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NAJEY オイルストレート開発エピソード

沖縄の美容室「NAJEY」が自社開発した「オイルストレート」。うねりやパサつきを抑え、自然なツヤと髪にまとまりを与える施術です。雨の日も髪が膨らむことなく、ドライヤーで乾かすだけでサロンでの仕上がりを再現できるという手軽さから人気となり、2022年12月現在、全国で300店の美容室が導入しています。その開発のきっかけは、オーナーの藤島隆二(ふじしま・りゅうじ)と、とあるお客さまの出会いでした。お客さまが美容院にいらっしゃる本当の目的、望みは何だろう?髪を切ること?パーマをかけること?カラーリングをすること?それらは手段でしかないのでは……?


苦い失敗の記憶

私が美容師になりたてのころのある日。
「もっと強いパーマをかけてちょうだい」
そうオーダーしたお客さまがいらっしゃいました。
「パーマをかけないと髪の毛がまとまらないの。最近は特にバサバサしちゃって。」
お客様はため息をつきましたが、まとまらないのも当然です。
当時の私から見ても、その髪は明らかにパーマの繰り返しでダメージを受けていました。
おそらくですが、初めてパーマをかけた時はきちんとかかったため、その経験からパーマを続けていたのでしょう。今の状態の髪にパーマをかけても、扱いやすくなるとは到底思えませんでした。

傷んだ部分をカットして、トリートメントをしてみてはどうか。
私はそう勧めてみましたが、お客様曰く「結ぶことのできる長さがないと、髪が膨らんだ時にどうにもならない」とのこと。
時間も限られていたため、お客様の要望通りパーマをあてました。

しかし……

すでにパーマに耐えられない状態だった髪は、ポーラス状態(激しく損傷した髪から内部物質が流出しスカスカになること)になってしまいました……チリチリになってしまった髪は、ところどころ溶けてしまっています。

お客さまは「自分が言い出したことだから」と私を責めませんでした。ですが、その時の悲しそうな顔は忘れられません。私は、ご要望にお応えした結果、お客さまの大切な髪をボロボロにしてしまったことについて、強いショックを受けました。

お客さまが美容院を訪れる「本当の目的」とは?

私はその後、沖縄に移住して「NAJEY」を開業しました。
すると、あの時のように「髪がまとまらない」という悩みを抱えた多くのお客様がいらっしゃることに気が付いたのです。

沖縄は、日本でいちばん紫外線が強く、湿度も高い土地。冬場でも平均70%、梅雨や夏には平均80%以上。髪にとってはとても過酷な環境です。
うねり、パサつき、湿気による広がり……

「髪の毛が傷んでしまってギシギシする」
「表面の毛がボワっと広がってパサつく」
「濡らすとなかなか乾かない」
「オイルやトリートメントをつけるとベタっとしてしまう」

そのようなお客さまが望まれるのは、パーマやストレート、縮毛矯正といった施術です。
私は「あの方のような思いをさせたくない」と、さまざまなメーカーのパーマやシャンプー、トリートメントを手当たり次第に仕入れ、メニューに取り入れました。

そうこうするうちに、お客様が美容室に来る目的は「施術そのもの」ではないと気が付きました。

「髪を梳いて軽くしてほしい」というお客さまも
「縮毛矯正をかけてまっすぐにしたい」というお客さまも
「明るいカラーにしたい」というお客さまも

美容室にいらっしゃるのは、
「自分をより美しく見せる髪にしたいから」だということに。

ヘアカタログを見て「この通りにしてほしい」というご希望も、その髪型にすることはお客さまの本来の目的ではありません。

カタログのイメージが「自分もこうなりたい」「このヘアスタイルなら自分をより魅力的に見せてくれるのではないか」とお客様が考えられたから、その施術を希望しているのです。

紙面に登場されるモデルさんは、いずれも髪そのものがきらきらと艶めいています。ストレートヘアでも、パーマヘアでも同様です。

残念ながら、生まれもった髪質を変えることはできません。毛髪は死んだ細胞だからです。しかし、髪の補修のやり方しだいで、お客様が望む「質感」を叶えることならできるのでは……?

そう思った私は、トリートメントやパーマ液といった、サロンで使う薬剤について勉強するアカデミーに参加することにしました。

逆張りの発想で開発した「オイルストレート」

あの日の、悲しむお客様の顔がずっと忘れられませんでした。
「どうしたら、あの方を笑顔にしてあげられただろう……」
サロンで使うシャンプーとトリートメントを開発しながらも、常に頭にあったのはそのことです。

「ツヤがあって、サラサラの髪」
「やわらかくて、毛先までストンとまとまる髪」
「うるおって、でもベタつかずに滑らかな手ざわりの髪」
どうしたら、こういう髪が実現できるのだろう?

そのうちに、ある考えが浮かびました。
「お客さまの髪の状態に合わせた製品を、その場で作れば良いのでは?」

大手メーカーとは逆の発想ですが、確かな知識と技術を持つ、ベテラン美容師だけしか取扱いできないような「難しい」製品があっても良いのではないだろうか……

それから、6年かけて開発に取り組み、のべ1000人以上の方にご協力いただいて「オイルストレート」を作り上げました。

お客様の髪の状態に合わせ、キューティクルの開き具合を調整するために、トリートメント成分を含むパーマ液をその場でブレンド。さらに、髪をダメージから守るコーティングを施します。

基本ブレンドを書き出してみたら、髪のくせとダメージレベルに合わせると、最低でも55種類以上。放置時間も髪の状態を見ながら調整が必要です。中間水洗のあとのアイロンワークも細かく手早く行わなければなりません。どの工程も重要で、ひとたび間違えると、髪が傷んでしまいます。

自分で作ったとはいえ「これは難しい」と思いました。

さらに、施術時間は最低でも2.5時間~と長くかかります。
原価率が高いため、料金も高額になります。
「果たして、この価格をお客様は受け入れてくださるだろうか?」

ところが、ふたを開けてみるとオイルストレートは大好評。

「生まれつきキレイな髪の人みたい!」
「毎朝のスタイリングの手間から解放されました!」
「髪がいつもサラサラで嬉しい!」

お客様の心からの笑顔と、感謝の言葉をいただけるようになったのです。
「オイルストレート」は、NAJEYの看板メニューとなり、沖縄県内で瞬く間に広がりました。

オイルストレートがもたらしたもの

オイルストレートは、難しい施術です。誰もが同じようにできるわけではありません。これは一見マイナスの要素のようですが、スタッフ教育の面では大きなプラスをもたらしました。

スキルの高いスタイリストが、難易度の高い施術をなしとげ、お客さまと喜びあう。その様子を同じサロン内で目の当たりにした他のスタイリストは
「私もあんなふうにお客様を感動させたい」
自ら切磋琢磨して技術を磨くようになったのです。

オイルストレートは時間がかかる施術なので、お客さまにも負担がかかります。そこで、NAJEYでは、ひとりの担当者が最初から最後まで担当する方式に切り替えました。担当者がお客さまのペースに合わせることで、ゆったりと施術を受けてもらえるようにするためです。

いちど満足したお客さまは、次の機会にも同じ担当者を指名します。髪の毛は伸びますので、お客さまは定期的にオイルストレートを受けにいらっしゃいます。県外に転居したお客様の中には、施術のために飛行機に乗って沖縄まで通ってくださる方も出てきました。

すると、人気スタイリストは既存のお客さまだけで指名が満席に。新規の受付をストップし、それでもウェイティングリストが数か月待ちになったのです。さらなる新規のお客さまのニーズにこたえるために、スタッフを増やし、教育し、店舗が手狭になってきたので2022年には3店舗目を出店。2023年にはスタッフは30名を超える予定です。

他県のサロンからの要望に応え、オイルストレートのメーカーとして卸売業も開始しました。コロナ禍ということもあり、対面指導が難しいため、販売先のサロンさまについては、事前に経験やスキルなどを確認したうえで会員制度を取っています。それでも、2022年12月には導入は300店舗を突破しました。

もちろん、オイルトリートメントも万能ではありません。施術できない髪質やダメージレベルのお客さまもいらっしゃいます。ですが、どんなに希望されても無理なことはもうしません。オイルストレートをかけてもらえる状態になるまで、髪を切りながら育てていただくようにしています。

施術を終えたお客さまが、コンプレックスであったろうご自身の髪に、自信をもって輝く笑顔を見せ「NAJEYに来て良かった!」と言われるたび、あの方のことが頭をよぎります。

「いつか、あの方にオイルストレートを施術してさしあげたい」
そう思いながら、いまでも週の半分は美容師として現場に立っています。お客さまの反応を自分で確かめ、オイルストレートの改良に活かすためです。

この先も、ひとりでも多くのお客様の笑顔を見たいから。


株式会社NAJEY
代表取締役 藤島隆二

NAJEYオイルストレートリンク集

https://oil-straight.i10.bcart.jp/

NAJEYオイルストレート公式Instagram

インタビュー・文章:美里茉奈














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