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つながり、関わり、場のチカラ―とやまルポ【後編】 2019,Autumn ver―

11月15日、二日目・晴天の朝 中川さんに会いに行く。

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    富山滞在2日目の朝、目を覚ましたのは6時前。ぐっすり眠ったようで、体がとても軽い朝。ふと玄関を通ると、昨夜折りたたんでおいた私の傘が広げて干されていました。すどまりとなみ・オーナーの川向さんのさりげない気配りに、朝から気持ちがホカホカしてきます。8時すぎ、美味しい朝ごはんを頂いて、みんなで記念撮影をして、川向さんとはお別れです。
 築148年の古民家を改修した「すどまりとなみ」。外にはトトロを形どったピザ窯も。絶品ピザが焼けるのだろうな。とてもとても、素敵な宿でした。

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 お昼前からアルバイトがあるという大学院生の萌ちゃんを砺波駅へ。昨夜みやの森カフェの「介護おしゃべりカフェ」で、私だったら躊躇してしまいそうな質問を、ためらいもなくスッと聞いていたのは萌ちゃんです。卒論に取り組んでいた大学生の頃、ドキドキしながら色んな人にインタビューをした頃の自分を思い出していました。
    一緒に時間を過ごせて良かった。萌ちゃんに引き合わせてくれた鷲北さんにも感謝でした。

中川さんの、思い

この日の訪問先は、富山市にあるミックスベリーです。児童発達支援、放課後等デイサービスやボランティアによる”いいとも広場“などの運営を始めたばかりだという、管理者の中川博司さんに会いにいきます。

  中川さんは、富山型デイサービスの生まれ先「このゆびとーまれ」で13年半勤めていました。

お会いする前に中川さんとはフェイスブック上で繋がることができ、 7月30日中川さんの【ご報告】と題した投稿を読んで、私は感動してしまっていたのです。だから中川さんにお会いするのを、とても楽しみにしていました。
 許可を得て、転載します。

  この度、13年半お世話になりました「このゆびとーまれ」を退職させていただくことになり、皆様にご挨拶させていただきます。
 一年前には退職願を出し、引継ぎ等の準備をし、今日を迎えることができました。

 過去を振り返りますと、14年前、私は「このゆびとーまれ」に憧れ、以前の職場を退職し、夢を追い求めた時期がありました。
当時は、地元で関係機関や商工会、議員の方などとも話をし、起業へ向け具体的な一歩を踏み出せそうなところで、勇気が持てない自分がいて、 結局、話を白紙に戻したという経験をしています。
 言ってみれば、恥ずかしい話ですが、煮え切らない男がこのゆびに身を預けたといった状態でした...。

 あれから13年半。
 このゆびに就職した時、惣万さん達にいただいた言葉を、今思い出します。

 「いっしょに感動しましょう。」

 なんて、心おどる言葉でしょうか。その日からは、ただただ夢中で働きました。
 目の前のことに全力で取り組む。
やり過ぎと言われようが、行儀が悪いと言われようが、子ども達やじいちゃん・ばあちゃんらと、とことん向き合いました。
そして、一生懸命働くなかで、職員同士でお互いの持ち味を出し合い、笑い合い、助け合い、時にはぶつかり合う、心地よい時間が流れていっていたように、あの頃を思い出します。
人と向き合うことの素晴らしさを肌で感じた毎日でした。

さて皆さん、今どんな思いで仕事をしていますか...。
5年10年先の自分をどのように思い描いていますか...。

美しい立山連峰を眺めながら、驚きの圧巻的空間へ

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 この日は快晴。車窓から、砺波市内の風景を楽しむことができました。遠くの山々は雪をかぶっています。さすが北陸。私の地元・香川よりも秋はグッと進んでいました。あたたかくて美しい“秋色”を纏っている山や木々。富山市内が一望できる一帯に差しかかったとき「すごい…」と思わず声が漏れてしまいました。それほどに、3000m級の山がある立山連峰はキリっと美しかったのです。

   風景への感動に巻かれながら、砺波から40分ほどで「ミックスベリー」に到着しました。

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   後から聞いて驚いたのが、その広さ。なんと1400坪の敷地だったのです。古民家も気になりますが、まずは新築の建物へ。放課後等デイサービス「ミックスベリー」です。

経験と思い、「余白」の意味

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   中川さんのこれまでの経験が設計に随所に活かされている建物です。いろんな使い方ができるよう仕掛けがありました。例えば大きな部屋は間仕切りもできるようになっています。個室もあるのは「聴覚過敏な子どもには、個室が必要なんですわ」とのこと。
壁には、『こんな思いを集めたい』という付箋が掲示されていました。スタッフ個人の思いや子どもの思いが綴られているそうです。

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  さて、放課後等デイサービスは10人定員で10月にオープンしています。
 「国の法律が変わったことで共生型に取り組みやすくなりました。いくつかの選択肢がありますが、今後ここで障害のある人向け、成人の生活介護の展開もあり得ます。また、介護保険の指定を取るには、デイサービスであれば静養室が必要です。この個室は静養室としても活用できるがです」
”次の展開“も見据えた間取りになっていることに驚きます。
   鷲北さんの、“ささえるさんの家となみ”のこともあって、鷲北さんも制度の話に興味津々。中川さんは話します。
「法律が変わったことで、いろんな立場で、いろんな人が福祉にチャレンジできるようになったがです。昨日出席した研修でも『既存の福祉サービスの視点では限界が来ている。地域をどうつくっていくか』という話が出ていました』
  トイレの手すりは必要最低限。非常にシンプルな造り。トイレにしては広すぎるのではないかと思われるほど。
 「知的障害や多動のある子どもさんは、オムツをしていることもあります。広ければオムツ交換もしやすい。また、物があると 壊してしまうこともある。余計なものはないほうがいいがです。広いからこそしっかりケアができるんです」
   なるほど。
   建物はL字型。このL字型に中川さんの思いが込められていました。個室からは、子どもたちの遊ぶ大きな部屋や縁側、中庭が見えるようになっています。

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  「お年寄りと子どもの関わりの場面で、いいものがたくさんあるのは事実です。ですが、夏休みなど子どもたちがたくさんいて、元気な時間が続いてしまうとお年寄りにとっては苦痛な時間に変わってしまうのです。関わりたいときは関われる。離れたいときは離れられる。それが大切。個室で目を覚ましたら、子どもたちが楽しそうにしている。遊びに行ってもいい。眺めるだけでもいい。ゆるやかに関われることがいいんですわ」
  今は干し柿が吊られているデッキは夏場にはプールを置くそう。芝生スペースも設けられています。
「視覚障害のある子どもには裸足がいい。芝生の感覚は気持ちが良いようです」
案内を続けてくれる中川さん。靴を履いていよいよ一番のこだわりスペースへ。
 それは入口すぐ横にあるカフェスペースです。土足のまま入れます。

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 「こういった場所(放課後等デイ)ではお迎えに来られたお母さんが玄関で待っていることが多いんですよ。だから靴を履いたまま、ここで座って職員と話したりしてもいい。一方で、お母さん同士のつながりが生まれる場としても期待しています。デイサービスとして、利用者や子どもだけがくつろぐのではなく、家族もくつろげる場所としてのカフェ。さらによく聞くのが、土日にサービス利用できる場所がないということ。ここであれば、お母さんたちはおしゃべりしながら遊ぶ子供たちを見守ることができるんです。日当たり・見渡し・風当たりが一番良い場所にカフェスペースがあるとですよ」
 この思いの強さには脱帽なのでした。

 築150年、元村長さんの家 生きてる家。ここから何が生まれていくのか。

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   1400坪。数字を聞いただけではその広さが実感できないと思いますが、見渡す限り、ひとまず法人の敷地だと言えましょう。古民家入口手前には、中川さん手作りの“ボール流しの遊具”があり、実演してくれました。これはハマりそう!奥にはツリーハウスのようなものも。中川さんが入口のドアを開けてくれました。

共生の場。居場所。

「いいとも広場」です。

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  中に入ると、あまりにも立派な神棚が飛び込んできました。
 「築150年の元村長さんのお宅で、このあたりでは一番大きい家だったと聞いています」中川さんが語り始めます。

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「先日、ここの間(ま)でも語り合ったのですが、国際交流を福祉の分野でやりたいと考えているがです。2025年には福祉業界で約38万人の人材不足が言われています。外国人労働者を受け入れなければ成り立たないでしょう。外国人との共生、外国人人材を招き入れることの重要性を話していきたいんですよね」
 かつてJICAの活動で、インドネシアで福祉に関わっていたとのこと。中川さんは国際交流への関心が高いようで、インドネシアの福祉施設で作られたバッグなどが展示されていました。
 「この本、差し上げます!読んでください!」
 頂いた本のタイトルは『フィロミナの詩がきこえる マレーシアで25年平和と福祉を考える』。著者は、グループホームの創設者のひとり・中澤健さんと妻の和代さん。
 「いま、徳島で暮らしていらっしゃいますよ」
 徳島は私の地元、香川の隣県。会いに行けたらと思った私。後日、中澤夫妻への“訪問”へつながることになります。
 さて、家のなかは、立派な家具も幾つか見られます。
「介護用のベッドとか、高価だったというテーブルとか、ほとんどが頂き物なんですよ。この机をくださった方は『これもいらんから』と金の屏風もついでに付けて下さったんです」と中川さんは笑います。
 縁側には、たくさんのおもちゃが置かれていました。

“おもちゃ図書館”から始まること “もったいない”の、可能性

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「これらは社協がやっていた『おもちゃ図書館』からの寄贈なんですよ」
 やっていた…ということは、今は閉じている。
 「もともと、障害のある人、そうでない人も垣根なく遊べるようにと誰にでもおもちゃを貸出していたのですが、だんだんと利用者が減っていったんです。どこの自治体もそうですが、現在は生活困窮者への支援に力を入れ始めているんですよね。予算の関係もあるのでしょう。おもちゃ図書館の閉園が決まってしまった」
 行き場所を失ったたくさんのおもちゃ、備品。一方、地元社協の『おもちゃ病院』の事務局に携わっていた中川さん。おもちゃの行き先は決まりました。
 「シルバー世代に活躍の場が必要と考えていて、男性でもできるボランティアって何だろうと考えたとき思いついたのが、当時すでに東京で行われていた『日本おもちゃ病院協会』の活動でした」
 工学部出身という中川さん。その学びや知識がJICAでも、おもちゃ病院でも活かされることになります。
 「昔のプラスチックって質がいいんですよね。直しやすいし、長持ちするがですよ」
 “懐かしい”キャラクターのおもちゃもありました。今や作られていないであろう、木材の玩具もあります。
 古民家もそうですが、昔のものの質の良さって何なのでしょうか。確かに壊れにくく、構造もシンプルだから直しやすい。
 「“もったいない”をテーマにすると、いろんなことができるんです。“やることがない”っていうおじいちゃんの元気ももったいない」
 中川さんは、色んなことを深く考える人、周りをよく見ている人でした。
 「まだ手付かずの部屋が6、7部屋あるんですよね…」

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   とにかくも、大きな家。長年空き家だったこともあり、修繕が必要な箇所が多数あり、家のなかに植物が生えているのも見受けられますが、スタッフによるDIYで修繕は現在進行形で進んでいます。

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DIYが得意なスタッフが多いようで、”段ボールらんど“と名付けられた部屋にはDIYによる”遊び場“がありました。部屋の奥を進んでいきます。廊下の突き当りには一脚の椅子と小さな本棚。
廊下の突き当りを曲がると「おもちゃ病院」ののぼりが置かれている部屋です。

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工具類も置かれているその部屋は、外に面していて子どもが遊んでいるついでに部屋に入ったり、おもちゃの修理の様子をのぞいたりできるようになっていました。「機械好きの子どもも、意外に多いがですよ。修理している姿を眺めるだけでも案外子どもは時間を過ごせるんです」
 電力会社に勤めていたというスタッフの作業服もかけられています。

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「おじいちゃんだって多世代交流をしたい。自分が直したおもちゃを子どもが遊んでいる姿を楽しみにしているんです」
 ソファーも置かれていました。
 「例えば、ひきこもりの子が本を読んでいてもいい。おじいちゃんたちのおもちゃを修理している姿が気になったら混ざってもいい。気になっている、ひきこもりの高校生がいて、その子を引き受けたいんですよ。ここはいろんな人が集まるから…。ただね、ここが最終点ではないがです」
 中川さんの描く”共生の場“。これからどんな色が混じって、どんな”場“になっていくのでしょうか。言えることは、中川さんが生み出す場を必要としている人がいて、”救われる“と言ったら語弊があるかもしれませんが、そんな人たちがいるであろうということです。多くの人に、中川さんの思いが届いて欲しいと思わずにはいられませんでした。
 時計を見れば12時をまわっています。12時53分発の砺波駅発大阪行きのバスに乗らなければなりません。

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もっともっと、たくさんのお話を伺いたい人でした。
 「また来ます!」

 「また来ます!」を何度も。富山という地が好きになる。

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こうして富山滞在は終わりました。1、5日という短い時間は、濃密そのもの。こうして、文を綴っていて『あるひとつの、とても素敵な“ものがたり”を生きた時間だった』とも思うのです。
訪れた場所、出会えた人すべてに感謝の気持ちでいっぱいでした。居心地の良さに満ちた時間。それは鷲北さんの案内が、心こもったものだったからに違いありません。
 また来ます!と何回言ったことでしょう。
 そしてFacebookを通じてまだ出会っていない人たちから「次回はここへ!」「(私に)お会いしたい」と言って下さった方もたくさんいらっしゃり、私はとても嬉しい気持ちになったのでした。
 富山という地に、ラブレターを送りたくなりました。

 Special Thanks 鷲北裕子さん

   未来の、「ささえるさんの家となみ」

  Special BGM 『SlipCover』 JMMY WEBB


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