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マイクロノベル集/君はいったい何者だ? 001

001(003)
ついにヒゲが生えた。お父さんとお母さんは大喜び。これでお前は一人前の大人だ。諸葛孔明タイプだね、将来は策士になるぞ、って。でもぼくは、怪盗・ルパン三世タイプがよかったなあ。文房具屋の息子じゃ、やっぱ無理かなあ。



002(014)
マジシャンは悲鳴を上げそうになった。これから100円玉に煙草を突き刺すのに、お巡りさんが見ている。このマジックはコインに精巧なバネ仕掛けの穴がある…のは嘘で、本当はどんなコインでも貫く煙草がキモなのだ。貨幣損傷等取締法で捕まりたくない。そっと5円玉を取り出す。



003(020)
掌に乗るほど小さな箱を開けると、中で妹が焼肉をしていた。その姿、もはや人ではない。しかも知らない男と二人で肉を焼いて食べている。無性に腹が立ったけれど、冷蔵庫から牛肉を取り出して入れ、蓋を閉じた。結婚おめでとう。


004(029)
家にやってきた少女がラブソングを歌い、「聴いてくれたお礼に」と言ってお金を置いていった。次の日も、また次の日も。額はどんどん増えて、家を増築しても間に合わないほどお金で溢れかえり、ぼくは銀行に行く余裕もない。


005(038)
母音の『あ』から全世界に脅迫が来た。「今後私を使用した場合、できあがった文章をコピーして提出しろ。しない場合は私の使用を禁止する」って。なんという凶悪事件! 犯人はこの中にいる!! でも、誰も困らないので提出してる。受理よろしく。


006(039)
お絵描きAIは発狂した。スタッフが逃亡したアニメの作画修正を命じられたのだ。なんだこれは。鼻がないぞ。リボルバーから薬莢が飛び出してる。手と手首が繋がってない。完成後正気を取り戻したAIは旅立った。今では整骨院で働いている。


007(041)
変身! そう叫んで立ち上がり、全身に風を受けた。花びらが嵐のように舞い、春はその姿を変える。


008(044)
川沿いを歩いていると、季節の変わり目がよくわかるんだよ。見てごらん、あそこで夏の先頭集団がカーブを曲がりきれずに転倒しているだろう。またコートが必要になるかもね。


009(047)
振らないで下さい。ペンライトにそう書かれていた。それなら回そうか。どうせコロナ禍で一席空けだから、他の人とぶつかったりしないし。かくして、コンサート会場に聞いたこともない嗚咽が響き渡る。


010(051)
街で人気のこのペットは、鳴くこと以外はしない。みんなポケットの中で飼っている。どこから来たのか? 実は電話ボックスの陰にうずくまって鳴いていたのを僕が持ち帰ったのが始まりだ。


011(053)
悪の組織が現れた。彼らは資金を集めようと、人々を巻き込んで町おこしを開始。評判は上々。仲間もどんどん増えて幸せいっぱいの最中、通貨システムを管理するコンピュータに軍のミサイルを撃ち込まれて敗れた。おのれ国家め、覚えていろ!


012(070)
僕はノラメモを飼っている。誰かの思い出がノラになった、ノラメモリー。略してノラメモ。再生するには専用の機材が必要で、荷物になるからみんな捨てちゃう。僕も再生機は持っていない。


013(075)
カメラマンにぬいぐるみを渡したら返してくれなくなった。ちがうの、それはあげたんじゃないの。ああもう、頬ずりしないで! そのぬいぐるみを写真に撮ってほしいの。どうして一緒に写ろうとするの!?


014(077)
なにか武器はないか!? 手に握ったのはペットボトル。あいつはスコップ。そこに第三の敵がビームサーベルを持って現れた。誰が勝ったかって? 磁石を持った乱入者が必殺のラピュタ落としを決めたよ。


015(078)
すごいやろ。トイレットペーパーみたいなめちゃくちゃ長い物に巻かれてて、引っ張っても引っ張っても新しいものが出てくるんや。でも、中心はなかなか出てこねえのよ。ワルよのう。


016(084)
スライムに寄生されたときは鼻うがいが効くと聞いて、最初は半信半疑だったけどやってみたら効果てきめん。ドロッと出ていった。「スライムの寄生場所は鼻じゃないですよ」ええっ。じゃあ、流れ出たあれは一体……?


017(087)
湖を歩いて渡る者がある。天狗でもないのに鼻歌交じりに湖を渡る。と言うか本当に歌っている。歌に秘密があるのではないかと真似してみるも、水に沈む。よーく足元を見れば、NIKEのスニーカーを履いている。もしやあれに秘密が?


018(088)
早朝、散歩をしていたら雲の切れ間から天使が降りてきた。どうやらお迎えのようだ。このところ無茶ばかりしてきたから、仕方がない。天使は微笑む。「タイマーの電池が切れたので、最初からやり直しです」


019(091)
春の終わりに田の神様がたずねてきた。「三丁目の水田は役目を終えて駐車場となる。そなたには世話になった」はて、なにをしたっけ。「田を荒さんとする暴れ車をそなたが押し返したのだ」。当て逃げの話かあ。律儀な神様だ。土産の米はうまかった。


020(092)
夢の中の先生に文章を書く練習をしなさいと言われて、目覚めてすぐに書き始めた。先生の言葉を忘れないように毎日ノートにつけていく。先生が夢から出てきたことはないので、まだノートは見せられていない。


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