埼玉県秩父市で、カストリ焼酎とホルモンを喰らう!
カストリ……。
酒飲みか、ディープ文化に興味がある人なら一度は耳にしたことがあるはずだ。メニューをめくっていると、突然あらわれた「粕取り焼酎」の文字。
もしや、これが「カストリ」……!?
今回は、ホルモンをつまみに
はじめての「粕取り焼酎」を味わってみた!
舞台は埼玉県秩父市
ここは埼玉県秩父市にある「西武秩父駅前温泉 祭の湯」。
毎年、紅葉の季節に訪れているが、過去には「ホルモンの唐揚げ」に初めて出会うなど、貴重な体験をしている場所だ。
「祭の湯」は、駅直結の複合型温泉施設。巨大なお土産物販店とフードコートも併設している。そして、いつも私に「初めて」と「学び」を与えてくれるのが、温泉施設内にある「秩父湯台所」だ。
と言っても、よくある健康ランドにあるような、いたって普通のお食事処だ。時間が限られている日帰り旅行でも、秩父の名物がひととおり試せるメニュー構成が売りである。
ドリンクメニューをめくっていると、秩父の酒に目がとまった。
「粕取り焼酎」と書いてある。
カストリ……。
どこかディープさを感じるこの響き……。
いつか聞いたことがある。戦後の混乱期に出回っていた「カストリ」と呼ばれる酒も、酒粕からつくられた焼酎だった気がする。
「粕取り焼酎」とは
「粕取り焼酎」とは、酒粕を原料にしてつくられた焼酎のこと。
一般的な焼酎の原料は、芋・麦・米などがあるが、米からつくる米焼酎とはまた違う。米からつくられた日本酒のしぼり粕を原料にした焼酎だ。
稲作が盛んな九州地方や、全国の米どころでつくられている。日本酒の副産物である酒粕を使うことから、日本酒の蔵元がつくることも多い。
調べてみると、戦後の混乱期に出回っていた「カストリ」とは、まったく異なる酒だとわかった。
◎ 「カストリ酒」とは
「カストリ酒」とは、終戦直後(昭和21年頃)から出回っていた「密造酒」の俗称だ。酒粕を原料に蒸留してつくる「粕取り焼酎」が語源だが、本来の粕取り焼酎とはまったく別のものだ。
密造酒のカストリは、甘酒麹と蒸米と水を混ぜて発酵させたドブロクを、あり合わせの道具でつくった蒸留器で蒸留する。素人がつくるので、品質も悪い。終戦直後は、食糧不足が深刻化。原料も食用へ優先され、酒は貴重な存在だった。ヤミ市には、安価なカストリを出す飲み屋が、無数に立ち並んでいた。
なるほど納得。ディープな飲酒文化は私の得意分野だ。しかし「カストリ」という響きに、まだ、気持ちがざわつく感じがする……。
なんだこの感覚は……。
そうだ「カストリ雑誌」だ!
◎ 「カストリ雑誌」とは
「カストリ雑誌」とは、同じく終戦直後(昭和21年頃)、出版自由化を機に多数発行された大衆向け娯楽雑誌だ。粗悪な用紙に印刷された安価なエログロ雑誌で、3号で休廃刊になる(つぶれる)ことから「3合飲むと悪酔いしてつぶれる」というカストリ酒にかけて、そう呼ばれた。
主に、赤線などの色街探訪記事、猟奇事件記事、性生活告白記事、ポルノ小説などで構成される。当時は大ブームとなり、戦後のサブカルチャーに与えた影響も大きいといわれる。
そうだ……。かつて赤線・青線地帯だった亀戸のディープエリアを調べていたときに放たれていたあの感じ。昭和の妖しげな裏文化。カストリという言葉から感じていたのは、このディープさだ。
・・・
あれこれ考えていると、
清らかな、水のような、それ以上に透き通った酒がやってきた。
水割りではなくロックで注文したが、想像以上にたっぷりと注がれている。こんなにたくさん飲ませてもらっていいのか!?
ひと口味わってみると、強いアルコール感。
でも、甘みがある。
秩父路の銘酒「武甲政宗」醸造元ならではの、上質な酒粕を原料に使っているとのこと。日本酒の酒粕と言われれば確かにそうだ。日本酒に共通するような味わいを感じる。
これが「粕取り焼酎」なのか!
事前知識では「独特な味わい」と表現されていて、もっとクセが強いと思っていた。粕取り焼酎の歴史には「独特の香りが時代の嗜好に合わず、製造を撤退する蔵が相次いだ」という話まであった。
しかし言うほどクセはない。
むしろ、甘くてまろやかで、飲みやすいじゃないか!
「ホルモンの唐揚げ」と合わせよう!
これがなくちゃはじまらない。
「ホルモンの唐揚げ」の登場だ。
「ホルモンの唐揚げ」は、豚大腸に片栗粉をつけて、カリッと揚げたもの。ホルモンといえば、焼肉、モツ焼き、モツ煮込みなど「焼く」か「煮る」が定番だ。それを「揚げる」とは! 初めて食べたとき、そうきたか! と、度肝を抜かれてぶっ倒れた。思い出の一品だ。
モツに下味がしっかりついていて、噛めば噛むほど味が出る。一年ぶりの訪問で、改めて味わってみると、ひとつ気づいた。
この下味は「味噌」だ。
甘めの味噌で煮込んだモツに衣をつけて揚げたような感じ。モツ煮込みのモツだろうか? 味噌だれに漬け込んだホルモン焼きのモツにも似ている。味噌を使った甘い味付け。これはまさに秩父ならではの味だ!
◎ 秩父は、甘い味付けの味噌料理が名物
秩父は味噌が名産だ。代表的なご当地グルメ「みそポテト」は、一口大のふかしたジャガイモを天ぷらにして、甘めの味噌ダレをかけている。
田楽の味噌も、濃厚で甘めの味付け。秩父味噌と砂糖や酒を煮詰めた、甘じょっぱさが特徴だ。
秩父の郷土料理はもちろんのこと、ホルモンの唐揚げにも、ご当地の味をしっかり踏襲している。さすが「秩父湯台所」だ。秩父の味を楽しんでもらおう、というコンセプトからブレていない。
大判でカリッと揚がった豚ホルモンは、粕取り焼酎と相性抜群だ!
副産物が織りなす、食のサブカルチャー
「粕取り焼酎」は、日本酒の副産物である酒粕を原料にしてつくられる。家畜の副産物であるホルモンにも、どこか通じるものがある。
ついでに「カス」という言葉にも親しみを感じる。
ホルモン料理には、牛小腸から油脂をしぼり取った残りカス(あぶらかす)をトッピングした「かすうどん」がある。粕取り焼酎同様、副産物の極み。「カス」が織りなす、食のサブカルチャーだ。
副産物からつくられる食文化。
これほどまでに、心を揺さぶられるものはない。
これからも「学び」と「初めての味わい」を求めて、飲みに出かけるぞ!