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世界遺産とSDGsを考える③ ~完全性で遺産を守るのは限界か~

【完全性が遺産の登録条件】

完全性とは、全ての世界遺産に求められる概念で、世界遺産の顕著な普遍的価値を構成するために必要な要素が全て含まれ、また長期的な保護のための法律などの体制も整えられていることが求められる。完全性を証明する条件として、具体的には次の3点が作業指針に記されている。

①顕著な普遍的価値が発揮されるのに必要な要素が全て含まれているか。

②遺産の重要性を示す特徴を不足なく代表するために、適切な大きさが確保されているか。

③開発あるいは管理放棄による負の影響を受けていないか。


「文化遺産」では、遺産の劣化の進化がコントロールされていること、歴史的な街並みや文化的景観のような生きた遺産の特徴や機能が維持されていることなどが求められる。

一方で、「自然遺産」は、生物学的な過程や地形上の特徴が比較的無傷であることが求められ、世界遺産登録範囲内での人間の活動は生態学的に持続可能なものである必要がある。加えて自然遺産では、登録基準ごとに完全性の条件が細かく定義されており、滝を中心とした景観の場合は隣接集水域や下流域を含むことや、渡りの習性をもつ生物種を含む地域では渡りのルートの保護も求められることなどが作業指針に書かれている。


MAB計画(人間と生物圏計画)は、1971年にユネスコが立ち上げた研究計画である。生物多様性を保全するための地域として「生物圏保存地域」を定めている。生物多様性を①核心地域(コア・エリア)、②緩衝地帯(バッファー・ゾーン)、③移行地帯(トランジション・エリア)の3段階の区域に分けて重層的に保護している。

コア・エリアは、生物多様性を保全する区域そのもの。バッファー・ゾーンはその核心地域の周囲に保全を妨げる活動を制限する地帯。トランジション・エリアは、さらにその周囲に保全を基調とした持続可能な社会経済開発ができる地帯である。

世界遺産条約は、このコア・エリアとバッファー・ゾーンの概念を援用し、2005年には、自然遺産、文化遺産双方において厳格に求められるようになった。一方で、トランジションエリアの概念は採用していない為、近年は、バッファゾーンのすぐ外側での森林伐採や、都市開発などが大きな問題となっている。


【危機遺産に「ウィーン」が登録?】


世界遺産の中で「危機遺産」とは、危機にさらされている世界遺産リストに登録されている遺産を指します。

世界遺産リストに登録されている遺産が、重大かつ明確な危機にさらされており、その脅威が人間の関与により改善可能であること、保全の為には大規模な作業が必要であること、などに加え、世界遺産条約に基づく援助がその遺産に対し要請されている場合、世界遺産委員会はその遺産を危機遺産リストに記載することができる。

「世界遺産の顕著な普遍的価値が損なわれた」と判断された場合は、世界遺産リストから抹消されることもある。

オマーンの「アラビアオリックスの保護地区」は、オマーン政府が天然資源搾取のために保護地区を90%削除する政策をとったことにより、危機遺産リストに記載されることなく、2007年に世界遺産リストから抹消された。

また、ドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」は、住民投票での生活の利便性を向上するためにエルベ川に近代的な橋を建設することが決定し、景観破壊の懸念から危機遺産リストに記載されたが、橋の建設が開始されたため、2009年に世界遺産リストから削除された経緯がある。


そして、今話題になっているのが、ウィーンの景観問題である。ヨーロッパを代表する街並みに今何が起きているのだろう。

実は、そこに暮らす人々の伝統と現在の生活のはざまの中での葛藤があるのです。もちろん伝統を後世に受け継いでいくことの重要性はよく理解されているのですが、現在の生活に合わせた機能性重視の街並みに一部改修するのは悪くはないと感じているからでもある。

まさしく、歴史の中で変化し続けているのだから、現在から未来への街並みが変わっていくのも、ごく自然の流れであることも理解できる意見である。

世界遺産であるウィーン歴史地区の空き地に、高さ約66mのビルが建設される計画が明らかになった。歴史あるコンサートホールの前に高層ビルが。この計画にユネスコが反発した。ビルが景観を損ねるとしてウィーンを「危機にさらされている世界遺産」に指定、ことによっては世界遺産でなくなる可能性も。ウィーン市の職員は「確かに景観は一部損なわれるが、ウィーンは変わり続けなければならない、街は博物館ではない」と語った。現在は、ビルの建設計画はいったん中止となっている。



【日本では「京都」の景観が問題に】

京都市内に高層ビルがないのはなぜでしょうか。これは京都という町が「景観」を重要視し、高さ規制をしているからです。単純に歴史的な建物が多く、近未来的な高層ビルが事実上似合わないからという理由が大きいでしょう。

経済面でみると、マンションやオフィスビルの高層化ができれば、当然それだけ人や企業が増え、京都市にとっても税収アップにつながりますし、人口が増えれば町が活性化します。

しかしながら、京都市は最大でも31mという高さ規制を設け、さらに、厳しい看板条例などもあります。京都というブランドを維持していくために。

しかし。

今現在現存する建物で、31mなんか軽く超えている建物があります。京都駅で降りて、目の前にそびえ立つ「京都タワー」。建設時は反対もあったようですが、パリのエッフェル塔と同じく今は京都のシンボル的存在となっていますね。

景観を守る規制には、問題もあります。

・財政的な支援を伴わずに土地建物の所有者に制限のみを課すため,きめ細やかな対応には限界がある。
・周辺の住民や建物所有者の協力が必要だが,世界遺産のバッファゾーンであることを知らない住民や事業者が多い。
・現行の景観政策の「線引き」とバッファゾーンが必ずしもリンクしていない。 

世界遺産登録の維持と、インバウンドなどへの対応を迫られる日本有数の観光地としてのプライドをかけて、観光立国日本のリーダーとしての見識を世界に発信してほしいと思います。

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