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小さく前向きな日々

うちの次男は存在感が薄い。

見た目も薄い醤油顔で、透き通るような白い肌に細身の体型、高校生になった今でも髭は産毛程度しか生えてこず、つぶらな瞳に標準的な鼻と口がついたありふれた顔は、親の私であっても人混みの中で探すのは至難の業だ。

家ではほぼ自室で過ごし、長期休暇になると初日から昼夜逆転生活を送るので、不意に三男が階段で出くわすと「うわ!ビビった!!」と驚かれ、長男からは「あいつ生きてるん?」と生存確認されるほどの存在感の薄さ。死んでたら言うわ。

物欲もほとんどなく、年に数回程度しか遊びに行かない彼の財布はいつも潤沢で、最近では毎月の小遣いを渡すと「金が貯まって仕方がない」とギラついた成金みたいなことを言うものだから、私はたまにキャッシング利用させてもらう。だって銀行より近いんやもん。金利無料の闇金ジナンくん超便利。


無類の負けず嫌いで勉強も運動もトップクラスだった2歳上の長男と、自由奔放でおしゃべりな5歳下の三男に挟まれた次男は、小さい時は次男なりに自己主張をしていたように思う。それは怒りとか悔しさとか嫉妬を含めたあらゆるマイナス感情を、「もうヤダー!!」と泣き叫びながら布団にくるまるという防御であったのだけど、一旦くるまってしまうと真夏であっても一時間ほど動かなくなるので、こちらは気持ちが落ち着くまで黙って見守るしかなかった。

私はそうやって自分の感情ですら布団の中に閉じ込めてしまう次男が、いつか大爆発を起こすのではないかと不安を募らせていたのだが、思春期真っ只中の今現在、彼は盗んだバイクで走り出すことも、校舎の窓ガラスを壊してまわることもせず、非常に穏やかな日常を過ごしている。


毎日決まった時間に家を出て、友達と駅で待ち合わせてから電車に乗って通学をし、部活には入らなかったがクラスは楽しいようで、とにかくよく笑う。購買でワッフルを買った日の喜びようは半端ないし、成績は確実に下の方なのに赤点はないと胸を張り、体育のバトミントンで上位に入ったと自慢してきたり、調理実習で作った麻婆豆腐はめちゃめちゃ美味しかったらしい。あとニキビも減った。

そんな小さく前向きな日々を過ごしている。

私は不器用な親だから、子供達三人と平等に接することができない。いつも誰かを優先して、誰かに我慢させて、誰かを待たせる。その繰り返しの中で、主張が強い長男と要領のいい三男に気を取られ、次男を待たせることが多かった。

だから彼の存在感の薄さや自己肯定感の低さは、私がそうさせてしまったのだと思うし、そんな自分を責めた時期もあった。でも今はただ、小さな自己肯定感を持って小さな自己主張してくる次男の変化が嬉しくて、帰ってきた彼と一緒におやつを食べながら話を聞くのが楽しい。

相変わらず部屋から出てこないし、休日も出掛けない。それでも私と話をしてくれ、三男の25点のテストを「やべーな」と言いながらチェックし、長男の大学受験を気にしている。そうやって存在感は薄いけれど、家族の一員として過ごしている次男は、高校という新たな環境で確実に強くなっているのだと思う。

まぁ欲を言えば、外に出て有意義にお金を使って欲しいとは思うけれど、友達は部活で忙しいらしいので致し方ない…ってか、あんたも部活に入ればよかったんやけどな。


もうすぐ夏休み。きっとまた三男に階段で驚かれ、長男に生存確認される日々を過ごすのだろうけど、それは布団にくるまって自分の感情を閉じ込めていた頃とは違って、いつでも開くドアの中にいるだけだ。

徐々に羽ばたいていけばいい。
そう思う、今日この頃。



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