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朗読劇 Last Letter

舞台上、二つの白い箱があり、その上にそれぞれ封筒が置かれている。

ミユ板付で舞台上便箋で紙飛行機を折り、飛ばす。

タクヤ入り、飛行機を拾い、紙飛行機を開く。

それぞれ箱に座り、手紙を開く。


ミユ「初めまして、こんにちは。こういう風に始めていいのかな?

私、文通っって初めてで……。

まずは、自己紹介をしますね。私はミユって言います。この春から引っ越してきました。

ちょっと、持病があってね。ここにある総合病院に通うことになったの。

引っ越ししたばかりだし、ほぼ病院と自宅の往復だから友達もいなくて……。

もしよかったら、文通友達になってくれると嬉しいな。

お返事、待ってます。ミユ」

タクヤ「初めまして、タクヤって言います。

今時文通って、逆になんか面白そう!

俺は生まれてからずっとこの街で過ごしてきたから、この街のことだったら何でも知ってるよ。

飯がうまい店とか、散歩しやすい公園とか……何でも聞いてよ!

友達がいないのは寂しいよな。

俺で良ければ、話し相手になるから。タクヤ」


ミユ「この間ね、病院の帰りにタクヤくんに教えてもらった公園に行ったの。

あの桜、とっても綺麗だった……。

感動して思わず涙が出ちゃった。

教えてくれてありがとう。

せっかくなので拾った桜の花びらで押し花のしおりをつくりました。

同封します。ミユ」

タクヤ「良かった。

すげー綺麗なところだたろ?この街のちょっとした自慢。

しおりもありがとう。つっても俺、本とかそんなに読まないんだけどさ。

そういえば今度ツーリングで隣の県に行くんだ。

なんか良さそうなお土産とかあったら買ってくる。タクヤ」


ミユ「毎日暑いね。タクヤくんは夏バテとか大丈夫?

私はこの暑さにやられたのか、来週からちょっとだけ入院することになりました。

炎天下の通院をすっごく止められたの。

お手紙は親にお願いして届けてもらうようにするので、大丈夫です。

この間もらったお土産のお守りも病院に持っていくね。

あ〜あ。早く病気を治して海で泳げるようになりたいなぁ。

その時はタクヤくんも一緒に行こう。約束ね!

P.S あのお守り、健康祈願じゃなくて、安産祈願だったよ。ミユ」

タクヤ「大丈夫か?でもまあ、病院でゆっくりするのもいいかもな。

病院は涼しそうだし。

俺もすでに夏バテ気味。

毎日アイスとか食べてるからかな?

でも今年の夏は特に暑い気がするな。

ミユの病気が治ったら行こうぜ、海。

俺の友達も紹介するよ。

あ。そうそう。あのお守りを買えっつったのもソイツなんだ。

まあ、確かめずに買った俺もバカなんだけどさ……。

そういえば、来週デカイ祭りがあるんだ。

祭りに行けなくてもさ、花火だけでも見れるといいな。タクヤ」

ミユ「病院からも花火見えたよ!すごい、ドン、ドンって音が心臓まで響いてきた!

タクヤくんはお祭り行ったのかな?きっと楽しかっただろうね。

あと、お知らせがあります。

ちょっと手術をすることになって、お手紙を出すのが遅くなるかも知れません。

でも、タクヤくんと文通するのすっごい楽しいから、絶対絶対お手紙書きます!

あ!タクヤくんが嫌じゃなければ……だけど……。いいかな……?ミユ」

タクヤ「いいに決まってんじゃん。俺も楽しみなんだ。ミユからの手紙。

それにしても、手術って……病気、そんなに悪いのか?

今まで詳しいこと聞かなかったけど……どんな病気なんだ?

何か、俺にできることがあったら言ってくれ。何でもいいからさ。

それにできれば、見舞いにも行けたらって思ってる。

手術が終わって落ち着いたら、ゆっくりでいいから返事くれな。タクヤ」


ミユ「タクヤくん。お手紙ありがとう。とっても元気付けられたよ。

私もタクヤくんと会いたいけど……。

ごめん。

実はね、私、心臓が悪くて。今回もその手術だったんだけど。

先生から「あまり興奮するようなことはするな!」って言われてるの。

タクヤくんに会ったら興奮しまくりで即ナースコールだよ。

あ、そうだ。

病室からね、イチョウの木が見えるんだけど、その葉っぱの色が変わってきたの。

もう秋なんだね。

これからだんだん寒くなっていくのかな……。ミユ」

タクヤ「心臓が悪いのか……。ごめん、何て言っていいかわからない。

何もしてあげられなくてごめんな。

少しでも俺の元気を分けられたらって思うよ。

病気が治ったら絶対会いにいくから。

P.S 遅くなったけど、手術が無事終わるようにお守りを買ったから、同封します。

今度は安産祈願じゃないぞ!タクヤ」


タクヤ「ミユ、最近だいぶ寒くなってきたけど、体は大丈夫か?

風邪ひかないようにあったかくするんだぞ。

この間、文通を始めてもう9ヶ月くらい経ってることに気付いたんだ。

何だかあっという間だったな。

もうすぐクリスマスだぜ。

クリスマスプレゼント、何が欲しい?」

ミユ「タクヤくん。メリークリスマス!

雪が降ってきたね。

今、私は病室からこの手紙を書いています。

もしかしたら、これが最後の手紙になるかも知れません。

実は私の病気はもう心臓移植をするしかなくなっていて、今、ドナーを待っている状況です。

でもちょっと難しいみたいなの。

だからきっと私は、来年の春までは生きられないと思います。

今までずっと心臓に負担をかけないように静かに生きてきたの。

でも、今年は違った。

いつもタクヤくんに元気をもらった。

病気を治して、会いたいって、遊びたいって思えた。

今までの人生の中で、この一年が一番輝いてた。

ありがとう。

私、タクヤくんに出会えて良かった。まだ出会えてないけど。

タクヤくんとの手紙は、全部取ってあるの。捨てられない。私の大切な思い出。

今までありがとう。

さようなら。 ミユ」

ミユハケる。


タクヤ、独白。

タクヤ「それが、ミユと交わした最後の手紙になった。

心臓移植とか、ドナーとか……そんなこと今まで考えたことがないような単語ばかりが頭を埋め尽くした。

何か、自分にも何かできることはないか調べ回ったりもした。

けど、自分にできることは本当に些細なことばかりだった。

ミユは、彼女は生きるべきなんだ。

まだこの世界の素晴らしさを彼女は知らないんだから……」


立ち上がるタクヤ。

暗転。

薄暗い照明の中で、心電図の音が鳴っており、それが心肺停止音にかわる。


明転。

箱の上でタクヤがぼんやり座っている。

そこへミユが登場し、タクヤの後ろから話しかける。


ミユ「こんにちは」

タクヤ「……ミユ」

ミユ「初めまして、かな?」

タクヤ「ああ。初めまして」


少し間。


タクヤ「お守りを……渡したかったんだ。直接会ってさ」

ミユ「前にも貰ったよ」

タクヤ「そうだけど。俺には何もできないから。何か渡せればって思って」

ミユ「ありがとう」

タクヤ「バイク飛ばしてさ。でも……間に合わなかった……。それどころか……」

ミユ「お礼を言いにきたの」

タクヤ「お礼?」

ミユ「うん。あなたと出会えて良かった。私、忘れない。

タクヤくんに教えてもらったもの全部。

春の桜も、夏の花火も、秋の銀杏も、冬の雪も。

全部、忘れない。

あなたのことも。

あなたのその優しい心を……絶対に忘れない」


タクヤ立ち上がり、以降会話しながらそれぞれぞれ入れ替わる。


タクヤ「俺も忘れない。君のこと。何があっても、この心は」

ミユ「また春がきたね」

タクヤ「うん」

ミユ「タクヤくん」

タクヤ「うん?」

ミユ「ありがとう。あなたの心は……

あなたの心臓は、

ずっと、私の中で生きています。

あなたとの思い出と一緒に。

やっと会えたね!」

タクヤ「言ったろ。病気が治ったら、絶対、会いにいくって」


2人振り返り、初めて視線をかわす。

照明F.O

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