であったら、メロスのように、死ぬことが分かっているのに、友人のために一生懸命、走って帰ることはなかなかできないでしょう。


また同じく、いくら戦友とはいえ、一歩間違えば死の危険にさらされるのに、セリヌンティウスのように待つのも難しいことです。

だからこそ、二人のひたむきな友情の姿によって、王の心が変わり、読者に感動を与えるわけです。

「お互いを信じ合う心が奇跡を起こす」というメッセージは、現代の私たちにとっても必要な考え方ですね。



原点は「古代ギリシャ神話:ダモンとピュティアス」


物語の本筋自体は、太宰治本人のオリジナルではなく、古代ギリシャ神話の時代から語り継がれる伝説のエピソード。

「ダモンとピュティアス」

僭主ディオニュシオスから死刑を宣告されたピュティアスが、友人ダモンを人質として置いていくことで一時的に釈放を許可される。
身辺整理をしに出ていった後、約束を守って戻り、そのことに僭主ディオニュシオスが感動する。

すでに何千年も語り継がれている伝説というところを見ても、多くの人の心を打つテーマではあったのでしょう。

この伝承をテーマに選び、作品として昇華したところが、太宰治の最大の功績かもしれません。



『走れメロス』の舞台裏……悲惨な借金生活から生まれた友情物語

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