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【マッチレビュー】2022 J3 第17節 ガイナーレ鳥取vsAC長野パルセイロ

前半戦終了

 7月16日にAxisバードスタジアムで行われた2022 J3 第17節 ガイナーレ鳥取vsAC長野パルセイロの試合は0-1でアウェイチームの勝利となりました。今季のJ3リーグは18チーム編成ということで今節の終了により各チーム折り返しを迎えることになりました。(FC今治とY.S.C.C.横浜は第17節がコロナ感染の影響で延期。)
 連敗でこの試合を迎え、今節の敗戦により3連敗となって前半戦を折り返すことになったガイナーレ鳥取。対して、2戦負けなしの後今節での勝利を収め前半戦最終盤を2勝1分で折り返したパルセイロ。確定的なことではありませんが、前半戦の勢いという面から推測すると最終盤の3戦が後半戦にも影響してくるでしょう。今季は中断期間がなく、すぐに後半戦に突入するため勢いを取り戻すのは難しく、一度確実な勢いをつければ最終節まで継続する可能性が高いです。
 両チームにとって後半戦に向けた課題と成果が見られた試合を振り返り、後半戦に向けて切り替えていきましょう。中断期間がないからこそ、パルセイロにとってはこの3戦負けなし折り返しを良い材料にできるかは自分たち次第となります。どの試合からも得るものと改善するものは吸収できるはず。まだまだ"Grow Everyday"、パルセイロは旅の途中です。

前半

輝く33

 この試合を通して輝きを見せたのが、パルセイロの33番、山本大貴だったかと思います。今季リーグ戦で初スタメンを飾り、得点力増強の一員として期待を寄せられる山本ですが、今季はシーズン開幕直前に怪我をして出遅れる時期もありました。その後は途中交代でIHやRWGに配置されることが多かったですが、ついに中央の最前線とも取れる位置で起用されました。
 何といってもこの試合唯一の得点を決めたのは彼でした。宮阪の"落ちる"FKを相手GKがファンブルすると狙っていた山本が頭で詰めて先制します。わずか開始から2分の出来事で、立ち上がりからギアをマックスに持っていけることが多くなかったパルセイロにとっては貴重な得点となりました。所謂、"そこにいる"FWとしての能力が垣間見られた気がします。
 そして、この試合彼が最前線ではなく2列目にいることに大きなメリットがありました。それは、周りを生かす力+シャドーターゲットとしての力です。

 パルセイロがGK+2CB+ボランチ1人でボール保持をし、ビルドアップを試みている時、ガイナーレ鳥取は前線からプレスをかけて積極的にミスを誘発させにきます。現状のパルセイロのビルドアップの安定感は開幕頃と比べれば幾分安定しているものの、まだ強力な武器と呼べるほどの安定感はないように思えます。この試合でもいくつか急所に関わるミスが発生しており、ガイナーレ鳥取として、そこを突いてくる狙いには違和感は全くありません。 
 ただ、この試合ビルドアップの預けどころとして山本が大きな役割を果たしたため、ガイナーレ鳥取の守備網は完全に機能したとは言えない状況だったかと思います。パルセイロの低い位置での繋ぎにガイナーレ鳥取を食いつかせて生まれた中央のスペースに山本がいます。ここに後方から差し込みのミドルパスが入り、山本が卓越した1タッチ目の精度で相手をいなす捌きを見せます。4-2-3-1でこれまでトップ下で起用されていた東・山中・佐藤のどの選手にもない2列目の預けどころという特性がうまく現れた試合でした。デューク・宮本が相手のDFラインを押し下げることで生まれた山本のスペース、ここに関わるSBや高い位置のボランチに対しての正確な1タッチは相手のプレスを完全に剥がし、相手陣内に押し込むきっかけとなっていました。
 「トップ下は山本が最適解」ということを言いたいわけではなく、戦い方の幅ができたことがとても大きな成長材料になると思われます。他の選手に比べると高さも出ますし、2列目からの飛び出しという点でも特長を生かせます。相手によってはプレス重視で佐藤を起用するのも良し、一撃の鋭さを求めるなら山中を起用するも良し、ショートパスで中央のリズムを作りたいなら東を起用するも良し。「冷蔵庫にあるもので美味しいものを作る=選手の特長を最大限引き出す」ことに長けた指揮官だと思うので、新たな食材orスパイスが手に入ったと思うと、他の選手との化学反応も後半戦で見られるかもしれません。

前で奪い切る圧力

 第10節〜第12節の悪夢の3試合以降パルセイロは4-1-2-3の基本システムから4-2-3-1の基本システムにシフトしていると思います。そして、基本システムの変更に伴って変化を感じるのが、相手のビルドアップに対する守備です。

図はギラヴァンツ北九州戦のもの

 4-1-2-3では、最前線の3トップで相手のビルドアップに対して中央に岩を設置する形で相手の攻撃を外側に迂回させ、中盤3枚がスライドしてボールホルダーであるSBに対して圧力をかけて奪い切るという守備を見せていました。
 この守備組織だと脆弱になるのがアンカー脇のスペースです。IHのプレス時に背中でスペースを消せていなかったり、逆サイドのIHの絞りが甘いと、せっかく外側にボールを追い込んだのに、SBから中央の守備が薄い箇所に配球されることになります。また、宮阪が守備重視のアンカー起用ではないことも重なり、前線3枚は休ませられるが中央に広大なスペースを作る"諸刃の剣"な側面も見せていました。
 開幕戦のギラヴァンツ北九州では、絶大な効果が見られたようにパルセイロ側に有利に噛み合えば武器ですが、噛み合わないとアンカー脇を突かれ、前線3枚とそれより後ろが分断されがちになるという状態でした。

 船橋が復帰した第13節以降、比重が大きくなってきたのが4-2-3-1での守備です。シュタルフ監督になって以降、重視されているのが相手の攻撃を外側に追い込むこと。そして、外側で奪い切ることだと思います。4-1-2-3では3トップが相手の攻撃を迂回させるきっかけになっていましたが、4-2-3-1では、2列目の3人がその役割を担います。1トップは相手のCBに対してワンサイドカットで攻撃方向を一方に絞り、2列目はCBが配球するギリギリまで中央で構え、SBにパスが出たらプレスをかけます。奪いどころとしては4-1-2-3の頃と大きな変化はありませんが、中盤を1アンカーではなくダブルボランチで迎撃できるようになったのが大きな変化だったかと思います。宮阪の守備負担が減り、攻撃のタクトを振る場面が増えたことで、整備化された守備は攻撃にも好循環を生み出し始めていると思います。
 また、ピッチ全体を俯瞰で見た時、攻守に通じてパルセイロの選手が逆三角形に配置されるようになり、攻守の切り替えがよりシームレスにローリスクで行えるようになってきています。

後半

人基準の危うさ

 前項で述べた守備組織に生まれた隙、危うさが垣間見られた場面を見ていきましょう。

 前項で述べたような守備組織は今節のガイナーレ鳥取相手にも有効な守備となっており、パルセイロのミス起点のボール奪取以外ではPA内に侵入させることすら許さない守備だったかと思います。しかし、そんな中わずかですがガイナーレ鳥取が守備の隙を突いてパルセイロのゴールに迫った形は上図の通りです。
 CBからSBに出るパスをSHが狙いプレスをかけます。しかし、十分に圧力がかかりきっていない状態でボールサイドのDFラインの選手がマークするべき選手を外側に置いてしまう場面がありました。このことによって、選手間のギャップが広がり、相手にスペースを与えてしまうことになります。ボールをサイドに追い込んだ時に、奪い切ろうという意識が強く立ち位置に出るあまり、守備の原則であるインサイドマーク(相手と自陣ゴールの間に立つ)ことが薄れ、追い込んだ場面でもちょっとした跳ね返りがイレギュラーな位置に溢れると内側を使われるようになってしまいます。
 同サイド圧縮でボールをサイドで奪い切ろうと標榜する限り、付きまとう問題であり、前で奪いきりたい意識と内側を取られてはならないジレンマではあるのですが、この辺りを整備していけると思わぬ事故からの被決定機となることは少なくなっていくかと推測します。

2列目が生命線

 この試合に限った話ではありませんが、最近のパルセイロの生命線は2列目の選手たちであると感じています。
 第一に攻撃面について。攻撃では1トップの選手を中核にやや近めの距離感を保ち、単独でのドリブル突破というよりも、コンビネーションで相手を中央から突き破ることが求められています。細かなコンビネーションで相手を集結させ、その間にサイドレーンを駆け上がってきたSBを生かすという攻撃が主流になりつつあり、相手の一番守備の堅いところでコンビネーションを駆使することで、ミスも生まれやすくなります。しかし、このコンビネーションの質はSBが駆け上がる時間を左右しているため、精度とアイディアともに追求していく必要があると言えるでしょう。
 第二に守備面について。これは前々項でも言及したように、プレスの第二スイッチを担うのが2列目の選手です。この第二スイッチでどれだけ相手の嫌がるプレスをかけ続けられるかが守備の安定につながっていきます。つまり、運動量と守備的な戦術理解が求められます。
 どの節だったか定かではありませんが、相手のCBがSBに出すか曖昧なタイミングでデュークが相手SBの立ち位置に食いつきました。この場面でベンチからは「カル!早い!」という声が聞こえてきました。2列目の選手は背後でスペースを消す感覚を持ちながら、SBに出た時はプレスに行くという前後に気を配る動きを速いプレースピードと強度で行うことが求められています。このタスクを理解し、尚且つ攻撃で自分の色が出せる選手が2列目の3枚には求められており、2列目で出場を増やす選手とそうでない選手はここに差があるのではないかと想像してしまいます。

まとめ

 ここまで、第17節ガイナーレ鳥取vsAC長野パルセイロのマッチレビューをしてきました。
 今節で全チームと一度は対戦したことになり、各チームの特長やリーグでの力関係が明確になってきたと言って良いでしょう。パルセイロは17試合を終えて7勝6分4敗、暫定7位で折り返しますが、負け数の少なさはリーグ3位タイで暫定3位の鹿児島ユナイテッドFCと同等です。また、ボトムハーフのチームには6勝、トップハーフのチームには2敗と戦えていないわけではありません。ただ、あと一歩前に強く出る逞しさが上位進出には求められています。
 17試合と半数が終わってしまいましたが、まだ半数残っています。前半戦で勝てなかったチームにはリベンジして勝ち切れるように、勝ったチームにはリベンジを許さないように。つまり、17試合全てに勝ち優勝するつもりで戦っていきましょう。まだまだ、J2への旅路は終わっていません!

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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