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長崎アートプロジェクト「じかんのちそう」について

_written by ディレクター NPO法人インビジブル

2019年9月20日、弊社のメールボックスに長崎市の担当者から一通のメールが届いた。

丁寧に書かれた長文のメールには、これまで長崎市が取り組んできた「長崎アートプロジェクト」の経緯と概要、2017年度のアートプロジェクト「ニットインベーダー in 長崎」の実施にあたり、さまざまな意見が寄せられ2018年度は事業を見送ったこと。今後はそうした経緯を踏まえ、外部からキュレーターを招聘することを決め、そのキュレーターになぜ弊社を指名したのかといったことが細かく書かれていた。

弊社は林曉甫と菊池宏子の2人を中心に、国内各地の自治体や企業とともにアートプロジェクトを構想し、アートを触媒にしたコミュニティ開発や人材育成事業に取り組んでいるNPO法人である。そんなわたしたちのこれまでの取組みや講演内容などを細かくリサーチした上でプロジェクトのご依頼を頂けたことは大変ありがたく、担当者と協議の上で本事業に参画させていただくことになった。

事業を進めるにあたり最初の課題は、2019年度を事業構想立案のための調査年度とし、2020年度を事業実施年度とする2ヵ年計画とはいうものの、9月20日に依頼を受けた時点で具体的な実施地域が未決定だったことだ。

年度末までの期間に事業構想を立案することを考えると十分な時間がないということもあった。加えて、地域住民との丁寧なコミュニケーションを行い、関係性を構築した上で招聘アーティストとともにプロジェクトを構想していくというステップで進めていこうとしていた一方、弊社の活動拠点が東京にあるため、頻繁に現地に通うことが難しいという課題もあった。

こうした課題への対応策を検討した結果、弊社が直接キュレーションを担うのではなく、弊社はディレクターとして全体構想やビジョンを決定する立場を担った上で、キュレーターを指名。そのキュレーターを中心に具体的なアートプロジェクトを構想するプロジェクトチームの組成を行うこととした。

また、これまでの長崎市の取組みの経緯を踏まえると、アートプロジェクトの文脈づくりや、表現の実現がその地域の状況に変化を生み出すことに関心を持つ人がふさわしいことは明白であった。

そのため、現代アートに特化したプロジェクトではなく、現代アートを含め幅広い創作者に関わってもらう状況を生み出すべく、これまで本やイベント、店舗のディレクションなど幅広い活動を手がけてきた編集者の桜井祐氏をキュレーターに指名することとした。

開催地域の決定とチーム組成を並行して進め、2019年12月に桜井氏と共に現地視察を行い、事業コンセプトの策定に取り掛かった。

地域を視察して知った、恐竜博物館の建設が予定されていることや、海に浮かぶ軍艦島の炭鉱ならびに人々の生活の歴史、統廃合によって閉校した小学校に残された資料の存在。

そうした話を野母崎地域で生活されている方々から伺う中、有史以前から続くこの場所の時間と地層をテーマにプロジェクトを構想できないかと考え、提案させていただいたプロジェクトテーマが「じかんのちそう」である。

弊社では社会の中でアートプロジェクトに託される役割のひとつに、従来とは異なる観点から社会に対して問いを立て、その上で現在そして未来に対するビジョンをつくり上げていくことがあるととらえている。

今回のプロジェクトでは、今この場所が直面している状況を踏まえつつ、この先の未来につながる道筋を考えていきたい。恐竜が生息していた時代から今に至る、土地に残された記憶としての“地層”や、さまざまな人が訪れ紡がれてきた人間たちの“血層”、そして世代を超えて継承されている知恵や知識といった“知層”を「じかんのちそう」という言葉で包括し、この場所だからできるアートプロジェクトを地域内外の人とともにつくり上げるために。

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NPO法人インビジブル
2015年に林曉甫と菊池宏子が共同創設したNPO法人。見えないものを可視化させ、社会を動かす小さな変化を作り続けていくことを掲げ、国内各地で自治体や企業と共にアートを触媒にしたプロジェクトを展開。「日常にこそアートがある」という姿勢の元、誰もが持つ創造性/想像力を開花させることと同時に、違いや個性の尊重とコミュニティ・エンゲージメントの思考や手法を取り入れプロジェクトに取り組んでいる。画像1



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