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【インタビュー】青森の食育料理家が目指す未来~「食」を通した地域活性化と、東北の女性が夢を語り活躍できる場をつくる

2007年、27歳で起業し飲食店を開業して以来、地元・青森を拠点に、ずっと「食」と関わる仕事をしてきたなぎさなおこさん。2008年には病気予防をコンセプトとした「なぎさカフェ」を開業したり、料理教室をひらいたり、「食育料理家」としての地位を確立してきました。2017年には株式会社フードコミュニケーションとして法人化し、現在は自身で料理をつくるだけに留まらず、プロデューサーとして自治体や他社とタッグを組み、商品開発や開業サポート、イベント企画などの分野でも手腕を振るっています。そんな彼女が今、もっとも注力したいと考えているのが、青森や地方の地域活性化と女性の活動支援です。「子どもだけじゃない、大人こそ堂々と夢を語らなきゃ」と話すなぎささんの、次なる夢を聞きました。

青森に伝わる伝統的な刺し子「こぎん刺し」とともに

「食べることがストレス」から料理家の道へ

――自身でカフェを経営したり料理教室をひらいたり、てっきり子どもの頃から料理が好きだったのかと思ったら、違うそうですね。
 
なぎさ:はい。子どもの頃は食が細く、食べることが好きではありませんでした。食べなくていいなら、それでいい、みたいな子どもだったんです。

――それがなぜ料理家の道に?
 
なぎさ:中学生の頃、身内が病気になったときに、健康の大切さが骨身にしみて。健康でいるためにはじょうぶな体をつくらなければいけない。そのために大事なのは、食事だって気づきました。食の持つ力に感動してからは、今までが嘘のように料理にのめり込んでいきました。

――「病気やけがを予防する野菜中心の料理」を重視するのは、その経験からきているのですね。
 
なぎさ:「なぎさカフェ」を13年間営業し、お客さまから健康や病気予防に関する相談を多く受けました。でもみんな、病気になってから相談に来るんですよ。それよりも、普段から予防して健康でいた方が良いじゃないですか。病気を治すことに対してお金と時間をかけるより、健康を維持するためにお金と時間をかけた方がずっといい。そう思って、食事で病気を予防する重要性について伝えてきました。

2022年12月まで13年営業した「なぎさカフェ」店内

――これまで「料理家」として、どのような活動を?
 
なぎさ:2009年頃、カフェのお客さまから「やってほしい」と声をかけてもらったのがきっかけで、赤ちゃんからお年寄りまで参加できる料理教室を始めました。その後、食育や健康指導の講座も開催するようになって。料理教室と各講座を合わせると、これまでに参加してくださった方はのべ4万人以上になります。

――レシピ本の出版もされたとか。
 
なぎさ:はい。2012年に世界一やさしいレシピ絵本として「キッチンであそぼ!」を出版し、2014年にはグルマン世界料理本大賞ウーマンシェフ部門世界第2位を受賞しました。

――海外からも高い評価を受けたのですね。内容は?
 
なぎさ:「これが作れたら、一生料理には困らない」と私が考える10のレシピを厳選して掲載しています。これらはとてもシンプルなレシピで、一度覚えたら、あとは好きなようにアレンジできるようにと考えました。料理は自分へのプレゼントだと思っているので、自分で自分を喜ばせる力を育んでもらえたらいいな、という願いを込めています。

――まさに、なぎささんの料理コンセプト「food is gift」が詰まったレシピ本ですね。さらに近年では、料理家以外の活動も精力的にされているとか?
 
なぎさ:ここ数年は、自治体や他の飲食店から依頼を受けて商品開発や店舗のブランディングに携わるなど、困った時にはとりあえず相談できる「何でも屋さん」的な立ち位置になっています。例えば2019年5月に神戸で開業した青森りんご専門店の立ち上げに関わった際は、オープン前の約1年間、神戸に通ってサポートしました。1日400組の行列ができるほどの人気店となり、今では全国に8店舗を展開しています。

――神戸ですか! 青森だけでなく、日本全国で活動しているんですね。
 
なぎさ:全国からお声がかかるんです。飲食店のプロデュースをはじめ、男女共同参画や女性起業支援といったテーマでの講演依頼もあります。交通費さえ出していただければ、どこへでも行きますよ(笑)。

築地で青森食材をテーマにしたイベントも開催(2024年3月)

「女性が夢を語れるコミュニティ」を立ち上げる

――近年、女性の活動支援に力を入れているとうかがいました。どんな活動をしていますか?
 
なぎさ:2023年3月に、「HAPPY ACTIVE WOMAN PROJECT(ハッピーアクティブウーマンプロジェクト)」を立ち上げました。これは、アクティブな女性が楽しく活動できる場づくり、環境づくりを目指すプロジェクトです。東北で活動する女性が緩やかにつながるコミュニティの形成と、女性が堂々と夢を語れる場をつくることの2つを大きな目標として掲げています。

――夢を語れる場ですか、素敵ですね。具体的には?
 
3月8日の「国際女性デー」と絡め、毎年3月に大きなイベントを開催しています。2024年は青森で活躍する女性ゲストによるトークセッションや、参加者全員に夢を語ってもらうプレゼンテーション「夢宣言」などをおこないました。参加者は30~40名ほど。東北を中心に、遠いところでは関西からも来てくれました。

2024年3月開催の HAPPY ACTIVE WOMAN PROJECT VOl.2

――総勢30~40名もの女性が集結し、それぞれの夢を宣言する場とはすごいですね。現在のメンバー数は?
 
なぎさ:実は、メンバーや会員制度は設けていません。プロジェクトに関する情報発信は主にSNSでおこなっており、それを見て共感してくれた人たちがなんとなく集まってくれる、という感じ。アカウントの運用や大きなイベントの企画開催などは私を含めたコアメンバー数人でしていますが、それ以外のしばりは一切ないんです。

公式Instagramより。フォロワーや、過去のイベント参加者に刺さりそう! とコアメンバーが判断したトピックをSNSで共有し、それに興味を持った人が各自参加するシステム

――まさに「緩やかにつながるコミュニティ」ですね。そのほかの活動は?
 
なぎさ:イベントで仲良くなった人たちが各自、ランチ会やお茶会をひらいたりしていますね。何でもかんでもコアメンバーが企画するコミュニティでは全然なくて、あくまで「場」としてみなさんに自由に利用してもらっています。

――プロジェクトの立ち上げから1年間で、大規模イベントは2回目の開催となりました。はじめの年と比較して、変化は感じますか?
 
なぎさ:口コミ経由での参加がとても増えました。「昨年参加して、楽しかったから今年も行こうよ」と知り合いを誘ってきてくれる方が多かったですね。やはり女性限定のコミュニティなので、年齢問わず、女性同士でつながれるイベントを求めて参加される方が非常に多いです。
 
もう一つの変化は、スポンサー企業が増えたことです。女性向けのイベントに興味を持って声をかけてくれる企業もありますし、女性向けのビジネスを展開しているなど親和性が高い企業には、私から積極的に声がけをしてまわりました。今後も応援してくださる企業とコラボしながら、少しずつこのコミュニティを育てていきたいなと考えています。

コミュニティの運営メンバーとともに

「食」を通して地方の魅力を伝え、地域活性化を目指す

――これまでも地元・青森で精力的に活動されてきましたが、今後はますます地域の活性化に寄与していきたいともうかがいました。
 
なぎさ:青森というまちを、外側から見るのと内側から見るのでは、大きくギャップがあると考えています。そのギャップを埋め、どこから見ても誇れるコンテンツ、サービスをつくっていくことが大事なんじゃないかなって。そのなかで私にできるのは、住んでいるからこそ見えている青森の魅力を、どんどん外に向かって発信していくことだと思っています。

神戸で開催したフェリシモ体験ツアー「あおもりの学校-ぐるっと青森いいとこどり-」(2024年3月)

――なぎささんが思う、青森の魅力はなんですか?
 
なぎさ:「食」に関わる人たちの想いの強さ、熱量の高さです。せっかくすばらしいものがあるのに、その魅力を十分に伝えられていないと思いますね。

――「食」を軸に地域を盛り上げていきたいと。
 
なぎさ:どこへ行っても、みんな食べ物を求めているじゃないですか。きれいに盛りつけられた料理を見れば写真を撮って、SNSにアップして、「おいしかった!」という記憶はずっと残る。「食」って、すごくわかりやすいエンタメですよね。
 
これにプラス、誰がどんな想いをこめて作っているのかを聞くと、その地域の歴史や文化、暮らしを知ることができます。まずは誰にとっても身近な食べ物を入口にして、そこからより深く、青森をはじめとした地方の魅力を伝えていきたいです。

学び、語らい、仲間同士で相互成長できる場をつくり、育てたい

 ――さまざまな方面で活躍するなぎささんの、次の夢を教えてください。
 
なぎさ:どんなに新しい仕組みを生み出しても、そこに新しい人が入ってこない、人が育たない状況では、その文化は廃れていくと思います。
 
だから、年齢もバックグラウンドも異なる人たちが集まって、共に学んだり夢を語らったりできる場所(コミュニティ)をつくり、育てたいです。やがてそこから新たな仕組みやサービスが生まれ、地域活性化にもつながっていくはず。そこを目指して、一歩一歩進んでいきます。


なぎさなおこ
(食育料理家、株式会社フードコミュニケーション代表取締役)

【プロフィール】地元・青森を拠点に活動する食育料理家として2007年に起業。2008年から13年間、八戸市で病気予防をコンセプトとした飲食店を経営。2009年からは料理教室や食育・健康指導の講座を開講。コミュニケーションを重視したスタイルの教室・講座は2歳から90代まで幅広い年代に支持され、これまでの受講者はのべ4万人を超える。近年は青森県内に留まらず、全国の自治体や飲食店の商品開発、店舗運営などのコンサルティングも行う。著書「キッチンであそぼ!」は、2014年グルマン世界料理本大賞ウーマンシェフ部門世界第2位を受賞。2023年、青森発の女性向けコミュニティ「HAPPY ACTIVE WOMAN PROJECT」を立ち上げ、女性がいきいきと活動できる場づくりに尽力している。2児の母で、週5で通うほどの温泉好き。
公式サイト https://nagisanaoko.com/

インタビュアー/ライター
岩崎尚美(ライター、シナリオライター)
HP https://nanaplot.com/
X(旧Twitter) https://twitter.com/nao_2205
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