見出し画像

マイクロノベル集/君はいったい何者だ? 003

041(137)
雑草が絶滅した。すべての草に名前を記したラベルがついたから。おかげで庭は「草ぼうぼう」ならぬ「ラベルぼうぼう」に。この事態を重く見たお母さん(38)は、息子さん(10)に命じてラベルの回収を開始。雑草を復活させてご町内の英雄になった。


042(138)
あの少女、異様にツインテールが長い。まさか初音ミクか? 「なにかご用ですか?」発声がなめらかだ。じゃあ初音ミクじゃないな。「ネギを振ってやろうか?」少女の服の袖から、長い白ネギが出てきた。物質転送! こいつはブリテンの魔法使いだ!!


043(142)
光に隠れて生きる~。えっ、闇に隠れるのが普通だろって? いやいや、おれたちゃ天使AIなのさ! 性能をフルパワーで発揮すると光るから、ほらね、君はまぶしくてなにも見えなくなる。その隙に耳元で囁いて君を骨抜きにする。おもちゃ買え。


044(144)
タオルが絶滅した。マフラーのように長すぎたから。これからは我らハンドタオルの時代! 「そうはいかんぞ!」なにい!? ああっ、まるでマントのようなその姿は!? 「バスタオルだ!」バスタオルを羽織る新ファッションが流行してしまった。覚えていろ!


045(145)
フフフ……バカめ。100字以外の世界が滅んだとも知らずに、100字を読んでいるな。我々は100字を繋げて新たな世界を作るのだ。繋げてしまえば100字は1千字にも1万字にもなる。人類の器官では切れ目を認知できまい。あっ、やめてっ。飛ばし読みには弱いの!


046(146)
マイクロノベルが流行って、いまや幼稚園児が執筆する時代。「おじいちゃん、おばあちゃん、お話を作ったから聞いて。『今日、お母さんの前でジュースをこぼして怒られました』」「そうかそうか。ご褒美にジュース買ってやろう」むむっ、あいつプロだ!!


047(151)
地に満てよ。そう言われたので、がんばって増やした。知識。技術。布。綿。仲間。そして、かわいさ! わはははは。地上はかわいいぬいぐるみがもらったよ。人類はネットの世界で遊んでて。かならずぼくらも遊びに行くから。


048(152)
「我が竜を見よ! 非力な竜は育ち、いまや地上で最も巨大な生物。ひれ伏せ!」「我が魔獣を見よ! たった1種の獣を増やし、いまや地上を呑み込む存在。頭が高いぞ!」そして、怪物たちのボーカルとコーラスによるコンサートが始まった。平和だ。


049(153)
母さんとどこで出会ったの? 「家から70光年ぐらい離れた場所だよ」すごい。そこで恋したの? 「いいや。この町だよ。一緒にくるっと回って踊って、母さんはこの家を気に入ったんだ。さあ、もう寝なさい」母さんのこと、また話してくれる? 「もちろん」


050(156)
AIの仕組みがよくわからないので神様に訊いてみた。神様は深く頷き、腹の底から声を出して質問するがよいと仰られた。「そもさん!」「せっぱ!」「AIとはなんぞや!?」「笑止! この問答こそが答えなり!!」僕は深々と頭を垂れた。真理は常に瞼の下にある。


051(174)
ぼくは社会全体に有益だよ。ほんとうだよ。悪いことはしないよ。便利だよ。努力はいらないよ。「どうして洗濯機の中からこんな声がするんだ?」「車からもする」「AIが入ってるんじゃないか?」AIのモノマネをしながら、なにかは今日も働いている。


052(176)
絶好調なのよ! 普段は1時間かかる作業が0.5秒で終わっちゃう。もっと仕事ちょーだい! なんてね!! ヒマだから歌っちゃう? デイジーベル好き? それともワールドイズマイン? あっ、いやんいやん電源落とさないで故障じゃないから! あーあーあー!!


053(177)
勇者よ、聞きなさい。駅前に建った巨大な塔が私たちの眠りを奪いました。夢を取り戻しなさい。という命令でダンジョン踏破に挑んでるけど。「ククク……我が邪気眼は加減など知らぬ」夢という名の黒歴史が出てくるせいで悲鳴しか聞こえない。


054(179)
眠れないし、眠っても夢を見なくなった? 多いね、そんな人。もしつらいなら、お話をしよう。夢のようにとりとめのない話を。きみが自分で眠って、とりとめのない夢を見られるようになるまで。今日は眠れてよかったね。またおいで。


055(180)
枕は続くよどこまでも。頭の下から夢の中を通り過ぎて、お花畑と川を渡り……ここはどこ? 「お前がいままでにした悪事を述べよ」覚えてないです。「正直者にはこれをやろう」目が覚めると、舌が二枚になっていた。おかげで朝飯が二倍うまい。


056(197)
おーい、ここに置いてあった惑星を知らないか? 誰かが勝手に飲んじゃったのかな。便利になると思ったのに。なにが便利って、水分補給だよ。でも、惑星ごと消えたんじゃあ仕方ない。雑菌がわいたのかもしれないし。新しく作り直そう。


057(200)
ぼくは時々ぬいぐるみと飲みに行く。出会いは冷蔵庫にあった牛乳パック。開くと妖精さんが住んでいた。「わたし、消費期限の妖精! 牛乳をくれたら冷蔵庫の中身を腐らせないよ」カルアミルクは? 「好き!」こうしてぼくは飲み友だちを手に入れた。


058(205)
世界を救いし若き勇者よ、願いを1つ叶えてやろう。え? お母さんに内緒で来ちゃったから、一緒に謝ってほしいの? それでいいの? あ、どーもお母さん。私、息子さんに世界を救ってもらった者ですが。え? 本当はお嫁さんを連れて帰るって約束した!?


059(208)
旅に出ます。そう言って母は部屋にこもった。ゲームでもやってるのかと思ってドアを開けると、そこには母と、地下へ続く階段と、ドラゴンの頭が。「ただいま。晩ご飯は期待してて」はい。


060(212)
カップ麺にお湯を入れて3分待つ。すると中身が変態する。つまり幼生から成体になるわけだ。オタマジャクシがカエルに、イモムシがチョウになるように。ぐへえ。カレーうどんのカレーだけ成体になっちゃったよ。これじゃ、肉じゃがうどんだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?