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オレンジの部屋と青い部屋

今日も、怒ってしまった。
ぐちゃぐちゃのリビング、
片付かないおもちゃ。


登校の準備も進まないし
送り出したあとのテーブルには
筆箱と連絡帳。


あんなに言ったのに…!!
とイライラしてしまって
帰宅した息子にも
小言を言ってしまう。


あーあ。
こんなのが欲しかったわけじゃないのに。


子どもがいる生活って
こんな感じだったの。


こんなに自分の性格が悪いと思わなかったし
こんな自分に出会わなきゃいけないって知ってたら…
なんて一瞬頭をかすめた。


キッチンの奥に逃げて
そっと冷蔵庫のいちばん高いところに隠した
苦いチョコレートを出して
コーヒーを淹れる。


ひとりで好きなものを
ゆっくり食べる時間さえなくなった。


理不尽に怒られて叩かれて
ちゃんと育てないと、と責任がのしかかって
重すぎてぜんぶ脱ぎ捨ててしまいたくなる。


どうしてこんなふうに
なっちゃうんだ。


ひとりで静かに座らせてくれ。
と思いつつ
ふと思い出す。


コツコツ響くヒールの音。
小さな暗い部屋に帰っても
誰の声もかえってこない。


誰の気配もない部屋に
いただきます、と言う小さな声が
壁に跳ね返って響く時間。


部屋は暗くて
薄く深い青い色。
電気の灯りも寂しそう。


誰かがいるあったかさが欲しかった。
寂しくてテレビをつけても
遠くで笑う声のせいで
心がきゅっと細くなった。


あの夜欲しかったのは
きっと今ここにある日常。


散らかっていて騒がしい
オレンジ色の空気。


今ひとりの時間が欲しいと願えるのは
オレンジの時間に変えれる安心感があるから。




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