見出し画像

羽生善治「決断力」を読み返す


かなり前に書かれた本を読み返した。確か初めて読んだのは20代前半だった気がする。相変わらず一言一言が重い。一つの道を極めた人はなぜこうも若い頃から人生何周もしているかのような深い発言ができるのだろう。

1.相手のミスがあってこそ勝ちが見えてくる

  • 実は、将棋では、勝ったケースのほとんどは相手のミスによる勝ちである。

  • 将棋にかぎらず、勝負の世界では、たとえ失敗しても次のミスを防ぐことが大事だ。かっとなったら、それはできない。自分の感情をコントロールすることは将棋の実力にもつながるのだ。

  • プロ同士の場合はまず一気に挽回することは出来ない。相手のミスがあって、初めて形成は逆転する。そのときをじっと待つ。期待せずに待つことだ。意表をつかれることに驚いてはいけない。そんなことは日常茶飯事であって、予想通りに進むことなど皆無といっていい。

  • 将棋は、お互いに一手ずつ手を動かしていき、指していく。だから、自分が指した瞬間には自分の力は消えて、他力になってしまう。そうなったら、自分ではもうどうすることもできない。相手の選択に「自由にしてください」と身を委ねることになる。そこで、その他力を逆手にとる。つまり、できるだけ可能性を広げて、自分にとってマイナスにならないよう
    にうまく相手に手を渡すのだ。

  • 私は、早い段階で定跡や前例から離れて、相手も自分もまったくわからない世界で自分の頭で考えて決断していく局面にしたい思いがある。

  • 勝負どころでは、あまりごちゃごちゃ考えすぎないことも重要である。

  • キス(KISS)アプローチとは、Keep it simple, stupidのこと。これはエンジンニアリングの基本的な考え方で、コンピュータの能力が低い時代は、よいアイデアでもコンピュータの解ける範囲に、無理に押し込めなければならなかった。

2.リスクについて

  • 勝負の世界では「これでよし」と消極的な姿勢になることが一番怖い。組織や企業でも同じだろうが、常に前進を目指さないと、そこでストップし、後退がはじまってしまう。

  • 物事をすすめようとするときに「まだその時期じゃない」「環境が整っていない」とリスクばかりを強調する人がいるが、環境が整っていないことは、逆説的にいえば、非常にいい環境だといえる。リスクを強調すると、新しいことに挑戦することに尻込みしてしまう。リスクの大きさはその価値を表しているのだと思えば、それだけやりがいが大きい。そちらに目を向ければ、挑戦してみようという気持ちも起きてくるのではないだろうか。

  • 先入観や思い込みを持っていると、「違う手もあるのではないか」「ゼロに近いことに挑戦しよう」という考えは思い浮かばない。新しい考えを試み、理解していこうという気持ちも起こらない。

3.事前の準備について、努力について

  • 「いかに戦うか」は大局観にかかわるが、その具体的な戦略は事前研究が決め手になる。事前にしっかり準備して万全の体制で対局に臨んでくる人は手強い人だ。

  • 自信を持つには相当勉強しなくてはいけない。何事においても事前の研究は大切であろう。大局観と事前研究があるからこそ、最善の戦略も生まれるのだ。

  • プレッシャーを克服するには、経験が大きく役に立つ。机上の勉強や練習では養えない。実戦の中でいろいろな局面にぶつかり、乗り越えることでしか身につかないものなのだ。そういう経験のカードをたくさん持つとよいと思う。

  • ビジネスや研究の世界でも、たとえば、新しい技術を開発するのに、技術の解説書を読むことはプロとして大切だ。
    しかし、文献に書いてあることはすでに常識である。問題はそのあとだ。その先を目指すには、自分で手を動かすことが知識に血肉を通わせることになる。現場で、あちらの方向、こちらの方向と試行錯誤を重ねるうちに、生きた知識が積み重なり、ステップアップする土台ができるのではないだろうか。

  • 一回でも実践してみると、頭の中だけで考えていたことの何倍もの「学び」がある。理解度が深まることで、頭の中が整理され、アイデアが浮かびやすくなる。新しい道も開けてくるだろう。

  • 相手の意図を考えることから駆け引きは始まる。

  • 私が、将棋を上達するためにしてきた勉強法は、初心者のころも今も変わらない。基本のプロセスは、次の四つだ。
    1. アイデアを思い浮かべる。
    2. それでうまくいくか細かく調べる。
    3. 実戦で実行する。
    4. 検証、反省する。

  • 若い頃一人で考え、学んだ知識は、今の将棋では古くなり、何の役にも立たない。だが、自分の力で吸収した考える力とか未知の局面に出会ったときの対処の方法とか、さまざまなことを学べたと思っている。私は、自ら努力せず効率よくやろうとすると、身につくことが少ない気がしている。

  • 基本は、自分の力で一から考え、自分で結論を出す。それが必要不可欠であり、前に進む力もそこからしか生まれないと、私は考えている。

  • 以前、私は、才能は一瞬のきらめきだと思っていた。しかし今は、十年とか二十年、三十年を同じ姿勢で、同じ情熱を傾けられることが才能だと思っている。直感でどういう手が浮かぶとか、ある手をぱっと切り捨てられることができるとか、確かに個人の能力には差はある。しかし、そういうことより、継続できる情熱を持てる人の方が、長い目で見ると伸びるのだ。

  • 何かに挑戦したら確実に報われるのであれば、誰でも必ず挑戦するだろう。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続してやるのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている

  • 勝負に勝つことは、企業でいえば目先の利益である。目先の利益も大事だが、先行投資的な研究もしなければならない。長く将棋を続けていくには、目先の勝負以外のところで何かしなければならないのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?