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【マッチレビュー】2022 J3 第14節 カターレ富山vsAC長野パルセイロ

相手の強さの前に…

 6月25日に富山県総合運動公園陸上競技場で行われたカターレ富山vsAC長野パルセイロの一戦は1-0でホームチームの勝利となりました。今節の勝利でカターレ富山はクラブ記録更新の6連勝を達成しました。カターレ富山に関わる皆様おめでとうございます。中でも直近5試合は全て1-0、所謂「ウノゼロ」での勝利となっており、勝負強さと共に自分達の勝ちスタイルがどんどん身についていると感じました。
 対するAC長野パルセイロは今季2度目の連勝は達成できず、上位陣との直接対決に敗れ昇格圏内と勝点差を縮めることは叶いませんでした。ただ、試合のあらゆる局面で今季のパルセイロが目指しているであろうスタイルが表現できていたのが明るい材料だったと思います。悪天候による中断前までは、あのテンポ感でのパス交換が生まれなかっただけに、カターレ富山の術中にはまってしまったのでしょうか。
 いずれにしてもサッカーの醍醐味が詰まった試合だったと感じています。中断後のサッカーが前半頭からできていたら違う結果になっていたかもしれしれませんし、ディフレクションの角度が少しでも変わってゴールが生まれていなかったら違った展開になっていたでしょう。しかし、「たられば」ではなく、勝利に執着するカターレ富山の執念が上回った結果の1-0だったかと思います。
 悔しいですが、アウェイ2連戦を勝ちなしで終えるわけにはいきません。今節を振り返り、Grow Everydayの日々を積み重ねていくしかないのです。

前半

一瞬の隙


 カターレ富山は第13節と全く同じメンバーで試合に入りました。システムも3-3-2-2の得意な形で、開幕戦から一貫している形ではあり、ここ最近の好調を見る限り、ついに戦術や選手の特徴がうまく噛み合い難しい戦いを悉くものにしていると感じます。
 対するパルセイロは、第14節からのスタメン交代は1人。宮本に代わって佐野が入りました。それ以外のメンバーは前節と同じであったため、4-2-3-1のシステムでスタートするかと思いましたが、試合が始まると4-3-1-2の2トップ型で配置されていました。

 前半立ち上がりはカターレ富山のペースで試合が進んでいきました。パルセイロが狙いのサッカーを全くできていなかったわけではありませんでしたが、カターレ富山の徹底された戦いぶりに若干気圧されている感じが見受けられました。セカンドボールの回収率の高さなど途切れさせない攻撃で、じわじわとパルセイロ陣内に攻め込んできます。序盤は若干押されているようにも思えましたが、しばらくすると後方の4バックによるビルドアップに中盤3枚がうまく関われるようになり、試合全体が落ち着いてきました。
 しかし、その時間で試合を先に動かしたのはカターレ富山でした。パルセイロの右サイドでのパスワークの乱れを奪うとすぐさま攻撃に出ます。川西選手、吉平選手に加えてアルトゥール選手が3人で一気に加速してカウンター。吉平選手の放ったシュートは池ヶ谷に当たってコースが変わり大内と逆方向へ。大内としてはノーチャンスでした。
 カウンターの鋭さは相手を褒めるしかありませんが、カウンターに対する守備対応はどうだったでしょうか。中盤の選手は戻りながらですが、数的優位はパルセイロにあったかと思います。数的優位であっても自陣ゴール前では飛び出さず、徹底してコースを消すクロップリヴァプールのような守り方もあるので、そちらを採択しているのかと思いきや試合後のコメントを見る限り選手間で迷ってしまった様子でした。
 人数が足りている時に逆サイドから押し出してボールホルダーにアタックする守備でズラしきれずにロープレッシャーでプレーさせてしまうというのは今季散見される課題であると考えます。押し出すのか、完全にDFラインを並べてシュートコースを消すのか。ここのコミュニケーションでのエラーをなくしていくことは失点をなくす上で今後カギになってくるでしょう。

一転して…

 カターレ富山が13分に先制点を奪うと、20分あたりで悪天候により試合が中断されました。悪い流れになりかけていた状態を物理的に切れるという点では幸運だったかと思います。
 前半立ち上がりのカターレ富山優勢ムードが一転して、パルセイロが主導権を握って試合を進める展開になりました。

 カターレ富山はパルセイロのビルドアップに対して前線から圧力をかける形と撤退する形の2種類あったかと思います。前線から圧力をかける守備では4バックに対して2トップと2IHが同数でプレスをかけようとします。パルセイロは大内を加えた5人で左右に揺さぶりながらプレス回避を試みます。大内が積極的にビルドアップに関われるGKであるため、基本的には数的優位でボールを握ることができ、相手のプレスをいなせていたと思います。
 また、カターレ富山の前線が前に圧力をかけてくるということは元々いたスペースは空いてくるということです。そのスペースを活用するための4-3-1-2システムだったと予想します。相手のプレッシングに対して左右に逃げながらボールを保持することでカターレ富山の1stDFに対して横のスライドを強制します。横方向のスライドが長ければ長いほど、回数が多ければ多いほど自然と前線4人の距離感は間延びしてきます。

 中盤3枚がいるとダブルボランチに比べて各ゲート(ギャップ)に顔を出しやすくなり、4バックのビルドアップに対してボールを引き出しやすくなります。前半中断明けからリズムを掴むようになっていった理由には、以上のボールの動かし方が要因として挙げられると思います。「吊り出してその背後へ」という共通認識でボールを動かせるようになり、相手が出てこない時でも焦れることなくボールを動かせていました。
 しかし、4試合連続で無失点継続中のカターレ富山の守備網も厚く1stDFラインを越えた後のスピードアップをなかなかさせてくれない印象を受けました。このスピードアップのスイッチをどのタイミングでどのように入れるかが後半に向けての課題になっていたことでしょう。

後半

カターレ富山の意地

 後半は前半の中断明け以降の試合展開がずっと続くようになりました。パルセイロがボールを握りながら、カターレ富山の守備網の隙を探るという展開です。また、前半は悪天候による中断がありながらもしっかりと守備網を整え、1点リードで折り返すことのできたカターレ富山は、後半から守備に重きを置いた戦い方になったかと思います。試合終了間際の逃げ切りがうまくいかなかった第10節〜第12節のパルセイロとは異なり、1-0の逃げ切りに絶対的な自信を持っていたカターレ富山だからこそ選択できた戦い方だったのでしょうか。
 カターレ富山が守備重視になり、中央のスペースを埋めながら出ていくことを徹底したことで、パルセイロとしてはブロックの外側でボール保持できる時間が長くなっていきました。パルセイロとしてもブロックの外側だけでなく、ブロックの内側にもボールを出し入れしながら隙を作ることを狙っていきます。SB+中盤3枚+トップ下山中で良いリズムを作り出せるようになっていくとブロックの内側に入り込んでいく際のスピードアップもできるようになっていきました。
 特に50:43付近の水谷→坪川→森川→(佐野)という崩しは、相手が5バックながらもワンタッチで段差を作りながら繋ぎ、最終的に林堂選手を釣り出し、シュートゾーンにポケットを作り出すことに成功しました。前半の中断明けから間違いなく自分たちはボールを握って相手を押し込めるという自信が徐々に共有できてきたことで、一か八かのロングボールが減り、少ないタッチでローテーションしていくパスワークに磨きがかかっていきます。試合終盤になってさらに勢いをつけカターレ富山ゴールに迫ったパルセイロですが、最後までゴールは奪えず試合終了となりました。
 第10節〜第12節のパルセイロに求められていた失点しないことへの執念はこういうことだったと目の前でありありと見せつけられました。相手の良いところを認め自分達に還元していくことも重要なGrow Everydayの過程であるはずなので、この"意地"とも呼べる執念は見習いたいと感じました。

ゴール前のクオリティ

 カターレ富山の守備の固さはすばらしいものでしたが、パルセイロとしても攻撃でまだまだ積み上げられるものはあると認識しています。一言で言えば、"ゴール前のクオリティ"です。とても大雑把な言い方で属人的な要素であるため、一朝一夕では仕上がらないものになりますが、今節のカターレ富山のようなチームを破って上位に行くためには必ず必要な要素になります。
 前述した50:43辺りの崩しもラストパスの精度と佐野とのイメージ共有、86:00の三田のファーストタッチなど突き詰めていけばキリがないですが、細かなところにこだわっていかないと得点を奪えない難しいスポーツであることを再確認できました。
 ただ、この点はやはり一朝一夕で変革できるところではないので、決定機を増やし、どんどんゴール前でチャレンジできる回数を増やしていくことが先決になるでしょう。

まとめ

 マッチプレビューで先制点がカギを握るという予想が嫌な形で的中してしまいました。それでもウノゼロ勝利を得意とする相手のゴールに70分間向かい続けられたという点に関しては自信をつけて次節以降、更なる鋭い攻撃へと昇華させてほしいと思います。
 他会場の結果により今節の敗戦があっても首位との勝点差は9のままとなりました。首位と離れていないことはプラスに捉えられますが、徐々に昇格争いグループがはっきりしてきてしまったのも事実です。"戦国J3"何が起こるか、どこがどこに勝つのか終盤まで読めないシーズンだからこそ、目の前の勝点3を奪い続けることに執着し、一歩一歩成長していくことが求められるでしょう。
 まだアウェイ2連戦の折り返し地点。次節はパルセイロをJFL優勝に導いた薩川監督との再会試合です。今のチームに直接の関わりがあった選手はいないかもしれませんが、クラブの歴史を紡いできた人物との対戦になります。浮上のきっかけをパルセイロ戦で作らせないためにも、次節はアウェイで勝点3を死に物狂いで持ち帰りましょう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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