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「書きたいのに書けない」ときに手にしてほしい一冊

書く仕事をスタートさせてからというもの、文章の指南書をたくさん手にしてきました。「書き方」を手引きする書籍は、大型書店にでも行けば本棚の一角を埋め尽くすほど存在しています。

・もっと速く書くには?
・そもそも書き始めはどうすればいい?
・この文章で本当に伝わるのだろうか
・おもしろい文章を書けるようになりたい

など、悩みは尽きません。

計り知れない量の文章を書いてきた作家やコラムニストがまとめた本からは、多くの知識や方法論が得られます。たとえ「自分がすでにやっている」ことでも、書籍を出すような人と自分の流儀が一致すれば、それはそれで自信になります。

冒頭文でいかに読者を引きつけるか。速く書くための心得とは。一文のちょうどよい長さって? そして文章は構成が命……

しかしながら、こうしたプロが研磨した文章術を「なるほどね」とすぐに自分のものにすることなど、できるはずもありません。もちろん、今すぐにでも実行できる簡潔な手法もありますが、それだけでは到底到達しないのが、「魅力ある文章」というものです。

私は、ノウハウをインプットするのと同時に、自分がのびのびと書けなくなるジレンマも抱えるようになりました。著名な作家から得たエッセンスをなんとか生かそうとタイピングしているうちに、いつしか「うまく書く」ことに執着していたのです。

そこから脱するきっかけとなったのが、『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』でした。

考えてみたら、特別な理由がない限り、日本人なら当然のように日本語を滞りなく「話す」ことができます。しかし、どうして「書く」となると、こうも難儀になってしまうのか。

一つのセリフにこだわり抜き、人々の心を揺さぶり続けた小説家/劇作家の井上ひさしさんが、日本語の特徴や、人間の「記憶」のメカニズムも踏まえつつ、多くの人がトラップにはまるポイントをわかりやすく解説しているのがこの本の特徴といえるでしょう。

具体的でありながらあえて余白を残した指南は、例えるなら、刺身の切り方を教えるために、「刺身包丁の使い方」ではなく「刺身の断面がいかに味を左右するか」を伝えるような内容です。だから、読後すぐに「書くこと」を試してみたくなりました。

『「必ず文章が間違った方向へ行く言葉」を、実はみなさん、たくさんお使いになっている。』
『みなさん、まず下書きを書きますよね。そうすると、だいたい前のほうはいらない。』

優しい語り口で導く井上ひさしさんがそこにいるかのよう。ノウハウはもちろん、文学的な要素も含めて語られていて、とても読みやすい一冊です。


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