南雲麗
強大なるガノン。南方蛮人の生まれでありながら戦神の寵愛を受け、戦士として、指揮官として、そして王として名を馳せた男。本作は一介の戦士から一廉の王に至るまで。彼の往く道を綴った物語。 ※異世界ファンタジー ※不定期更新 ※エピソードは順不同です ※じっくり書き進める予定です。カクヨムで清書版を連載しています。 https://kakuyomu.jp/works/16817330655392121464
毎日投稿される思考の記録。
蛮迦羅――それは怪人を屠る修羅道の者。 怪人――それは悪意の者によって造られし生体兵器。 蛮迦羅――番長五郎(つがい・ちょうごろう)は、祖父の敵を討つために修羅となった。 近未来SF風味架空変身ヒーロー戦記。
寄稿品
ヴァレチモア大陸の中央部には、国境をも知れぬ荒野が広がっている。街道はなく、わずかな草と山々、そして荒涼たる風と獰猛たる野獣どもが荒野に彩りを添えていた。 そんな殺風景の中に、二人の人間がいた。一人は砂塵に叩かれつつも、豪壮な装備に身を包んでいた。豪奢な兜の下には、陽光に照らされた栗色の長い髪。壮健なる鎧の胸元には、胸を納めるためのわずかな隆起。有り体に言えば、女であった。 「貴様は、何故に鎧を付けぬのだ」 吹き付ける風を長い薙刀で防御しながら、女が問うた。重く、厳
【ガノン、その物語の始まり】 草木も少なく、通る者も少ない荒野に、夕闇が迫りつつあった。ナバタマスは野伏じみて息を潜め、一人の男を見張り続けていた。その期間、すでに三刻。一つの大きな別れを経た人間として、彼は不退転の決意を固めていた。 「故郷たる西部域を荒らし回った戦犯。大傭兵とまで呼ばれし男。ラーカンツのガノンを、必ずや殺す」 かつて戦友と交わした約定は、ガノンその人の手によって儚く散った。三刻前。戦友ヤマデズバラは絶対勝利の襲撃を目論み、逆に脳天を断ち割られたの
<#1> <#2> <#3> <#4> <#5> その日。ユメユラの故郷は、炎の中に消えた。すべては、【闇】の行いによるものであった。【闇】に領民を侵され、彼らがそちらに行ってしまった以上。もはや浄化できるものは炎以外には存在しなかった。すべての命を根絶やしにしてから、早二日。これでも遅い方というのが、【闇】の恐ろしさ、そして此度の幸運を指し示していた。 「危急に駆け付けられず、誠に申し訳ない。ましてや、このようなことになろうとは……」 「いえ……故郷を奪い返せただけで
<#1> <#2> <#3> <#4> 「っぐ!?」 「ふぅんっ!」 蝙蝠変化を操るマリルドの手管を掻い潜り、遂にガノンは一撃を浴びせた……かに見えた。 「くふふ。まあ、お見事です。この私に、剣を突き立てた。それは真に偉業です。ですが……」 ガノンが、黄金色の瞳が睨み付ける相手の顔が、奇っ怪な笑みを見せた。直後。再び羽ばたきの音が耳を叩く。それは。ああ、それは! 「少々手傷は負いましたが、この技がある限り、致命傷など有り得ません。なぜなら――」 蝙蝠変化を果
<#1> <#2> <#3> かくて、時は少しばかりの間を置く。二刻ほどの休息と、数刻の旅路を経て、遂にガノンはユメユラの故郷へと到達した。その間【闇】からの攻撃はなく、幸運なことに匪賊野盗からの襲撃も避けることができた。すなわち、歩きの疲労と睡眠の不足以外は万全である。ガノンは、その肉体に意気を漲らせていた。 「――!」 彼らが一歩領内に踏み込むと、それだけで変化が生まれた。まず、いかなる仕掛けによりてか、彼らの退路が塞がれた。結界か。それとも異界か。ともかく、二
<#1> <#2> 「さて。正直に言えば、おれにできる策などはない」 「わたしも同様でございます。戦ごとについては、無学ですので……」 少しして。二人は冷静に今後について組み立て始めた。しかしながらわかったことは、両者がともに、策を練られるほどの人間ではないという事実だった。故にガノンは、簡潔にして残酷な提案をユメユラに行うこととなる。 「真っ直ぐに行って、突き破る。それ以外に、手はあるまい」 「え……」 はたして、ユメユラの顔には狼狽が見えた。さもありなん。己に
<#1> その提案は、あまりにも唐突だった。 『会ったばかりという無礼を承知で申し上げます。私に手を貸してください。報酬は、この私自身で結構です』 淑女の一礼をもって執り行われたあんまりにもな言葉に、男はまず、黄金色をした瞳を見張った。続けて、姫君の目を真っ直ぐに見つめた。そして最後に、一つ尋ねた。 「本気か」 「本気です」 姫君からの言葉に、男は重くうなずいた。されど、続けて。 「覚えているかは知らんが、おれは言ったぞ。『おまえを取って食うわけではない』。
<すべての始まり> 荒野は、夜闇に包まれていた。にもかかわらず、馬のいななきと男女の息遣いが、その地には響いていた。 「爺、早く。もっと早く」 「姫、さすがに無理がございます」 「でも。このままじゃ、あの気味悪い笑いの男に」 荒野を行く馬に跨るは老境の者。そして、豪奢な服に身を包みし、姫君と思しき者。口ぶりからすれば、どこかの城砦、その姫とお付の爺やであろうか。とにもかくにも、二人は焦っているようだ。馬を急かせと、しきりに爺へと持ち掛けている。その理由は。 「ああ
<#1> <#2> <#3> <#4> <#5> これは、しばし前の物語。ガノンが【天を衝くアマリンガ】の前に倒れ、敗北を喫さんとしていた折。ガノンの身に起こった出来事があった。 『汝よ、立て。そして抗え』 【天を衝くアマリンガ】による、隕石めいた一撃。その一撃をもって、ガノンの意識は刈り取られた。身体が平衡を失い、崩れ落ちる。その寸前、ガノンは声を聞いた。途端、主観時間が引き伸ばされ、彼の意識は、奇妙な空間――一面の白の中に、光のみが浮かんでいる――へと送り込まれ
<#1> <#2> <#3> <#4> 翌日。男二人の姿は、山中にあった。とうに老境にあるはずの白髭――ウロタバが、矍鑠とした足取りでガノンの先を歩んでいる。ガノンはその数歩後ろを、彼に危うきがないかを見つつ、歩んでいた。 「この山に、試練があるのか」 「ある。この山脈にはの、幾つか特殊な生態を持つ生き物がおる。その内の一つを、おぬしに紹介してやろう」 「……おまえは、相対したことがあるのか」 「ない、とは言わぬよ。何匹かとは対決し、倒したものもある。だがそやつだけは、
<#1> <#2> <#3> そうして、しばしの時が過ぎた。安らかな地で傷を癒やしたことにより、ガノンは久方ぶりに十全な回復を果たすことができた。無論、古傷の域にまで達したものはどうすることもできぬ。さりとて、無駄な庇い立てなどをせずに身体を動かせるのは大きかった。 「まずは体力と筋力じゃの。動いておらぬ故、究極にまで鈍っておるはずじゃ。まずは山の上り下りを、おぬしに課そう。なるべく、走るのじゃぞ」 ウロタバが、好々爺じみた笑みを隠さずに言う。とはいえ、その指摘には
<#1> <#2> それから幾年……と言うには少し長い年月が過ぎた。ガノンの中でも、すでに戦神参拝の記憶は遠いものとなり、戦いの彼方へと消え失せていた。とはいえ、彼は錬磨を怠らなかった。怠惰と怯懦を戦神にもとる行いとして嫌い、ただただひたすらに己を磨いた。 結果として十四の歳にて戦神奉納の戦に挑むこととなり、そこを足がかりとして、ラーカンツの外へと飛び出した。 外へ出てからも彼は変わることはなく、文明の渦中にあってなお、己の信念を貫き続けた。そしてその果てに、一つの大
<#1> そして、『その日』は訪れた。この時ばかりは氏族の成人戦士たちも清らかな白服をまとい、此度登山に挑む童たちが死せぬよう、見張りに立つ。ラーカンツの史料を紐解くに、山に登るのは夜半から。年明け、朝に聖地へと顔を向け、一礼を行うのが通例とされていた。とはいえ。 「ねむいよぉ……」 「しょうがないねえ。父さんにおぶってもらいな」 「うん……」 数えで五歳となったばかりの童に、夜半からの登山は過酷なものであった。いくら小高いくらいの山とは言っても、道がしっかり整えら
戦神に愛され、南方蛮人でありながら中原の王にまで上り詰めた男、ラーカンツのガノン。黒河から白江までのあらゆる民をその威光のもとに治めた彼の生誕には、数多の伝説が描かれている。ある者はガノンの母が、懐妊時に赤銅色の太陽を飲み込む夢を見たと言い、またある者はガノンが母の胎より出でし時、その右手に赤銅色の血の塊を握り締めていたと語る。 此度語られしは、そんなガノンの真なる生誕と、彼を含めて南方蛮族の崇敬を集める、戦神について。そして、ガノンと戦神の関わりを語る。そんな起源の物語
<前編> 「いやあ、あの長老の悲鳴は気持ち良かったな!」 「まったくだ! これでまた、我々は神の御心を世に表した!」 「その通り! 淫祠邪教滅ぶべし! 神の御心は我らにこそあり!」 夜更け。二十人ほどからなるその集団は、意気を上げつつ夜営を行っていた。顔や風体を隠していたはずの白ローブははだけており、油断しているさまが見て取れる。しかしながらその口ぶりは、先に祠を壊した面々にほかならなかった。さばいた肉をかっ喰らい、どこで調達したのか、たらふくの葡萄酒を飲んでいた。まっ
強大なるガノン。南方蛮人の生まれでありながら戦神の寵愛を受け、戦士として、指揮官として、そして王として名を馳せた男。 彼の築いた王国はほぼ一代のみの国でありながら壮健を誇り、黒河から白江に至るまでのあらゆる民を尽く、その威光によってひれ伏させた。 そんな彼は、その強大さによりてか、幾つかの不可思議な経験を残している。 今より語られしはその一つ。【ガノンの外界渡り】の物語―― *** 「アンタら、あの祠壊しよったんか!」 「壊した! 淫祠邪教滅ぶべし! 慈悲など要ら