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子供が帰ってくる10分前が好きだ

三男は5時間授業の日だと15時少し前、6時間の日は15時40分頃に学校から帰ってくる。

フォトスタジオでアシスタントのパートをしている私は、この時期は閑散期で出勤が少ないため、三男の帰宅時間にはほぼ家にいる。なので洗濯物を取り込みながらチラリと時計を確認して、もうすぐ帰ってくるなぁとソワソワする。

「たっだいまー!」

「おかえり」

「お母さん、あのね。今日ね」

お喋りな三男は帰ってきてすぐに学校であったことを報告してくれる。私はそれにうんうんと相槌を打ちながら、「お手紙は?」「給食セットだしてよ」と毎日同じ言葉を投げかける。

一通り話し終えた三男は「じゃ!」と言って外に駆け出していくか、2階でゲームを始める。私は静かになったリビングで、今日も終わったなぁと思う。


子供が帰ってくる10分前が好きだ。
もうすぐ会えるなぁと考えている時間が好きだ。

「たっだいまー!」とドアを開けた瞬間にその時間は終わって、「お母さん、あのね」と話し出した途端に、「先にやることやっちゃいなさい」と言ってしまうのだけど、次の日も、またその次の日も、私はソワソワと帰りを待ち侘びる。

早く会いたい思うのとはちょっと違う、会いたいなぁと想う気持ち。

友達と喧嘩したという日もあるし、忘れ物をしたとか、テストが20点だったとか、ズボンに墨をこぼしたとか、こちらがガックリと項垂れる日も多い。むしろ、そっちの方が多いかもしれない。

だから顔を見た瞬間に、その『会いたいなぁ』と想う気持ちは魔法のように消えて、いつもの日常に戻ってしまうのだけど、でも帰ってくる10分前だけは三男のことだけを考えている。

ちょっと窓から外を覗いてみたり、門が開く音に「ん?」と反応したり、なんとなく部屋を片付けてみたり。

そうやって落ち着きなく子供を待っている時間が、とてつもなく好きだ。


「行ってらっしゃい」と送り出して、「おかえり」と迎える毎日があるのは幸せだと思う。

私はどうにもスキンシップが苦手で、ぎゅっと抱き締めるのも、そっと手を握るのも上手くできない母親だけど、「たっだいまー!」と帰ってくる我が子を想いながら待つことはできる。

「おかえり」

「お母さん、あのね。今日ね」

「ほら、まず手を洗ってから」

「はーい」

ジャッと一瞬だけ流れた水の音に「ちゃんと石鹸で洗ってよー!」と叫ぶと、「なんで分かるの」という声が聞こえた。

分かるよ。全部。

「お母さん、今日はさぁ、サッカーしたんだよ」

「手、拭いてないでしょ」

「あっ、そうだった!」

くるりと向きを変えて洗面所に戻る三男の手から水滴が垂れた。その水滴が床を濡らすと同時に、私は今日も終わったなぁと思った。





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