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冊子『地層/時間』について

_written by キュレーター 桜井祐(TISSUE Inc.)

種々のスナップ写真と言葉、モノクロのポートレートとそれに対応するランドスケープ――これらはもともと、2020年3月20日より旧樺島小学校で開催する展示用に準備していたものだった。しかし、新型コロナウイルスの影響により展示は中止。代わりに展示予定だった諸々の要素を冊子という形で再構成したのが本書だ。

右開きで始まる「時間」と左開きで始まる「地層」の2部構成(W表紙)になっており、「時間」パートは野母崎地区住民によるスナップ写真を、「地層」パートでは写真家・松尾修氏による同住民たちのポートレートを中心に展開する。

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「時間」に収められた写真の撮影に協力してくださった野母崎地区住民の方々は計7名。各自にレンズ付きフィルム(いわゆる使い捨てカメラ)をひとつずつ渡し、「エイジング(歳や時間を重ねること)」というキーワードから連想したものや場所を撮影してもらった。

その後、現像した写真を見ながら一人ずつにインタビューを実施。うかがった話をもとに選び出した1枚の写真とそれに関わるエピソードを左ページに、それ以外のスナップ写真を右ページに配置した。

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写された情景の1枚1枚に特別なものはない。撮影者が普段から目にしている地元の風景や好きな場所、あるいは親しい人とのやりとりといった日常の光景だ。しかし単一の写真からもう少し視野を広げ、見開き単位でページを眺めてみるとどうだろう。

連続するとりとめのない時間の記録と添えられた言葉。自然そこには「歳や時間を重ねること」について撮影者が自問し、フレームを通して切り取ったゆるやかな文脈が織りなされつつあることに気づく。

それらはどれもいくぶん個人的なものであり、また個人的であるがゆえに闊達な多様性を内包する。

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一方、松尾氏による「地層」はモノクロ写真で構成される野母崎地区住民のポートレートだ。

松尾氏は佐世保市出身の写真家。生業として東京でコマーシャルの撮影をする一方、頻繁に佐世保へ帰り、そこに暮らす人々の肖像や風景を写す。「佐世保」という対象に執着する一方、どこかニュートラルな視点で繰り返しシャッターを切り続ける姿勢に、「じかんのちそう」というプロジェクトテーマと通底するものを感じ、今回の撮影をお願いした。

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「地層」で撮られているのは前述した「時間」に協力者してくださった7名だ。一般的にポートレート写真はバストアップ(胸元より上)を切り取るものが多いが、これらのポートレートは全身が写されている。なぜ被写体を中央に全身を据えて撮るのか。

松尾氏はその理由について自著の中で、「そうすると写真の中の世界は『場所』になる」(松尾修『写真の中の君は何を見ている』NEUTRAL COLORS 2020年)からだと述べる。また、バストアップ写真は撮影者の視点によって背景と分離された「私が見たもの」であるのに対し、全身を写した写真は「そこに居たもの」なのだとも。

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ポートレートの隣に対となる風景写真が配置され、すべての写真がモノクロで統一されている点も象徴的だ。類似した構図が並び、色の情報が削られていることにより時代性は後退し、見る人の認識は人物の在/不在にフォーカスせざるを得ない。

結果、「場所」としての印象が色濃く残り、その連続性の中にある種の「地層」を形成する。

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今回、「エイジング」というキーワードについて地域の方々とともに考えるきっかけづくりとして写真というメディアを選択したのは、それが言語によらない表現方法であるためだ。

言葉は人が考えを伝えるための優れた手段のひとつだが、定義が非常に明確であり、かつ使う人の技量によるところが大きいため、ときに細やかな感情のグラデーションを排除してしまう。他方、写真であればシャッターを押すだけで直感的に記録し、共有することができる。

そういう意味で本冊子は、年齢も性別も肩書きも異なる人々による「歳や時間を重ねること」についての思考の連なりであり、メッセージである。

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『地層/時間』
「時間」著者:
山崎楓太、吉田弘美、幕静代、クー・ティ・カム・トゥ、馬場広徳、菅原洋樹・真希、三浦尋⽣

「地層」著者:松尾 修

編集: 桜井 祐・篠原 繭(TISSUE Inc.)
デザイン: 吉田朋史(TISSUE Inc. / 9P)、片平有美(9P)
発行日: 2020年3月31日
発行: 長崎市文化振興課

桜井祐
TISSUE Inc. 共同設立者/編集者。1983年兵庫県生まれ。紙媒体やWeb媒体のほか、展示や服飾ブランドなど幅広い領域において企画・編集・ディレクションを行う。2008年大阪外国語大学大学院言語社会研究科(博士前期課程)国際言語社会専攻修了。同年新卒入社した出版社にてビジネス系雑誌の編集やWebメディアの立ち上げに参画。株式会社東京ピストル取締役を経て、2016年秋より自宅を九州に移し、2017年クリエイティブディレクションを中心に行うTISSUE Inc. / 出版レーベルTISSUE PAPERSを設立。福岡デザイン専門学校非常勤講師。大阪芸術大学非常勤講師。

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長崎アートプロジェクト「じかんのちそう」は、長崎市野母崎地区を舞台に「エイジング(歳や時間を重ねること)」 をテーマに取り組むアートプロジェクトです。https://invisible.tokyo/projects/nap
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