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クールなピボット - 【開封率第9位】2020年5月25日のニュースレター

私は毎朝、ニューヨーク・ロンドン・パリ・ミラノ・東京から生まれる約1000記事をチェックして、週2回、ニュースレターを書いています。
2019年10月8日から始めたこのDearmedia Newsletter、丸一年が経ちました。
そこで、1年間を通して開封率が高かった内容を限定公開していきます。

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このパンデミックの期間に、事業の方向転換を余儀なくされたり新しいことを始めたりした企業は、世界中で一体どのくらいの数にのぼるのでしょうか。

ディオールやフェラガモなどの高級ブランドがこぞってマスクを作り、多くの飲食店がデリバリーやテイクアウトを始め、まったく違う業界に参入したスタートアップもありました。

企業が事業転換することを「ピポット」と言いますが
これは英語の「回転軸」という意味です。

一つの軸をくるっと回すと、別の側面が見えて、新たな可能性が広がります。そのためには、その”軸”がしっかりと刺さっている必要があります。

今日は、ダラスにある小さなブックカフェ、The Wild Detectivesがピポットし200%も売上を上げた物語をピックアップします。

The Wild Detectivesの軸とは
いったいどのようなものだったのでしょうか?

【本日のピックアップニュース】

小さな書店は、文学的なひねりを加えた旅行代理店になりました。

地元から愛されているブックカフェ「The Wild Detectives」の店主がFacebookに以下のような投稿をした時、彼らのファンはショックを受けました。


『親愛なる友人たちへ
悲しいお知らせをしなければなりません。
現在の状況下で, The Wild Detectivesは存続することが難しくなりました

今日から私たちは旅行代理店としてシフトします。

これはあなたにとってショックかもしれませんが
今、誰もが旅行したがっていると聞きます。

私たちはすでに、素晴らしい国内外の旅行先の情報をサイトに上げています。リンクをクリックして、旅行の準備をしましょう! 』

これを見たThe Wild Detectivesのファンは
「どういうことだ?どこの誰が今この時に旅行代理店を始めるんだ!?」と戸惑いましたが、サイトに行くと、それが本について話していることに気が付きました。

この投稿に対して、250以上のコメントが付きました。

「リンクをクリックするまでは涙が出そうでした。」

「長い夜の会話、良い音楽、素晴らしい雰囲気、そして素晴らしいラテをありがとうございました。」

「閉店は禁止だよ!」


“文化を養い、対話する”ことを目的に、300以上ものイベントを本屋で行ってきたThe Wild Detectivesは、ダラスのほとんどの企業と同じように閉店を余儀なくされたとき、オンラインのみのビジネスに移行しなければいけないという困難な課題に直面しました。

そこで店主たちは、過去に行ったキャンペーンの中に「14ドルでバルセロナ」といった、書籍を旅行に見立てた広告があったことに目をつけ、パートナーである広告代理店に相談しました。

そのコンセプトを拡張するために、一見すると旅行予約サイトのように見える「Book a Trip」のウェブサイトが生まれました。

旅行予約サイトと違うところは、行き先を入力するとチケット価格のページが表示されるわけではなく、それぞれの都市について書かれた本の紹介ページに行くことです。

※「東京」で検索すると村上春樹の3冊が、
「京都」で検索すると三島由紀夫の1冊がヒットしました。

Book a Tripのオープン以来、オンライン販売が200%増加しました。

「このキャンペーンは、私たちの期待以上の成果を上げただけでなく、これまでにない最大の危機の真っ只中で、楽しく積極的な方法で、多くのパトロンと再会することができました。」とオーナーであるJavier Garc?a Del Moral氏は言います。

「必要とされる経済的なリターンはさておき、キャンペーンに対する感情的な反応は、私たちがこれまでに受け取った中で最も実りあるメッセージでした。」


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この物語を本当に理解するには、The Wild Detectivesがどんなブックカフェなのか理解しておかないといけません。

この書店兼バーは、オーナー2人の10年間の友情から生まれました。

2人はいつも、本とお酒というふたつの情熱を混ぜ合わせることができる空間を望んでいました。

何年にもわたる話し合いの結果、彼らはその会話を実現させるための十分な無謀さを持っていたので、2014年2月の最終日、初めて扉を開きました。

以来、300以上の文学・文化イベントを企画し、ビールと同じくらいの数の本を販売してきました。

ビジネスは急成長を遂げ、メディアからの注目を集めました。

Dマガジンの2014年、2015年、2016年のベストブックストアに選ばれ、
アメリカン航空の機内誌では、他の書店とともにアメリカのインディー書店の急先鋒として選ばれています。

The Wild Detectivesでは、人々がお酒を飲んでお互いに話し、心を開いてアイデアを共有し、スマートにたむろして、新しい現実を切り開くような場を提供しています。
彼らが標榜する”トーキングカルチャー”です。

The Wild Detectivesの目的は明確で、朗読、ショー、フェスティバル、演劇など、行うことはすべてこの考えに基づいています。

「会話がすべてです。」と彼らは言います。なぜなら「会話と人間関係、それが物語を作る原料だから。」

作家から読者、図書館員から出版社、書店員まで、彼らのこの純文学に何らかの形で関わっています。

どういうことかというと、このコミュニティでは、地域の独立した書店に期待されている本のキュレーションを一緒に行っています。

書棚から手にする本は、新刊であろうと、有名なタイトルであろうと、一般の人が見落としていた本であろうと、彼らが読者として信頼している誰かによって選ばれた、コミュニティが100%キュレーションしたセレクションになっています。

彼らはカルチャーを、クールでセクシーで魅力的な空間としてアピールすることで、誰もがカルチャーに親しみやすくなるような努力をしています。

本のプレゼンテーション、詩の朗読、演劇、ワインの試飲会、映画の上映会。そして何よりも、何時間もの会話を楽しめるようなイベントをたくさん開催しています。


東京で言うと、下北沢のB&BやBrooklyn Parlorのような
そんな居心地の良い空間にコミュニティやメンバーシップ特典をつけて、イベントを毎週開催しているような場だったからこそ、
「キャンペーンに対する感情的な反応は、私たちがこれまでに受け取った中で最も実りあるメッセージでした。」
というオーナーの感謝の言葉が出てきたのだと思います。


“文化を養い、対話する”ことが軸の書店で、単にオンライン朗読会や映画の同時上映会を催すのではなく、クールでセクシーで魅力的な空間、というオリジナリティに溢れるトッピングを忘れなかったからこそ、「Book a Trip」は話題になりました。

いま事業を新たに始めるのであればコミュニティを作ることを念頭に置け、と言われますが、このようにファンと直接つながり、ファンからフィードバックをもらえる環境をいかに心地よく提供できるかは、どんな事業でも、さらには人でも今後大切になってきます。

そのファンが、本当は求めていることは、オリジナリティに溢れるあなただけのトッピング。

そこを忘れずにいたいなぁと思うのです。

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