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マイクロノベル集 143 「あげる」

986
もしお疲れならこの椅子に座りませんか。いいえ、私はあの窓から街を見ていただけです。なにもできない私を見つけて、この椅子を作ってくれたのはあなたたち。でも、もし、この街にいてもよいのなら。私は椅子に座り、今日も街を見守りましょう。さあ、どうぞ。


987
「その箱は開かないよ。外で遊ぼうよ」うるさい。「そもそもその箱はとある夫婦が娘のためにね」うるさい。「口の利き方を知らねぇガキだな。いいぜ、持って行け。ただし条件がある。この先にそいつとセットの箱がある。必ず開けろ」その箱はまだ見つからない。


988
糸が見えます。ちょきん。繋ぎ直します。左手の小指から伸びる赤い糸は運命の相手と繋がっています。右手の小指から伸びる白い糸は魂を売った相手に繋がっています。むむっ、これはひどく絡まっている。ちょっと右足のドス黒い糸を切っていいかしら?


989
才能が落ちていた。ネコババしちゃおうかな。「落とし物を探しているんです」それはこれですね、お嬢さん。ああ、正直者のバカな俺。才能を身につけたお嬢さんは100メートル9秒台で走り去った。「で、その時に落とした靴を届けてくれた王子様と結婚したの」


990
夜風を求めてベランダに出たら先客がいた。月明かりに輝く黒い毛並みに惹かれて、持っていた桃を食べさせてしまった。「馳走になった。夜が明けたらまた来い」言いつけ通りにすると、絹のような手触りの黒いハンカチが。風に吹かせると笛のような音が鳴る。

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