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マイクロノベル集 153「彼女のささやき」

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「提案があります」天から下りてきた美しい天使が、ぼくが好きな子の髪型を整えて、飛び去る時にこっそりウインクした。うん、似合ってる。


1030
天の声が聞こえる、と彼は言う。「右です、右に行くのです」彼は右に行く。「山道です。足下に気をつけて」彼はゆっくり歩く。「さあ、闘いなさい。あっ」彼は野生動物に殴られる。「なかなか上手くいかないなあ。人間以外を選んだ方がいいのかな?」


1031
風よ吹け。彼女が空に向かって唱えると、ふわっとシーツが揺れた。その日、前触れなく発生した台風が街を直撃した。洗濯物は全滅した。


1032
船を沈めたことがある。ため池で、おもちゃの船を。学校で蛇口をひねると、その船がカチャンと流れ出てきた。「会いに来たよ」でも、あっという間に排水溝から流れてしまった。最近は海から手紙をくれる。星が綺麗だって。いつか星の海に行きたいって。

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