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戦略コンサルの方々と働いてみた感想をつづってみた(クライアントの立場から見た風景)

前職で新規事業開発部門に所属していた時代、戦略コンサルや外銀の投資銀行部門と一緒に仕事をしたことがある。

どちらの仕事も高給でやり甲斐もあり、社会的な地位も高いためか、ここ20年間で常に最難関の就職先の一つとして君臨し続けている。

戦略コンサルタントと言えば大企業の経営者の参謀としてロジックとファクトをもとに戦略を提言する職業であり、また投資銀行社員といえばこちらも連日の深夜2、3時までの激務をこなしながら複数のM&Aを同時並行でまとめ上げ、多額の助言報酬を少人数のチームで分かち合う、超高給取りの職業だ。

前職時代、縁あって私はクライアントの立場として両方の職種の方々と仕事をご一緒することができた。

その時の経験をもとに、果たして本当に戦略コンサルや投資銀行の人々はどんな人がいるのか・本当に優秀なのか・そして実際クライアントに対して価値を発揮しているのか、について少しばかり考えを綴ってみたいと思う。

外銀投資銀行の方の話はまた次回に書くとして、今回は戦略コンサルの方々について述べてみたいと思う。

結論を先に述べてしまえば、戦略コンサルや方々は大変優秀である(ここでいう優秀さは、ロジックの組み立てや計算速度、情報処理速度、そしてコミュニケーション能力を指す)。

一方で、クライアント企業に対して価値を発揮しているかどうか、との問いにについては「クライアント企業次第」であり明確な回答ができない。あくまで先方は事業の主体者ではなく助言者の立場であり、その助言をもとに行動を起こすか・起こさないか、はクライアント企業次第だからである。

戦略コンサルの提案や投資銀行のセールスピッチには唯一欠けている部分がある。「なぜこの事業をやりたいのか」という意思や熱意である

綺麗なロジックとファクトデータで「ここに市場機会があります。参入すべきです(外銀の場合は「この市場にいる企業を買収すべきです)」とコンサルから語られても熱意や思いがないと行動に移せない。最後の意思決定のコアとなる箇所は提案された企業に委ねられている。

以降、実際の経験を振り返ってみたい。

1.どんなプロジェクトで関わったのか

私が戦略コンサルタントの方々とご一緒したのは合計3回で以下①〜③の通りであり、いずれも海外での新規事業参入に関するフィージビリティスタディでご一緒した。

①海外の市場動向調査
②海外における新規ビジネス参入機会
③海外における新規ビジネス構築(事業計画策定、パートナー候補選定も含む)

①のプロジェクトは東南アジアのとある国における金融市場の動向調査を委託したもので、プロジェクト自体は1ヶ月自体で終了した。

約1ヶ月と短期のプロジェクトであり、単純に「市場規模やその国の制度を教えてください」という内容の調査だった。我が社から支払えるフィーは少なめであったため、委託したコンサルが投入した人員は3名(パートナー、プリンシパル、アソシエイトそれぞれ1名)であった。

②、③は新規市場参入の検討について、デクストップリサーチのみならず現地でのインタビュー、地場パートナー候補の選定および面談、事業計画策定まで含めかなり踏み込んで提案をしてもらった案件である。

①のようなシンプルな市場調査プロジェクトと異なり、我が社が本格的に市場参入を検討したい、という明確な意志を持った案件であった。コンサルティング期間は片方は約6ヶ月、もう片方は1年に上るプロジェクトである。

戦略コンサル側が投入するリソースも膨大となり、従ってコンサルフィーもそれなりの金額になったが、既に我々の会社では過去の委託実績もあり、役員が委託先のコンサルティング会社に対し全面の信頼を置いていたので、委託先選定稟議を書く自分としてもスムーズに承認を取得することができた。

2.コンサルタントはどんな方々だったか

私の基本的なカウンターパートは先方のアソシエイトディレクター及びマネージャークラスであった。どちらの方もとても優秀で人当たりの良い方であった。

巷では、戦略コンサルタントといえば、パリッとしたダーク系のスーツで固め、理路整然と一瞬の隙もない語り口調で話す、スマートなイメージを抱きがちである。

私が関わったコンサルタントの方は、身なりは清潔感が溢れてしっかりしていおり、口調は非常に柔らかで物静かであり、一方的にロジックで捲し立てるというよりは聞き役に徹し、たまにボソっと一言話すような少し暗い感じの人であった。失礼ながら話す前までは見た目からスマートさを感じなかった。パートナーの方もどちらかと言えばハキハキ明瞭に喋る方というよりはボソボソと話す物静かな人だった。

たまに「こちらの話聞いているのかな。きちんと理解してくれているのかな」と不安に思う節もあるくらいリアクションのない方だったのだが、コミュニケーション能力は非常に高かった。

我々が「もっとこういうスモールスタートなストーリーで、ここでうちのリソースを投入すれば事業がヒュ、っと伸びる」といった、極めて抽象的な感覚論的なコメントを投げかけると、その意図を的確に咀嚼したスライドを見事に作り上げた。それは我々の役員からも、「そうそうこれこれ!こういうこと言いたかったんだよ」と我々の役員からお褒めのお言葉をいただくようなスライドであった(もちろん、毎回こちらの意図が完全に伝わっているわけではなく、たまに外すこともあったが)。

また、計算処理速度は異常に速かったことも付言しておきたい。とりわけ複雑な計算をおこなっているわけではないが、四則演算をその場で暗算し、紙に落としていない市場規模の推移等を即座に面談中で語っていた。

3.どんなアウトプットを受け、クライアント企業側はどのような行動を起こしたか

まず、①の市場調査プロジェクトについて述べたい。

①はプロジェクトの内容がシンプルだったことも踏まえ、中間報告等を受けながら波乱なく進んでいったのだが、契約期間最終日に50ページほどのワードの調査報告書を受領した際、我々の方から「ちょっとこの部分では粒度が粗くて上に報告できないですね。ここの部分はこういう言い方・表現に修正してください」「この業界の市場データもください。これでは上に説明できないので」と言った依頼をして、契約期間プラス1週間ほど追加調査を無償でお願いしたことがある。

この時は完全に外部委託業社の扱いを強いてしまい、先方に対して少し申し訳ない気がした案件であった。

アウトプットの結論は「ああ、やっぱりそういう結果なんだね。予想していた通りだね」という目新しいものではなかった。だが、その結論に至るまでの過程を見える化し、「なぜ当初から予想していた通りの結果になったのか」をデータに基づき示してもらった。ここにこの調査の価値があったと考える。

よく、「戦略コンサルから出てくる結論は目新しくも何ともない。Out of Boxで、斬新なアイデアを期待していたのに出てこない」という言う人がいるが、それは当然だろう。コンサルタントの結論はあくまでロジックに基づき導き出されているからだ。そしてロジックに基づく結論は得手して当初想定していた通りの当たり前の結論になりがちである。

もし奇抜なアイデアを期待するのであればそこに至るまでには必ず論理の飛躍がどこかであるはずであるが、戦略コンサルはそうしたアプローチを基本的に好まない。従って他の会社に委託した方が良い。

なお、この市場調査を以て依頼元である我々が何か行動を起こしたかと言われれば、結局「参入は時期尚早」という結論になり、調査結果を役員まで説明して「ご苦労様」というコメントで終わった。

次に②、③のプロジェクトについて述べたい。

いずれも長期にわたるプロジェクトであり、1週間〜2週間に一度の進捗報告会を受けつつプロジェクトが進んだ。進捗報告会では毎回30ページ〜100ページの膨大なプレゼン資料を元に、主にパートナーから説明を受けていた。

時折、我が社から先方に対してプレゼン内容について茶舞台返し的なリアクション(提示された提案内容をガラッと180度変えてくれ、という依頼)を取ることもあり、当初スケジュール通りに順調に進んだわけではなかった。だが、6ヶ月〜1年も一緒にプロジェクトを進めているとお互いの心理的な距離感も近くなる。終盤は、頻繁に電話でコミュニケーションを取り合い、お互い意思疎通をしながらプロジェクトを進めることができた。個人的には、先方のコンサルタントの方々とも最後は心理的距離をずいぶん縮めることができたと勝手に思っている。

少し話が脱線してしまうが、プロジェクト終盤、我が社とコンサルタントと一緒に海外出張をして海外パートナー候補にプレゼンをしたのだが、その後現地でコンサルタントの方々と一緒にディナーを食べたのは良い思い出である。

ディナーは総勢15人くらい(コンサルタント10名、我が社5名程度)で、二つのテーブルに分かれて座った。一方はパートナーと我が社の常務・部長のテーブル、もう一方はマネージャー/アソシエイトの方々と我が社の担当者のテーブルで、私は後者のテーブルに座っていた。

ディナー中の会話(全て英語)は知的なものばかりだった。とある現地のマネージャーの方が「最近、自分がIntravert(内向的)かExtravert(外向的)かと言う心理テストを受けたんだけど、私はIntravertだったんです。Intravertだとビジネスパーソンとしての能力が低めと思われがちだけど実はそんなことはなくて、優れた経営者は皆Intravertらしいですよ。最近そんな論文を読んで安心したんです」と言えば、「Intravertな人ほど一つの専門性を極めるのに適してそうですよね」といった会話がどんどん弾む。

ビジネスで与太話は重要だ、とよく言われるが(以下書籍ご参照)、その与太話の内容さえ知的水準が高く、大変刺激を受けた。

話をプロジェクトに戻す。

6ヶ月から1年かけた最終プレゼンは、東南アジアの現地パートナー候補に対して行うことになった。我が社から、現地パートナー候補に対して、「一緒に東南アジアで事業をやっていこう」と迫る内容だ。こういう時はアドバイザーであるコンサルタントではなく、当然ながら事業の主体者たる依頼主(我が社)がプレゼンを行うのが最も効果的である。

事前にプレゼンの内容を熟読し、プレゼン作成者であるコンサルタントともどうすれば効果的なプレゼンになるか、を議論し合い、プレゼンテーターである我が社の常務と発言内容を詰める。そして本番ではプレゼン作成者であるコンサルタントが同席の下、先方にプレゼンを行った。

結果、その場では先方から提携について良好な返事をもらえたものの、その後の事業環境の変化や先方およびこちらの人事異動等もあり、プロジェクトは頓挫してしまった。

外部環境を言い訳にせずに理由を探れば、事業の主体者たる自分達が、コンサルタントの作ったスライドにもう少し意志と本気度を入れてプレゼンをすれば、違った結果になったのかも知れないと反省をしている。

だが、このプロジェクトに最初から最後まで関与し、支援をしてくれた戦略コンサルタントについては感謝の念しかない。彼らが睡眠時間を削って調査・分析・作成した資料があったからこそ、自分たちは自信をもって現地パートナー候補先との面談に臨むことができた。振り返ってみても、戦略コンサルが作ったアウトプットを、自社内のリソースで出すことは質・量の観点から不可能であったように思う。そしてここに、戦略コンサルを登用する意義・価値があったと考える。

「戦略コンサルは使えない。何もやってくれない」と言う人を時折見かけるが、それは戦略コンサルが悪いのではなく、「業務委託の発注元である事業会社がコンサルが対応可能な業務・対応不可能な業務を理解していないから」だろう。

戦略コンサルが対応可能な業務とは、ファクトデータの分析結果に基づく提言であり、対応不可能な業務とは、提言に基づき実行する力である。

コンサルは「なぜこの事業をやるべきか」について説明はロジックやデータを元に説明できる一方、「なぜこの事業をやりたいのか」は説明できない。事業の主体者ではないからだ。そしてこの「やりたい」という意志については、どんな優秀なコンサルタントであったとしても対応ができない箇所なのだ。

事業会社において、「ここの市場が伸びているからこの市場に参入しましょう」という市場データのみを以て新規参入の意思決定を行う事例は、少なくとも私は見たことがない。

そこには「なぜ自社がそこに参入したいのか」「なぜ自社は参入すべきなのか」という意志や考えが入っていないからだ。

「なぜ参入すべきなのか」は最悪、コンサルが競合他社分析等を駆使して考えてくれるかもしれないが、「なぜ参入したいのか」については誰も答えをくれない。自分達で考えるしかない。

もしかしたら、「コンサルは使えない」と言っている人々は、「なぜ参入したいのか」という部分まで考えてくれることを期待しているから、その期待値とのギャップが生まれ、コンサルに失望しているのかも知れない。

次は外銀の投資銀行部門と一緒に働いて経験についても述べられればと思う。


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