きざはし


人の発明品のなかで一番好きなのは階段だ。



僕は今、四方を空と雲とに囲まれて上へ上へと歩いている。天に突き立つ尖塔を僕はぐんぐんと追い抜いていった。


涼し気なブルーが語りかける。ふと下を見てみれば僕はずいぶんと高いところに立っていた。足元は透けていて縮尺された街がそこにはある。そのミニチュアサイズが僕の足を歪ませ空に立たせているのだった。街と僕とは互いに引き合い、離れ合う。

僕は歩みを止めず階段を登る。どこまで続いているのか見通すこともできないこの透明階段を僕は踏みしめる。


きっと昔の人はこう考えたはずだ。階段を登れば月にも行けると。僕は深い紺碧の空にトンと浮き上がったように吸い込まれ、白い月を仰ぐ。

月もまた地球に最接近し、潮を引っ張り上げていた。


四方を囲んでいるのは空でもあり海でもあった。


階段を登りきると街が見下ろせた。遠くの空は大海と境界をなしている。僕は丸い地球に包まれて、ぽっかりと浮かぶ白い月に手を伸ばした。


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