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釜山の夜、謎の女について行ってみた。Part3|アブナイ散歩道

この作品は『釜山の夜、謎の女について行ってみた。ー逆ナンは唐突にー』から始まるシリーズのPart3です。よろしければ始めからどうぞ。



「祈りの場」に向かう道すがら、私は彼女と断片的に会話した。

彼女が拙い英語で尋ねてくる。
「あなたの名前は何?」

「トムだよ。」
私が答えると、彼女は怪訝な顔をした。伝わっていないかなと思い、補足する。

「トム。これはイングリッシュネームなんだ。」
私は会話を円滑にするため、外国人相手にはイングリッシュネームを使う。

「違う違う、イングリッシュネームじゃなくて本名教えて。」
面倒なことに、彼女は私の本名を尋ねてきた。

私はこの女を全く信用していなかったので、適当な偽名で答えた。
「本名はトワ。君の名前は?」

「M(仮名)。あなたは何歳?」

「20歳。(これも嘘。私は当時19歳)君は?」

「36歳。」

 驚いた。Mは20代後半だと思っていたからだ。しかしよくみると手にはシワが多いし、唇の潤いもない。Mは童顔のため、若く見えるようだ。

 会話をしていくうちに、Mは悪い人間ではないのではと言う気がしてきた。仕草や目の動きが自然で、嘘をついている人のそれには見えない。それに少しアホそうである。無知ゆえの無垢。

そうは言っても、依然警戒しなければいけない状況であることに変わりはない。

 どこに住んでいるか聞かれたので、ホテルに泊まる金がないから野宿をすると嘘をついた。1つには居住地を知られると面倒だと思ったのと、もう1つは金銭目的で私に声をかけたのか見極めようとしたからだ。
 
 Mは驚きながらも信じたようで、今夜どうするつもりなのか聞いてきた。マクドナルドに泊まるとまた嘘をついた。実際にそれに近いことをした経験があるのでリアリティのある話ができる。

 反応を見るに、これはMの想像を超えた話で、ただただ驚いていた。


 Mは私が金を持っていないと知った後も「祈りの場」へと歩き続けている。
 変だ。もし金銭目的なら、さっさと別のターゲットに移ればいいし、本当に先祖に祈るつもりなら私のような外国人よりも韓国人のほうが適しているだろう。
 
 なにより、夜11時に見ず知らずの他人に声をかけているのがおかしい。宗教勧誘のためか、儀式の生贄にするために人が必要なのだろうか。

 とんでもなく怪しいが、それでも私が付いていったのはこの女なら腕力で勝っているという確信があったからだ。それとやはりMには愛嬌がある。下心丸出しである。


 ひとつ不可解で、同時に私を安心させもしたことは、Mが誰にも連絡していなかったことだ。もし私に危害を加えるつもりなら、私という獲物を捕まえたときに仲間に連絡するはずだ。彼女ひとりでは人を殺すことは無理だろう。

               ***

 
 10分ほど歩き、Mに導かれてやってきたのは廃ビルのようなところだった。

 他のビルの窓からは灯りが漏れているというのに、我々が向かおうとしているビルは真っ暗で、静寂に包まれている。繁華街とのコントラストがそのビルをより禍々しいものにしている。

 いかにも古くて、殺人なり監禁なりするには格好の場所であるように思えた。しかも直前にMはスマホで何やら連絡をとっていた。中に仲間がいるのだろう。

 絶対に危険だ。ここで帰るべきだ。本能はそう告げている。

 一方で理性はビルの中に入ることを望んでいた。海外では、いや日本でさえするべきでないことをしようとしているのはわかっている。しかし、連日の寝不足が祟って正常な判断ができなくなっていた。

 結局、好奇心に勝てず私はビルの中に足を踏み入れた。


続く

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