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ミルカを飲んでも懐かしくない私は

ニカラグア人にとって懐かしの味(?)であるジュースを飲んでみたら、自分が外国人であることについて考えさせられたお話です。

私の叔母は典型的な「日本社会が合わない」タイプで、若い頃にバックパックで世界を周り、最終的にオーストラリアをいたく気に入って永住し、そこで出会ったイギリス人の叔父と結婚した。

叔母は「日本の文化は大好きだけど、住むのは、ストレスが多すぎてムリ」と言っていた。何となく気持ちはわかる。

それに対して叔父は、「えー僕はしばらく日本に住んでみたい」と言う。

でも日本社会は結構ストレスフルだよ?と私が言うと、こう返ってきた。

「いや大丈夫だよ。僕は外国人だから、社会からのプレッシャーなんて感じずお気楽に楽しめるよ。」

あーうん、確かに、そうかもしれない。

自分も海外にしばらく住んでみて思うのは、「外国人」としてある社会を観察するのはかなり楽しいし、気楽だ。

それは少し離れたところから、「おもしろーい」と言いながら手をパチパチ叩いて喜んでいるような状態である。

なぜこんな話をしているかというと、ある日の新聞が始まりだ。

その記事は「ミルカが帰ってくる!」とうたっていた。

かなり大きめの記事だった。何なら4面の大部分がそれに費やされていた。

どうやらミルカというのはニカラグアのレオン市で生まれた炭酸飲料で、1959年以降はアメリカにも輸出していたらしい。

最近は、ほとんど販売されていなかったようだ。

そのミルカが、全国のスーパーに帰ってくるというのだ。

(ニカラグアのスーパーの飲料コーナー。)

この記事を読んで、俄然テンションがぶち上がってしまった。

ニカラグア発祥の炭酸飲料なんて聞いたことない!アメリカに輸出してたなんてすごい!

なんか「ミルカ」というネーミングも良い感じだし、「定番の赤」というキャッチフレーズもイカしているような気がした。(当時は他にも色があったが、赤が一番人気だったらしい)

なにより、新聞にはミルカがニカラグア人にとって「思い出とノスタルジーの味」だとある。

これだ、これしかない。「外国人」のワタシはこれを飲んでニカラグア人に近づくのだ。ニカラグア社会を理解するのだ。

意外と「あ、なんか懐かしい」みたいな味がするかもしれない。

懐かしの味って、世界共通ですね^^みたいなほっこりした結論が出るかもしれないのだ。

私はいそいそとスーパーに出かけていった。

(このスーパーには発泡日本酒が売っていた。このサイズで約3,500円。しかも売れている。)

さあさあ、よってらっしゃいみてらっしゃい。

これがニカラグア人の懐かしの味、ミルカでござーやすよ。

このロゴも可愛らしいじゃないですか。シンプルで味わい深いねえ。

さあさ奥さん、飲んでってよ。

ほら、トクトクトクっとね。

(赤っ!!!)

ある文化の中に「外国人」が完全に統合されることは、不可能だ。

だって文化は「共通の記憶」であり、「共通の言語」であり、数え切れないほどの「あの味」、「あの曲」、「あの匂い」、「あの風景」によって構成された体験だから、短期間で身についたりするものではない。

だから私は日本以外の国にいる限り、永遠にガイコクジンであり続ける。

それはある意味、「寂しい」ことだとも言えるかもしれない。

だけど私は、それ以上に楽しいことがいっぱいあると思うのだ。

ある社会・文化を客観的に楽しむことができるのは、ガイコクジンの特権なんだから。

・・・・・

え?

ミルカの味??

3口が限界でした。

(目が飛び出るほど甘かった。一緒に飲んだ日本人も残していた。例えるなら、サクランボ味のかき氷シロップと炭酸水を1:1で混ぜた味。)

だけどなんだか、しみじみとした。

そうかそうか、ニカラグア人よ。あんたらは、これを飲んでノスタルジーを感じるのか。

あたしゃ無理だよこんな甘いの。缶開けた瞬間に匂いで「あ。無理かも」って思ったもん。

そうか・・ニカラグア人よ。私たち、違う文化を生きているね。

だけどそれでいいのだ。

たぶんニカラグア人が日本に来たら、私がニカラグアで感じるのと同じくらい、意味不明なことや面白いことがあるに違いない。

ありがとうミルカ。あんたには色々と考えさせられたよ。

そうかそうか・・とつぶやきながら、次の日の新聞を開いてまた笑った。どうやら今年のミス・ニカラグアを決める大会があったらしい。

ポージングといい、デカすぎるマスクといい、しみじみと面白い。

これを本気でやっているのだから、ますます面白い。

ニカラグア人よ、いつも私を楽しませてくれてありがとう。

(優勝したのは後列の左から2番目。いや顔見えねーよというツッコミはさておき。)

コロナ禍で国際線のなくなってしまったニカラグアにいる私たちの、職場で流行りのジョークは、「このまま日本に帰れなくなってニカラグアで日系1世になる」というものだ。

そろそろ水田つくりますかーとかよく言っている。

実際は臨時便があるのでもちろん帰れないことはないのだが、本当に自分が日系人1世になったら・・・と考えると面白いような少し怖いような気持ちになる。

中南米には日系人が多いが、日系1世というのは本当に、それこそ小説のような苦労をしてきた人ばかりだ。

異なる文化に、自分を合わせることでサバイブしてきた、逞しい日本人たち。

それはきっと、とてつもない努力だったに違いない。

日本のYouTubeを見ながら、ミルカ・・・ではなく水をすすりながらそんなことを思う2020年の夏。

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