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【マッチレビュー】2022 J3 第13節 AC長野パルセイロvsヴァンラーレ八戸

ようやく掴んだ勝点3

 6月19日に長野Uスタジアムで行われたAC長野パルセイロvsヴァンラーレ八戸の一戦は、2-1でホームチームの逆転勝利となりました。パルセイロにとっては待ちに待った勝点3であり、前回の勝利が4月29日の鹿児島ユナイテッドFC戦であることを振り返ると本当に長い長いモヤモヤ期間だったかと思います。
 直近3試合は終了間際に失点を喫して勝点を失うことが重なり、なかなか結果が伴わない難しい時間を過ごしていました。アウェイ2連戦の直前となるホーム2連戦の2試合目で、もやもやを一度リセットできたことは非常にチームにとって大きな成果だったのではないでしょうか。終了間際に雷雨の影響で一時中断となり、最近のパルセイロの試合の締め方を再確認されているかのようなアクシデントがありましたが、戦い抜く闘志で乗り越えて無事にリードを守り切っての勝利となりました。
 翌日のOFFの選手SNSなどを見ていても、この勝利で背負わなくても良い余分な重圧が消え一層"Enjoy Football"に没頭できるメンタル状態になったのではないかと推測します。そして、勝点3という最高の良薬を手にしたことで厳しい戦いになることが予想されるカターレ富山戦、SC相模原戦のアウェイ2連戦に良い状態で乗り込むことができるでしょう。
 約1ヶ月ぶりの勝利となった今節を振り返り、難しいアウェイゲームで勝点6を持ち帰れるよう観る私たちの頭もアップデートしていきましょう。

前半

4-2-3-1vs3-4-2-1

 パルセイロは今節中盤に坪川と宮阪を配置するダブルボランチを採用して試合に臨みました。今季は基本的に中盤の構成が1アンカー+2IHという形が多かったため、この形での坪川-宮阪の横並びの布陣は新鮮に感じました。そして触れなくてはならないのが、やはり船橋の復帰でしょう。第4節で負傷して以来、久しぶりの出場となりましたが、パルセイロにとって欠かせないピースであることを再認識させるプレーをしてくれました。また、2列目の編成も少し変更して森川-山中-佐藤というプレス回数で違いの作れる選手を配置しました。
 対するヴァンラーレ八戸は中3日での厳しい日程になりましたが、第8節延期分からスタメンを3人入れ替えてのスタートとなりました。ミッドウィークの試合で若干ターンオーバーしたかと思いましたが、大きく入れ替えることはなく志垣監督は初陣を戦うことになります。

主導権を握りながらも…

 今節は試合開始から主導権を握って試合を進めることができていたと感じています。

 ヴァンラーレ八戸の1トップ+2シャドーに対して、パルセイロは中央で2CB+ダブルボランチの四角形を形成し、SBを高い位置にあげた形でビルドアップを図ります。単純なオンザボールでの技術的なミスはありましたが、相手の2シャドーに対して外側と内側のパス経路を見せつつ、パスで相手の1st守備ラインを難なく超える場面が多く見られました。また、例によってLSBである水谷を使ってビルドアップをしていくわけですが、4-1-2-3時のように森川がWGとしてサイドに張るのではなく、前からプレスにきたボランチの脇のスペースでボールを引き出すような形が増え、ヴァンラーレ八戸のプレッシングに対しても焦ることなく前進することができました。そしてビルドアップの円滑性に関しては、大内の貢献も欠かせず、詰まったかと思える場面でも適切な位置にフィードをして窮屈な状態をリセットできることが効いていました。

 左サイドの崩しや前進に特長があるのはいつも通りですが、それに対処しようと相手が集まってきた段階でのサイドチェンジ先に船橋がいることで攻撃の厚みに違いが生まれていました。ヴァンラーレ八戸は5バックで撤退守備をしますが、左サイドの攻撃に対処しようと全体がスライドした時の逆サイドレーンは1vs1の構図になります。前進の起点が左サイドにあることで、逆サイドの船橋の前には広大なスペースが広がり、そこを特長を生かして突破していく。序盤戦の勢いが戻ってきたような立ち上がりでした。

 しかし、最初に試合を動かしたのはヴァンラーレ八戸でした。35分過ぎからパルセイロのPA付近でFKのチャンスを再三迎えると際どいセットプレーからの連続した攻撃を見せて、パルセイロゴールを脅かします。軽率なファウルばかりではなかったですが、あれだけセットプレーのチャンスを与えてしまえば失点率が上がるのは致し方ないことかと感じました。そして、耐えきれずにオウンゴールで失点。
 ただ、ここは自分達の流れがきた状態でゴールまで結びつけたヴァンラーレ八戸の攻撃の連続性を褒めるしかないところかと思うので、相手の良いところはどんどん盗んでいってレベルアップしていけば良いと感じます。

命を繋ぐ同点弾

 「命を繋ぐ」大袈裟なようで的を得た表現ではないでしょうか。先制点を取られても今節のように逆転すれば問題ないのはもちろん至極当然のことですが、やはりビハインドを背負って戦うのは同点の状態に比べると難しいものがあります。リードしている方がより大胆に攻撃にも守備にも躍動できますし、ビハインドを背負った側は残り時間が長くても当初より焦り、試合前プランを変更せざるを得ないこともあります。そしてビハインドを背負う時間が長ければ長いほど難しい試合になり、リードしている側も守り切ろうと割り切ったプレーが多くなります。
 今節パルセイロはオウンゴールという不運な形で失点してしまいましたが、その直後に得たCKですぐに同点に追いついて見せました。そしてただ追いついた以上に失点に絡んだしまった喜岡と山中が意地を見せての同点弾となりました。ビハインドを背負う時間を最大限まで短くできたことで当初のプランを変更せずに前半を乗り越えられたことは非常に大きい成果だったと思いますし、この時間帯で追いつかなければ逆転も難しかったのではないでしょうか。

後半

流れを切らない攻撃

 この試合の決勝点となったパルセイロの2点目の場面は、奪うべくして奪った素晴らしいゴールだったと思います。何度でも見直したいゴールだと思うので、下のハイライト動画2:38あたりからご覧ください!

 右サイドの宮阪からターゲットの森川への正確なフィード。セカンドボールは中央に絞っていた水谷が回収し二次攻撃を試みるも縦パスが引っかかって失敗。しかし、体勢を崩しながらもボールを宮本に繋ぎ三次攻撃へ。ここも相手の厚いブロックに阻まれますが、中途半端なポジティブトランジションの一本目のパスを見逃さなかった宮阪がインターセプトして森川へ繋ぐ。その森川を追い越すようにもう一方のボランチである坪川がフリーランニング。相手が坪川に釣られたことで再びボールホルダーとなった宮阪の前にはわずかなシュートスペースが空く。トラップすることなく、体の向きを変えることで自分の蹴りやすい位置にボールを置くと右足を一閃。ゴールキーパーのニアサイド側を抜けて強烈なシュートが突き刺さります。
 この一連の攻撃は宮阪のサイドチェンジから始まり、宮阪のミドルシュートによって完結しています。当然、それまでセカンドボールを拾い続けた他の選手やフリーランでスペースを空けた坪川の活躍があってこそですが、次々と後方から選手が出てきて攻撃を切らさない得点スタイルは、近年J2に昇格していったクラブも得意としていたスタイルになります。つまり、この攻撃スタイルに磨きがかかっていけば、自ずと得点は増えていくことになりますし、昇格圏も近づいてくるはずです。
 今節の4-2-3-1と相手のシステムの相性なのか、船橋の復帰による二次効果なのかはわかりませんが、このダブルボランチシステムの宮阪の躍動は横山監督時代にも見られなかった輝きではないでしょうか。これから夏場の試合が増えていきナイトゲームといえど体力の消耗が激しくなる季節になりますが、いるべき場所にいてくれるベテラン宮阪のポジショニングセンスの良さはここから這い上がるためにも必須になってくるでしょう。そして、この宮阪とポジションを争っているであろう住永や坪川、原田らの成長が今後に向けた鍵になってくるのではないでしょうか。

最後まで前で消し続けた守備

終盤の守備

 今節のパルセイロの守備は今季の試合の中で一番ボールにアタックできていた試合だったと感じています。前半からの森川-山中-佐藤トリオによるプレッシングももちろんですが、課題であった試合終盤の締めにかかる時間帯でも前に出ることを恐れなかったことが印象的でした。
 77分に宮阪に代えて秋山を投入してパルセイロはシステム変更。表現が的確か定かではありませんが、3-3-3-1(5-1-3-1)の形で相手に対して構えました。試合終了までアディショナルタイムを計算に入れても約15分となっていたため、リードを守りつつカウンターで一点を狙う形にシフトしたといえるでしょう。
 シュタルフ監督も試合後インタビューで、「ピッチ状況を見ての判断、相手の放り込みに対しての制空権、中盤省略が増えていたため」と話しているように、明らかに直近3試合の課題である試合の締め方を意識した交代策でした。

 直近3試合のパルセイロは試合終了間際になってリードを守り切ることを意識すると前に出られない状況が続いていたようにも思います。どれだけ中央に高さのある選手を並べても、質の非常に高いクロスが入ってきた場合なす術なく失点する可能性もあります。ただ、今節のパルセイロは後方の5バックが弾き返していたことに加えて、全体の押し上げが連動されており、相手のボールホルダーに対して圧をかけつつ、守備を固めることができていました。相手に対して圧をかけるということは相手のプレー時間やプレー選択時間を奪うということになります。焦って出したパスは不正確になりやすく、後方の選手としても苦しい体勢でのクリアにならない場合が多いです。
 それでも、前方の選手だけ奪いにいってしまうと意識の乖離によって生まれたバイタルエリアで決定的な仕事をされてしまいます。そうならないように最後までDFラインは細かな上下動を繰り返して相手のスペースを消していたと思います。
 最後の最後まで相手に自由にクリアさせなかった佐野も大仕事をやってのけたと評価できます。

まとめ

 4月29日の鹿児島ユナイテッドFC戦以来、約1ヶ月半ぶりの勝点3は格別に嬉しかったですし、チームにとって大きなプラス材料になったのではないでしょうか。
 ただ、厳しいことを言えばトンネルから一度脱出しただけとも言えてしまいます。〇〇試合勝ちなしから脱出することが目標ではなく、それはあくまでも過程の1つでしかないはずです。人間はよく深い生き物で一つ達成するとその上のものが更に欲しくなってしまうのです。この勝利で自信と勢いを大いにつけて、次節、5連勝と波に乗りまくっているカターレ富山を倒して更なる上位進出へのブーストをかけましょう。

 まだまだ、パルセイロは夢への道の途中。新たに加わる仲間がいれば、活躍の場を移す仲間もいます。満田さんと大橋さんに最高の餞別を送れたと思っています。長い間ありがとうございました。これからの新天地での活躍をお祈りしております。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。


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