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財宝か、死か #6(エピローグ)

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 はたしてそこは、純然たる宝物庫であった。

「わあ……」
「……」

 帝室に連なる少女は感嘆の声を漏らし、下穿き以外になに一つ持たぬ赤髪の蛮人は、無言のままに宝物を見つめていた。
 ハティマ帝室の宝物は、山の如く積み上がるのではなく、種類ごとに整理されていた。滅ぼした各地の、贅を尽くされた王冠。各地から接収したと思しき、首飾りや宝石の数々。剣だけでなく、槍に弓、盾、薙刀、棒状の武具など、武器類に至るまでもが、千年を経てなお、整然と置かれていた。

「どうやら、『当たり』だったようだな」

 ガノンは、手持ち無沙汰に言葉を漏らした。彼とて冒険者、あるいは戦士としていくつかの遺跡に挑んだことはある。しかし大抵の場合は「ハズレ」だった。例えば盗掘済みであったり、ある時は滅びた都市の痕跡だったり。こうして絶大なる宝物に行き当たったのは、初めてのことだった。

「はい。しかし……」

 ハティマの少女は、顔を曇らせた。明るい声色に、わずかな陰。ガノンには、その理由が見えていた。

「アレの装備から袋をさらうにせよ、足りんな。盗賊に狙われもする」
「はい……」

 そう。此度の宝物は、あまりにも絶大過ぎた。二人で少々さらうにせよ、目立てば盗賊や他の商人に狙われる。少女の顔は、ますます曇った。そこでガノンは、経験からの選択肢を差し出した。

「証拠として少量を頂戴し、いずれ専門の者を連れて戻って来る。それしかあるまい」
「そう、ですね……」

 ララは、名残惜しげに宝物庫を見た。しかしガノンは気付いている。彼女の懐には、すでに少量の宝物が納められていた。とはいえ、本当に最低限度なのだが。

「戻るぞ。外が何刻かは知らないが、おれたちはここに長居しすぎた」

 ガノンは、少女を促した。しかし少女は気付く。ガノンはなに一つ、宝物庫の物を手にしていない。報酬として差し出すと、最初に提示したはずだが。

「あの」
「なんだ」
「宝物は。報酬として……」
「ああ、それか」

 少女の言を遮り、ガノンはスタスタと宝物庫を出た。すでに倒れた機巧戦士が、力なく剣を取り落としている。彼は抜身のままのそれを拾った。

「これが悪くなさげなのでな。どこかの街で鞘を仕立てる。そして」

 蛮人は続けて、近くに捨てられていた槍をも拾った。黒き剣に、黒き槍。二つの武具を手に、彼は至極真剣に言った。

「娘。貴様を近くの街まで送る代わりに、この槍も頂いていく」

財宝か、死か・完

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