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【マッチレビュー】2022 J3 第9節 AC長野パルセイロvs松本山雅FC

 5月8日の天皇杯長野県予選で勝利を掴んだのは松本山雅FCでした。その戦いからわずかに1週間、戦いの場をUスタに移してJ3第9節で再び両クラブがぶつかり合いました。
 パルセイロは宿命の相手に2週続けての敗戦は許されない状況、そんなクラブを後押しするかのようにホームUスタには大勢の観客の方が詰めかけました。当然、松本山雅FCを応援するサポーターの方も多数詰めかけ、超J3級の雰囲気の中、試合が行われました。
 パルセイロ史上最大の観客動員数となったこの試合でしたが、ピッチ上では、どのような戦いが繰り広げられていたのか、分析を通してお伝えしていきたいと思います。この試合で初めてシュタルフパルセイロを目にした方もいれば、サッカーをスタジアムで見ることが初めてだった方もいるかもしれません。どんな方にも伝わりやすい分析を心がけていますが、現代サッカーの複雑化は日々進化しているので、理解に難しい箇所が含まれていたら申し訳ありません。最善を尽くして、この熱い信州ダービーの振り返りをしていきたいを思います。

①試合結果

 13000人を超える大観衆が見守った激闘は、双方共にゴールを奪うことができずに0-0のスコアレスドローとなりました。試合結果だけを見るとスコアレスドローなので所謂「塩試合」と思われる方もいるかと思いますが、決してそんなことはなく内容の詰まった試合だったかと思います。
 37歳でJクラブの指揮官を務める若き闘将シュタルフ監督と4月のJ3最優秀監督にも選ばれた知将名波監督の1週間前のダービーを踏まえた戦術は見どころに溢れていたかと思います。それでは、あの非日常の雰囲気の中、両チームが見せたぶつかり合いを戦術面から詳細に振り返っていこうと思います。

②基本システム

3-3-2-2vs4-4-2

 この試合のプレビューで私が予想していたのは、パルセイロは基本システムを変更せず、松本山雅FCが基本システムを変更するといったところでしたが、予想は大外れとなりました。天皇杯長野県予選決勝からシステムを大きく変更しなかったのは松本山雅FCで、システムに若干の変更が見られたのがパルセイロでした。
 松本山雅FCはオーソドックスな4-4-2の形で、攻撃時に菊井選手がある程度自由な立ち位置で中央に入ってきたりする場面がありましたが、基本的には4-4-2の安定したブロックから強力な2トップを使う狙いが見て取れました。
 パルセイロは天皇杯長野県予選から2枚スタメンを変更しましたが、大枠は大きく変化していなかったため、これまでと同様に4-1-2-3→攻撃時左上がりの3バック化かと思いました。しかし、この試合では守備時に明確に三田の位置が低くなりWBのような役割を担っていました。やや流動的であったものの、東ではなく森川をIH気味に配置したのは、宮本の1列後ろでもう1つ高さで勝負できる柱を置き中盤のハイボールを掌握されないようにする狙いがあったかと思います。

③前半

【攻撃】

5-3-2(3-3-2-2)からの攻撃時可変

 パルセイロは守備時に5-3-2のブロックを構築して松本山雅FCの攻撃に対抗しました。しかし、攻撃時は守備と変わらない配置ではなく、特に左サイドの選手を適所に配置する可変システムを取りました。
 3バック+住永の1アンカーで菱形を形成し、時には大内もビルドアップに参加することで安定したプレス回避を見せます。シーズン序盤にも3バックを採用する試合がありましたが、当時と比べると短期間ですが成長したことが伺えます。

 守備時にIH気味の立ち位置だった森川は攻撃になると左サイドレーンいっぱいに張り出して幅を担保します。森川がサイドの幅を担保し、その空いた中央のスペースに水谷が絞ってビルドアップの経由地点を作ります。水谷がサイドレーンに張ったままにならないことで、配球能力に優れた秋山から森川へのパスコースも自然と空くことになりますし、水谷が守備時より中央に絞り込むことで相手LSHのマークも不明瞭になり、秋山や喜岡のプレー選択時間を確保することにもつながります。
 また、パルセイロのビルドアップはほとんどが秋山や水谷のいる左サイドからの形でしたが、ビルドアップの段階で詰まることはほとんどなく、スムーズに松本山雅FCのブロックを自陣まで押し込む場面がありました。

 相手陣内深くまで進入し、アタッキングサードをどう攻略していくかという段階で「その1本がつながれば…」という場面が何度か見られたため、堅守の松本山雅FC相手にも通用する攻撃の厚みを作れていたかと思います。ただ、相手としても絶対に自由にさせたくないエリアでのプレーになるため、フィジカル勝負で勝ったり負けたり、ラストパスの精度が合わなかったりと決定機という決定機は作ることができませんでした。それでもこれまでアウェイゲーム全勝の松本山雅FCを押し込む攻撃にはなっていました。
 松本山雅FCの大きな武器は前線のタレントを生かした鋭いカウンター攻撃だと思うので、相手選手全員をある程度相手陣内に閉じ込める意味でも攻撃の厚さは良いものが出せていた場面が多かったと思います。

 ビルドアップのミドルサードの段階で中盤と最前線を繋ぐスペースに選手が配置されず、中途半端な横パスが相手ボランチに回収されカウンターを受ける場面がありました。50%以上はスムーズに前進できた感覚ですが、この辺りのアタッキングサードへの進入段階のスムーズさが出てくるとアタッキングサードに入った後のシュートまでの形や崩しの正確性にもつながってくるかと感じました。
 およそシーズンの4分の1強が終了した時点ですが、間違いなく戦っていく中で配置を生かした前進の質は良くなってきていると思います。ディフェンシブサードからミドルサードまでの経路構築はある程度完成形が見えたため、その先の設計を早い段階で浸透させられるかがシーズンの鍵になってくるでしょう。

【守備】

5-3-2vs4-2-2-2

 松本山雅FCは守備時に4-4-2のブロック組織しますが、攻撃に入るとSHの選手は外側に張るというよりも内側のレーンに入って4-2-2-2のような全体図になります。おそらく、パルセイロの1アンカーの脇という急所を狙うための形だと思いますが、SHに入る選手の特徴も生かした戦術だと感じました。
 そんな松本山雅FCに対してパルセイロは5-3-2の守備組織を作り対抗しました。2トップが最終ラインからボランチに入るパスコースを遮断し、相手のビルドアップを外回りに設定させるお得意の守備の形に誘い込みます。

 序盤は4バックでピッチ幅を目一杯使って攻撃を組み立ててくる松本山雅FCに対して若干後手を踏み、中央の2トップや2列目に差し込まれたところからシュートに持ち込まれる場面もありましたが、決定的な場面を作らせるには至らず失点することはありませんでした。
 後手を踏んだと説明しましたが、このあたりのIHのスライドにかかる時間はある程度織り込み済みなはずなので、IHの相手SBに対するプレス局面でボール奪取を狙うというよりも差し込んだ先で刈り取る狙いがあったと思われます。相手の2トップ+2人の2列目に対して5バックを当てることで必ずパルセイロ側が+1になる状況を作り出していたことが、決定機を作らせなかった守備の鍵になっていたのではないでしょうか。

 序盤こそ松本山雅FCの攻撃の鋭さに若干バタつきましたが、ビルドアップの安定感を持って徐々にパルセイロがボールを握る時間も増えていきます。ビルドアップでスムーズにアタッキングサードに入り、ボールを失ったとしても松本山雅FCは長いボールで2トップを狙って攻撃を再開するしかなく、3バックでビルドアップしているパルセイロ守備陣としてはここでも+1を作り出せていたため、大きなピンチを受けることはありませんでした。長いボールに対しては秋山を筆頭に良い形でインターセプトができていたため、二次攻撃三次攻撃にも繋げられた時間帯もありました。
 どちらかといえば、やはりミドルサードで引っかかった時の方が危険な状態を作られていたため、守備の安定感を出していく上でもビルドアップのデザインが重要になってくるかと思います。

④後半

【攻撃】

 後半も大きくは試合の構図は変わりませんでした。パルセイロの攻撃では、左サイドを中心にビルドアップを狙いゴールを目指しました。前半に比べてより一進一退な攻防と呼べる試合展開になり、前半のような時間帯によるターン制のような攻守よりもより早く攻守が入れ替わる状態が続きます。
 パルセイロは後半開始から住永に代えて宮阪を投入しました。住永は細かいパステンポで攻撃のリズムを作り出すことに長けていますが、宮阪はミドルからロングレンジのパスで局面を一気に変えるのに長けた選手であると思います。彼が入ったことで狭い局面から一気に打開して相手の守備網が揃い切る前にフィニッシュまで持ち込む攻撃が狙いだったのではないでしょうか。
 そんな宮阪の展開力をさらに強力に生かすべく、試合開始から攻守に最も動くポジションに入っていた森川、三田に代えてデューク、藤森を投入しました。相手の整っていない守備網であれば、ある程度個人の突破力を使って突き破れる選手ですから、その能力に期待した采配だと思います。
 ただ、前半に比べて攻守の入れ替わりが激しくなり、一定時間相手を押し込むというよりもお互いに間伸びした展開になることで期待していたほどの局面を作るには至らなかったかと推測します。デュークが入って以降は大人戦に強い宮部選手も投入され、完全に左サイドの突破を止めるシフトに入っていたため、なかなか崩せなかったというのも関係しているはずです。
 攻撃の滞りをそこまで感じなかったのに、ゴール期待値(xG)では松本山雅FCの0.95に比べて0.44と半分程度だったため、大外のレーンからいかに一つ内側に入っていくかが今後の得点増大の鍵になってくるでしょう。

【守備】

 前半に比べて松本山雅FCの2トップがDFライン前のスペースに降りなくなったことが影響し、前半に比べるとコンパクトな陣形を保ちきれなかった印象を受けました。ただ、後半は前半に比べると相手のエースである横山選手に何もさせない守備網が完成されていたかと思います。松本山雅FCとしてもお互いに間延びしたことで、中央でボールを握る場面はあったかと思いますが、前半に比べると有効な縦パスが少なくなったと感じました。
 間延びしてきたことでポストプレイヤーとして榎本選手を投入して一時預け場所を作ろうとしますが、天皇杯長野県予選でもマッチアップした秋山や喜岡の対空能力を前にあまりポストプレイヤーとして機能しない状態になりました。パルセイロの3バック(5バック)の整頓の速さで横山選手の裏抜けも対策し、相手の長所をなくす守備ブロックが整っていたかと思います。
 相手が4-4-2ではなく4-2-2-2という中央に人が多くなる形で攻めてくることもあり、5バック採用によるサイドレーンの人不足も感じませんでした。
 終盤に相手のセットプレーが連続しましたが、集中力を切らさずにクリーンシート達成。こういった拮抗した試合ではセットプレーが鍵になるため、最後まで0で抑えたことは大きな収穫と言えるでしょう。また、無失点だったため、今季ここまでアウェイゲームでは全試合得点していた松本山雅FCの攻撃を零封、松本山雅FCにとってはアウェイゲームで初めて勝てなかった試合となりました。

まとめ

 13000人を超える大観衆が詰めかけた11年ぶりのリーグ戦での信州ダービー。とてもJ3とは思えない雰囲気の中、長野県のJクラブである両クラブが激闘を繰り広げたことはとても素晴らしい空間だったと思います。大都市圏ではない長野県ですが、プロサッカーの試合でここまでの熱狂を生み出すことができるという大きな一事例を作り出したと思います。
 もちろん、試合に勝てなかったことは悔しいですが、あの雰囲気を作り出してくれたパルセイロファミリーの皆さん、松本山雅FCに関わる皆さん、審判団を含む運営の方には感謝しかありません。
 信州ダービーが終わり、次週は天皇杯本戦ウィークということでパルセイロは休み週になりますが、燃え尽き症候群のような形でFC岐阜戦を迎えないようにしっかりサポーターから切り替えていきましょう。信州ダービーで負けなかったことは大きな収穫ですが、34分の1のリーグ戦で見ると首位と勝点差が開く結果になってしまいました。
 第9節を終えて暫定順位がパルセイロより上のチームとの前半戦は早くも終了してしまいました。1位から4位相手に1勝2分1敗と完全に五分の成績、昇格を目指すなら、これから対戦する前半戦全てで勝点3が必要になってくるでしょう。暫定順位が上のクラブが負けないことを想定すると勝点3以上離されてしまうと自力での順位表逆転はできなくなります。現在首位の鹿児島ユナイテッドFCとは勝点差5、2位から4位とは勝点差3です。もうデッドラインはそこまできています。今の順位に驕ることなく、常に挑戦者マインドで一戦一戦戦っていけば、パルセイロが勝てないクラブはないはずです。
 天皇杯週を挟んで迎えるFC岐阜とのホーム2連戦。FC岐阜を率いるのは横山雄次監督です。昨季までお世話になりましたが、勝点を1たりとも譲る気はありません。開幕前の移籍期間でJ3界を盛り上げたスター集団に全力で挑み勝点3を掴み取りましょう!

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