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【挿絵あり】№29_召喚術の授業は××な魔物と、 …過去を引きずる人に贈る、ヒーリングBL…

【月下美人系魔物 VS 安全第一なぼっち学生】の召喚契約を巡る攻防を描く、現代的で現実的なファンタジー召喚BLです。


 
サラ……、パラ…サラ……

ベッドに寝かされた僕の黒髪を確かめるように触る、白く美しい指。
だが指の持ち主は眉間にしわを寄せ、依然厳しい顔をしている。汚れはすっかり落ちたというのに。

 
「何故、私を呼ばなかった」
髪を見つめたまま魔物がポツリと呟いた。

「え?」
「…最初の日に言っただろう。契約を結ぶ気がなくても、何かあれば呼べと」
(そういえば、そんなこと言われてたな…)
ただ花達に襲われてからはいっぱいいっぱいで、全く思い至らなかった。
正直にそう打ち明けると、魔物は僕の目を覗き込んでガッチリと視線を絡ませた。

「いいか、もしまた何かあったら、次は必ず私を呼べ。
 絶対に忘れるな…!!」
「は、はいぃぃっ」
念を押すように僕をギラリと睨みつけた後、ペリドットの瞳は視線を彷徨わせた。

「…お前が早く私を呼んでいれば…いや、私がもっと早く気づいたら、そもそもあの空間を外に作っていれば…」
そうこぼしていた魔物は僕の首元を見止めて、なぜか眉間のシワを深くした。
「お前をあんな目に遭わせることはなかったのに…」

魔物はそのまま僕の首を見つめながら、指先でそっとそこを撫で続けた。
表情は変わらず険しいままだが、先程よりは雰囲気が凪いだように見えなくもない。

 

だがその内側では重暗い感情が渦を巻いているのではないか、と僕は思った。
そう感じたのは、たぶん自分も似たような思いをした事があるせいだろう。
魔物の様子は、過去の自分を…安易に考えた結果、2度目の死の引き金を引いた自分を思い起こさせた。

 
――この魔物は今、深く後悔している。
  僕が酷い目にあったことに対して自責の念を抱き、心苦しく思っている

これは間違っているかもしれないし、自分がただそう思いたいだけかもしれない。
魔物の方も単に管理体制の不備があったことを悔やんでいるか、僕の魔力の心配をしているだけかもしれない。
けれど。

”力のない者は好き勝手に弄ばれ搾取されるのが、摂理”
自分自身でさえ、そうやって仕方のないことだと思おうとした温室での出来事。
それを多少なりとも憂いてくれる存在が、目の前にいた。
その事実に、僕は胸がいっぱいになってしまった。

契約を結ばせるための演出かもしれない、と理性は諌める。
それでも感情は溢れ出して、止まろうとしなかった。
 

「!? っお、おい、どうしたんだ?痛むのか?思い出して恐ろしくなったのかっ?!」
「…っだ、大丈夫です。なんでもな」
「ないわけ無いだろう。…確か人間は触れ合うことで、不安や恐れを緩和したりするのだったな…」
 
そう言って魔物は、僕をゆっくりと抱きあげて寝台の少し奥へと横たえた。
そして今度は自分もベッドに潜り込む。その行動に何度か寝かしつけられたことを思い出すが、今回はなんだか密着度が高い気がした。
不思議に思っていると、壮麗で気高い自称・領主様は次のように仰った。
 

「光栄に思えよ。人間風情が私を抱き枕にできることを」
しかも、ドヤぁという効果音まで背負っていそうな言い様である。
…こ、これはどう解釈しても、全人間風情が困惑必至な現象であった。

「え、あの、いや」
「ほら遠慮するな、私をコケにする気か。お前には休息が必要なのだから、早く眠れ。」
と魔物は自称・抱き枕のくせに、僕を抱きしめながら眠りを促した。

(お……こ、こんな風に抱きしめられるのなんて、いつぶりだろ…)
初等学校の2、3年生以来だろうか。
滅多にない他人との密着具合に戸惑い緊張し、ついモゾモゾしてしまう。
しかも相手は自称・月桂樹の魔物であらせられるのだ。こんな状態で寝れる訳がない…

そう思っていたが、慣れるのは自分でも意外なほど早かった。
(…この人、なんか森みたいな香りがして、落ち着く…)
例の馴染みあるようなほっとする感じも、香り由来だったりするんだろうか…?
そんなことを考えていると、フワフワとした眠気がやってきた。
しかもそいつは悪いことに、僕の遠慮や自制心を遠くへ追いやってしまう。

虫けらのように蹂躙された心と体の震えは、まだ止まっていなかった。
誰かに縋りつきたい欲をずっと訴えていた。
そしてとうとう僕はそれを抑えられなくなって、おずおずと枕に抱きついた。
すると応えるように背中に回った腕が揺れ、ひんやりとした手が優しく背をさすってくれた。
(木の、ゆりかごみたいだ……)

魔物の腕の中は、悔しいくらいに安心できる場所だった。
自然とせり上がってきた雫を隠すように、僕は彼の胸に顔をうずめた。
そして眠りへと沈み込んでいった。
 
 


今回はここまでにします~
ではまた~ 

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