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おばあちゃんと焼きおにぎり

「はい、できたよ〜」

そう言って、幼い私におばあちゃんが持ってきたのは、焼きおにぎり。サイズは、小さな私の手のひらにはちょっと大きいくらい。


おばあちゃんの作る焼きおにぎりは、味噌味だった。出来たての焼きおにぎりは、こんがり焼かれた味噌の香ばしい香りがした。

あつあつのおにぎりをほうばると、焼けたお味噌の深い味とともに、パリッとしたおこげの食感と、中のふわふわの白いお米の食感が合わさって、すごくおいしい。

程よい味噌加減のそのおにぎりは、私のお気に入りになった。


それから、おばあちゃんと家に2人きりになる時は、その味噌味の焼きおにぎりをよく作ってくれた。

「おいしい?」
そうやっていつも微笑んでくれた。

「おいしい!」
そう答えると、いつも嬉しそうにしてた。

「また作るの〜」
そんなこともいつも言ってくれた。



でも、いつからか、その焼きおにぎりは食べれなくなった。

おばあちゃんの認知症が進み、おばあちゃんは部屋にこもるようになって、台所に立たなくなった。いや、危ないからって立てなくなった。



年月がたち、おばあちゃんの認知症はどんどん悪化して、ついに家族では手が負えない状態にまでなってしまった。

私とお母さんは、母方の実家に一度行くことになり、おばあちゃんはそのうち介護施設に入った。




それから、おばあちゃんに会うことは一度もなかった。




私が大学1年生のとき、おばあちゃんが亡くなったとお父さんから連絡があった。

最後に会った日から、もう何年も経っていたから、初めは実感が湧かなかった。でも、時間が経つにつれてどんどん悲しみが深くなっていって、気がついたらわんわん泣いていた。最初に思い浮かんだのは、おばあちゃんが作ってくれた焼きおにぎりと、そのときの優しい姿だった。最後まで、食べれなかったなぁ。

この大学1年のときはコロナ禍で、上京していた私は地元の葬式に参加することを許されず、最後に会ったのはほんとにずいぶんと昔の日となってしまった。




それから数日して、私はあの焼きおにぎりを再現しようと思い立った。どうしても、食べたくなってしまった。

もちろん、作り方なんてものは知らない。記憶だよりどころか、私は焼きおにぎりを作っていたおばあちゃんの背中しか覚えていない。



結果はもちろん、ダメだった。

私の味噌焼きおにぎりはしょっぱくて、あの香ばしさやおこげのパリッと感、中のお米のふわっと感もなぜかない。

それに、作るのにもどうお味噌を塗ったかとか、どうやって焼いてたかとか分からないから、すごく苦労した。


せめて、レシピを教わっていればよかった。
そう考えて、すごく悔しくなった。





おばあちゃん、私はあの焼きおにぎりがもう一度食べたいよ。小さい頃、たくさん作ってくれたあの焼きおにぎり。私の焼きおにぎりは、あの味なんだよ。またいつか、会ったときは作ってね。何十年も先になるかもしれないけれど、またあの優しい笑顔で、「できたよ〜」って持ってきてよ。そしたら、たっくさん食べるからさ。



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