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【マッチレビュー】2022 J3 第22節 AC長野パルセイロvsギラヴァンツ北九州

連敗しない強さ

 8月28日、長野Uスタジアムで行われた2022 J3 第22節 AC長野パルセイロvsギラヴァンツ北九州の一戦は、1-0でホームチームの勝利となった。
 今季は第5節のいわき戦を除いて、ホームで敗戦のない長野。そのジンクスを継続するかのように見事に勝点3を掴んだ。前節の八戸戦では、後半戦初の敗戦となり、4連勝&6戦連続負けなし記録がストップ。終始劣勢だったわけではないが、相手の時間帯であった20分間で3失点を喫した苦いゲームだった。しかし、記録ストップや今季初の逆転負けを今節に持ち越さず、メンタルをリセットした状態で試合に入れているように感じた。最小得点差であったものの、主導権を握り試合を進められていたのではないだろうか。
 一方の北九州は、いずれも0-1のスコアで3連敗。松本・長野という上位陣に対して最小失点で乗り切ることができたとも捉えることができるが、得点が生まれずに勝点を得ることはできなかった。今季の序盤で6試合連続無得点という状況があったが、今節の無得点によって3試合連続無得点となっている。チーム内得点トップタイの高澤選手の不在による影響もあってか、課題である得点力の改善は、目に見える形では出てこなかった。

スタメン&ベンチメンバー

 ホームの長野は前節から2人スタメンを変更した。累積警告で欠場となった森川のポジションには、大方の予想通りデュークが入り、GKには大内が復帰する形となった。また、直近2試合でRWBを務めていた藤森が中央に入り、入れ替わる形で佐藤が外側に立った。大枠としては変更がなく、徐々に形になりつつある3-5-1-1→4-2-3-1の可変システムだった。
 一方、アウェイの北九州は前節から1人スタメンを変更した。LSBのファーストチョイスである乾選手に代わって、長谷川選手を起用した。システムとしては開幕から一貫している4-4-2を選択。少しずつメンバーを入れ替えながら試している様子もあるが、基本的には開幕戦から一貫した狙いを持っていることがわかる。その一方で、チーム内得点トップタイの高澤選手が登録外だったことは、個人的に好都合に感じた。開幕戦で対戦した時も明らかに違いを作り出せる選手であると感じていたからである。

ビルドアップの手段化と目的化

 "ビルドアップ"に対する両チームの認識の差が試合の中で顕在化していたように思えた。
 北九州は1試合平均ボール支配率が54.5%であり、J3トップの数値を記録している。つまり、ボールを保持できるチームであると言えるだろう。J1における同じデータで上位に立つチームは川崎Fと横浜FMである。リーグこそ異なるものの、54.5%という北九州の平均ボール支配率を上回るのも前述した2チームのみである。川崎Fと横浜FMは、他上位チームに比べて3試合も未消化があるにも関わらず、それぞれ3位と1位につけるリーグ屈指の強さを誇る。
 J1では「ボール支配率の高さ=強さ」のように見えるデータが、なぜJ3ではそう単純に通用しないのか。それは、「ボール支配率=勝率」という式そのものがサッカーの本質とは少しずれているからである。
 サッカーは90分間で、より多く得点を奪ったチームが勝者となる。ボールを持っていた方が勝ちではないのだ。ただ、当然ボールを握っていた方が相手の攻撃時間を削れ、自分たちの攻撃時間を増やすことができる。言わば、ビルドアップを含めたボール保持は勝つための"手段"に過ぎない要素である。北九州側としては本望ではないと思うが、ボール保持が「手段」なのか「目的」なのかで勝敗が分かれたゲームに見えた。

 長野のビルドアップは、最近形になりつつある可変型4-2-3-1。

 GKを中心に4バックはPA幅まで広がり、サイドレーンの低い位置でボールを受けることはしない。対して、ボールを握って自分達の時間帯を多く作りながら試合を進めたい北九州としては、前線からのプレスをかけてくる。2トップと両SHが4バックに対して正対するように立つ守備。長野のビルドアップ配置が中央に集中しているため、北九州の守備ブロックも必然的に中央に集中するようになる。

 LSBに入る杉井が保持した場面での一例。中央のハーフスペースからサイドレーンにデュークが流れ、相手の守備網を広げる。そのギャップに入り込むのが水谷であり、常に相手の背後を伺う動きをするのが山本。長野のビルドアップを見ていると詰まりそうな印象を受けることもあるかもしれないが、ボールホルダーに対して少なくとも3ヶ所のパスの動かす先は見えているように感じる。そのため、所謂詰んだ状態が起きづらく、ロストする位置も危険なポジションではないことが多い。
 見ている方の中には「何をチンタラ低い位置で繋いでいるんだ」という感想を持たれる方がいるかもしれない。しかし、このボール保持は繋ぐことを最終目的としておらず、相手の「どこに」「どのように」集めているかをピッチ全体で共有し、どこに決定的な穴が開くかを探っている状態なのだ。シーズン初期こそ慌てて選択している場面が散見されたが、直近の試合ではそのような場面は非常に少なくなった。戦術としての浸透がうかがえる成果である。

 そして、このボール保持で面白いのが三田に余裕がある状態でボールが入りやすくなったということ。以下のことは、あくまでも感覚値でしかないことだが、最近の長野と対戦するチームは、長野のビルドアップを捉えようとする際に前線とDFが分離している傾向がある。
 GK+4バック+ダブルボランチで細かなパスコースを構築し、相手の前線の選手を食いつかせる。一方で、SHやCFはスペースと時間があれば、躊躇なくDFラインの背後に抜け出していく。この結果、相手ボランチの背後のスペースで三田が浮くのである。
 過去2シーズン彼の長野での活躍を見てきて、明らかなフィニッシャータイプだと考えていたのが、覆された瞬間であった。「まずい…詰まった」と外からは思える状況でも、面白いように三田がプレス回避の起点となって、相手の1stライン・2ndラインを突破していく。今季は得点こそ生まれていないものの、スペースと時間のある状態で三田が持つことによる脅威という雰囲気は復活してきているような気がする。

 一方の北九州のビルドアップは、ある意味"教科書通りの優等生"のような印象を受けた。ディフェンシブサードからミドルサードに進入する局面でのミスはほとんど発生せず、スムーズに前進できていた印象がある。(長野が整った状態でのビルドアップに対して、強くプレスに行かなかった影響もあるが…)

 4バックの選手たちは確実にボールは保持でき、SHが高い位置をとったところまでの迂回経路の設計も明確に整備されていたような印象を受けた。それでも、長野の選手が自陣ゴール側(ブロック内側)から配球先に対して必ずプレスをかけられる構図が続いた。なかなかブロックに亀裂を入れるようなパスを差し込めなかったのである。
 この構図の原因が北九州の戦術の狙い目にあるのか、長野のブロック構築にあるのかは定かではない。しかし、ビルドアップに対する考え方が「手段」と「目的」とに分かれたコントラストが内容にも表れていた。特に、それは前半45分間で顕著だった。

足を止めさせるほどの連動性と連続性

 この試合で長野が素晴らしかった点が、連動性と連続性に優れたネガティブトランジションを見せたことだ。
 前半30分以降から顕著になる現象で、長野の攻撃を北九州が凌ぐという構図がしばらく続く。その中で、長野もファイナルサードでの精度を欠き、得点を奪えない状況が続いていた。しかし、第21節八戸戦の苦い思い出を反骨心としたのか、誰一人として足を止めずに即時奪回を目指した。
 北九州が奪ったボールから攻撃のスイッチを入れようとするも、全て球際で長野が勝ち北九州陣内に押し込み続けた。相手が整った状態でないと見ると、即アプローチに入り、その守備スイッチを全体が共有できている状態であった。
 余裕がある方は30:00〜35:00辺りの戦いを見直して欲しいのだが、トランジションで優位に立つ長野の選手は走り続けてボールを回収している。一方で先に足が止まったのは北九州の選手たちだった。長野の選手の方が一歩が早く、攻撃が途切れることがなかったように感じた。
 次節の対戦相手であるいわきは、トランジションでリーグトップクラスの厚みをもつチームであるため、このような躍動感のあるトランジションが見られたことは好材料だと言える。

連続性が生んだ先制点

 十八番となってきたビルドアップから得点を生んだとも言えるが、途中で攻撃が途切れても不思議ではない流れだった。左サイドから繋いでいたが、右サイドへの展開が合わなかった。しかし、ルーズボールに対して藤森がプレッシャーをかけ続けたことで、クリアボールは佐藤の元へ。左から右へのスライドが間に合っていなかったため、中央の三田がフリーでボールを引き出す。スルーパス先はゴールに近い山本へだったが、相手DFに阻まれる。しかし、相手PA付近でありながら真っ先に反応したのは、最後方の杉井。杉井-デュークの黄金左サイドコンビによるパス交換から仕上げたのは山本。
 デュークによる左サイド深い位置からのクロスにファーで押し込む形での得点は、開幕節の森川によるゴールを彷彿とさせた。狙いどころであったSBの背後からまたしても得点を奪うことができた。分析による弱点を突いた形とも見えるが、この一連の流れで一度も相手にボールをコントロールさせなかったことが最も大きな先制要因と言える。
 大内からボールを動かし始めてゴールネットを揺らすまで約30秒。杉井が相手の2ndラインを突破するきっかけを作ってから約20秒。たかが30秒かもしれないが、されど30秒。得点に向かってチーム全体が連動性を持って、連続して動けていたからこその先制点であった。
 相手の2ndラインを突破してからのスピード感が悉く決定機につながる最近の長野。おそらくシュタルフイズムの浸透を意味する事象だと思うが、ここまでの完成度を1シーズンかけずに持ってきたことには驚かされる。もちろん、1ゴールしか生み出すことができなかったわけだが、あとは個人のクオリティと言わざるを得ない場面が増えてきた。一朝一夕で仕上がる点ではないことが歯痒いところだが、決定機の質・数の両面から考慮してももう少し決定力は欲しいところだろう。
 (本当にここだけは積み重ねるしかない反面、結果として出てくるのに最も時間がかかる…)

まとめ

 内容だけを見ると、今季の中でもトップクラスにやりたいことができて、相手のやりたいことを封じた素晴らしい試合だった。もちろん、順位の差やチーム状態の差はあるが、第21節の敗北をひきづらない勝利となった。欲を言えば、複数得点で勝利を一気に手繰り寄せたかったが、まだまだそこは成長過程。今季序盤のビルドアップで感じた不安を払拭する成長を見せたチームには期待しないわけにはいかない。長野にとって、他会場の結果も悪くなく、第9節終了時点以来久しぶりのトップ6に入ることになった。決定力に不安は残るが、次節はアウェイで首位いわきとの決戦となる。昇格争いを自力で面白くする絶好の機会。最高の状態でチャレンジャーとしてぶつかり、ホームでの借りを返そう。
 一方、敗れた北九州はこれで3連敗。2017年1度目のJ3降格シーズンもJ2経験組ながらに満足な結果を残せなかった。当時は36試合で勝点46で9位フィニッシュ。1試合平均の勝点は1.6。今季は第22節終了時点で1.0となっており、上位の勢いもあって更なる苦戦を強いられていると言える。それでも、J3で最下位となった2018シーズンの翌シーズン見事に優勝を果たした。強力なチームであることは疑う余地もなく、得点さえ生まれれば…という状況をどう打破するかが今後の鍵となるだろう。次節は、今J3で最も勢いのある今治との対戦。攻撃力のある相手であるため、取られても取り返す勢いで望みたいところだ。

 今治が鹿児島を壮絶な乱打戦の末に撃破。いわき・鹿児島・松本も絶対負けないチームではない。まずは次節のいわき戦、熱い熱い戦いを繰り広げ、第5節で忘れた勝点3を取り戻そう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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