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【マッチレビュー】2022 J3 第21節 ヴァンラーレ八戸vsAC長野パルセイロ

止まった連勝

 8月20日、プライフーズスタジアムで行われた2022 J3 第21節 ヴァンラーレ八戸vsAC長野パルセイロの一戦は、3-1でホームチームが見事に逆転勝利を収めた。
 見事に勝点3を手にしたヴァンラーレ八戸は7月31日の第19節松本山雅戦以来の勝利となり、後半戦に入って4試合で2勝を既に達成した。前半戦が17試合で4勝だったことを考えると大幅な勝率アップと言えるだろう。志垣監督を中心に選手たちが躍動し、自チームよりも上位につける長野を相手に3得点を決めて完勝を収めた。
 一方、逆転で勝点3を逃す結果となった長野。直近は4連勝&6試合連続負けなしと前半戦から後半戦の切り替え時期で勢いをつけていただけに痛い敗戦となった。プライフーズスタジアムではこれまで一度も勝利しておらず、今季もそのジンクスを破ることは叶わなかった。連勝を止められたという結果も重たいが、その他にも今季の長野にとって初めての敗戦であった要素がある。それは、逆転負け。今節を除いて、いわき・富山・沼津・宮崎に敗戦したが、いずれも長野は無得点。得点を奪っての敗戦も先制点を奪っての敗戦も今季初である。何とか嫌な流れを断ち切ってホーム北九州戦でシーズンダブルを達成したい。

スタメン&ベンチメンバー

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 ホームの八戸は前節のいわき戦からスタメンを7人変更して試合に臨んだ。コロナ陽性者や濃厚接触者、怪我などでの離脱者が戻ってきた格好で、前節の退廃を引き摺らないためにも良い状況だったと言える。キャプテンの山田選手やエースの萱沼選手が戻ってきたことにより、志垣監督が標榜する「保持する」サッカーを実行するだけのメンバーがスタメンに名を連ねた。
 アウェイの長野はコロナ陽性者や濃厚接触者が6人発生した前節からメンバーの大きな変更はなし。ベンチまで目を向けてみても、原田に変わって山中が入ったのみの変更で、連勝の勢いを踏襲するようなメンバーだったと言える。前節上位につける富山を破ったメンバーと同じ選出だったこともあり、シュタルフ監督が目指すサッカーの浸透具合が伺える。

スピードアップを防ぐ守備

 前半は良い守備から試合の主導権を握れていたように感じる。基本的な構え方は前節の富山戦と同様で、5-1-3-1のようなブロックを構える。山本の下に三田が入り、中央でボールを引き出そうとするボランチのコースに牽制をかける。外回りになった相手のビルドアップコースに対して運動と球際の強さを誇る佐藤&森川で圧力をかけ、ミスを発生させボールを奪う得意の形だ。相手のビルドアップに対しては、前線から走り回るプレスはかけずにセットした状態からビルドアップを迎撃する。
 八戸の前半の前進サイドは左サイドが多かったが、前節からRWBに起用されている藤森が完全にシャットアウト。前節の富山戦でも前半からアグレッシブに球際で戦えていたが、今節でもその強みを発揮した。相手のSHやSBが前を向いて仕掛けてくる場面でもステップを踏んで対応しスピードを落とさせると、後ろ向きになった相手に対しては猛烈なボールへのアタックを見せる。前半は何度もこの形でボールを奪う場面が見られた。ボールへの執着心に加えて判定へのフラストレーションもあってか、あわやレッドカードのスライディングを見舞う場面もあり退場しないか不安だったが、闘う姿勢としては素晴らしいものを見せた。
 この長野の守備網に対して、八戸はなかなかスピードアップするような状況を作り出せず、決定的な場面はロングスローやミドルシュートといった外からの攻撃に限られていた。ロングスローに対する対策は練られていたと思うが、決定的な場面を金がかきだしてくれたおかげで事なきを得た。

形になりつつある可変システム

 長野は、前節の富山戦と同様に攻撃時は守備時の5-1-3-1から4-2-3-1へと可変するシステム。LWBである水谷が宮阪の脇に絞ってボランチ化、5バックだった残りの4枚は左にスライドして4バックを形成する。それぞれの特長が噛み合わないと成立しない可変システムなだけに、おそらく浸透までは時間がかかったと思うが、船橋の離脱・喜岡の移籍があっても闘い続けられているのは粘り強くGrow Everydayに邁進してきた成果だろう。
 4バック化した後はSBが幅を取りすぎずに必要最低限なPA幅程度に立つ。GK+4バック+ボランチで細かく繋ぎながら、相手が隙を空けて奪いにくる瞬間を伺う。幅に頼らないパスワークだからこそ、より繊細な技術も求められるが、今節も含めて相手のセカンド守備ラインを超えて攻撃する時のスピードが向上した。相手のプレスを食いつかせて、逆サイドへの展開or2列目への楔のパスによってプレスをひっくり返し、2列目より前の選手がスピードを上げて広大なスペースで攻撃を仕掛ける。前半戦シュタルフ監督が口にしていた「セカンドライン突破からの得点までのスピード」が改善されてきているように感じる。
 それでも前半から気になったのは、ごくわずかなパスのズレ。相手の守備網を突破するための勝負のパスなら、成功率は下がって当然。しかし、今節はリズムを作る横パスやバックパスで些細なズレが多発していたように感じる。挑戦段階であるからこれから仕上げていくところだと思うが、前節に比べると質的に少し低下して見えた。上位相手という程良い緊張感がレベルを向上させたのか、下位相手という心の隙が質低下に影響したのかは不明だが、主導権を握りつつも不安な箇所はあった。

1失点目

 失点につながるPKを与えてしまった場面は、後半の立ち上がりに集中が足りなかったと感じるかもしれませんが、それ以上に八戸の狙い通りの決定機だったのではないだろうか。
 アバウトなボールの蹴り合いが多い立ち上がりの時間で、ロングボールが相手のDFに収まった。そこから野瀬選手にパスが出て、藤森が剥がされスライドしてきた池ヶ谷・秋山で対応したところのハンドを取られてPK。保持の局面からの切り替えだったため、後方は4バックの状態であり、逆サイドにボールを出したのでスライドも中途半端な状態であった。スピードに乗ったドリブルが特長の野瀬選手に対して、トラップ際を狙おうとした藤森も良い判断ではあったが、組織守備としてはやや軽率な飛び込みになってしまった。
 ただ、ここは藤森のWBとしての経験の薄さと既にイエローカードを受けていた藤森に対して、ドリブルの得意な野瀬選手をぶつけた八戸の策略が見事に重なってしまった結果に思われる。怪我人が出てコンバートされた形でありながら、十分すぎるほどの活躍をしていたため、この失点もDFライン&GKで擦り合わせて成長の糧にしてほしい。

2失点目

 客観的に見て、リードを奪われたことではないこともあって、あまり慌てているようには見えなかった長野。それでも、前半と同様のビルドアップから前進する形は作れておらず、八戸の得点の勢いをモロに受けることになった。シュタルフ監督も要注意としていたCKの流れから62分に追加失点を喫してしまう。
 奇しくも、ボールロストは判断に迷いがみられた藤森のところであった。ただ、ボールロストしてすぐに水谷・藤森・池ヶ谷でボールサイドに圧縮して潰し切ろうとしたが、山田選手がフリックしたボールは運悪くポケット位置に流れてきてしまう。素早く反応した相田選手が右足を振り抜いて逆転弾を叩き込んだ。1失点目はある程度割り切らなくてはならない事故失点のような形に見えただけに、この立て続けの失点は重くのしかかったように思える。
 後半立ち上がりからアバウトなボールに対して、後半投入の野瀬選手を中心にギアを上げて勝負を仕掛けるようになった八戸。「勝ちへの執念で負けていた」などという抽象的な概念で片付けたくはないが、後半の両チームを比較すると明らかに後手を踏んでしまっていた。前半と同様に良い守備→安定したビルドアップで主導権を握り続けたかった長野にとって、被決定機2回で2失点してしまったことは非常に痛かった。

3失点目

 宮本・牧野・山中を同時に投入し、攻撃に変化を持たせたかった長野。しかし、その直後にスコアを動かしたのは八戸であった。
 CKの流れから二次攻撃に入り、右サイドから深く切り込むとボールは長野のゴール前に溢れる。人数はいたものの中途半端にボールを見合ってしまい、かき出せない状態になると八戸の選手がボールを突く。こぼれ球に萱沼選手がいち早く反応し、豪快にゴールネットを揺らした。
 攻撃で違いを作り出すための交代策の直後に中途半端な守備からの失点を喫してしまった。人が密集しており、相手に当てずに確実にクリアできたかは微妙だが、あれだけの危険なエリアにボールが転がっていれば、このような失点が起きてしまっても不思議ではない。CKの後の流れの守備に対応したのは、宮本と牧野であり、交代して間もない選手がサイドの崩しに対して順応しきれていなかったことも関係してくるだろう。

 3失点全てが後半開始から約25分間で決められており、1失点目から3失点目の間はわずかに20分。八戸としてはPKをきっかけに少し傾いた試合の流れを強引に自分達の元に引き寄せて、あっという間に勝負を決定づける2点差をつけた。
 逆にこの25分間で決定機という決定機を作れなかった長野。全く前進できなかった訳ではないが、八戸の勢いに押される形でなかなか形を作り出すことはできなかった。逆転&点差を広げられて、前半2度の決定機逸を悔やむことになった。

長野の追い上げと八戸の逃げ切り

 3失点目を喫してからはしばらく長野の猛攻が続く。左サイドのデューク・杉井の連携を中心に攻め込むと、宮阪のCKから決定機を2度3度作り出したものの、服部選手の好守に再三阻まれて追加点を奪うことはできず。この長野の猛攻を受けてか、志垣監督は萱沼選手(FW)に代えて藤井選手(DF)を投入してリードを保って逃げ切りに向かった。
 八戸DFラインの裏へのボールを中心に、デューク・杉井の左サイドから進入を試み続ける長野だが、逃げ切りにシフトした八戸の急所を突く攻撃はなかなか見せることができなかった。宮本や山中が良い位置でボールに関わる数はなかなか増えず、チャンスクリエイトを積み重ねて連勝してきた長野にとっては苦しい攻撃の時間となっていたように思える。
 前半から幾度となくサイドを駆け上がり続けた杉井にも疲れの色が見え始め、その黄金のクロスは鳴りを潜めていった。約25分間で3得点した八戸、逆転されて25分間で得点できなかった長野。最後まで球際の激しいバトルが繰り広げられた試合だったが、八戸に軍配が上がった。

まとめ

 八戸は3連敗中だったホームゲームで上位の長野相手に見事に勝点3を手にした。後半戦の勝率は50%、ここから徐々に調子を上げ、まずは1桁順位圏にチームを押し上げることができるかが重要になってくるだろう。志垣監督の標榜する「保持する」サッカーでここからどれだけ巻き返せるかに注目だ。
 対する長野は、下位相手に連勝ストップとなった。前節上位につける富山を相手に勝点3を奪った勢いそのままに勝ち切りたかったが、八戸の粘り強さ、試合の流れを掴む強さに屈した。
 連勝記録はここで一度途切れることになってしまったが、連勝ストップ=優勝&昇格への挑戦終了ではない。ここから残された13試合で、どれだけ勝利を重ねられるかに焦点を当てなくてはならない。クラブ記録である5連勝に並ぶチャンスであったことは間違いないが、今季の試合が5試合以上残されている限り、その記録を達成するチャンスはいくらでも自分達次第で掴むことができる。
 連勝が止まったから、積み上げが0になることはない。勝っても負けても積み上げられるものはある。むしろ、負けた時の方が積み上げられる量は大きいはずだ。"敗北"という嫌な雰囲気は切り替え、"積み上げ"てきたものからさらに成長する。こんな時こそ『ORANGEの志』に立ち返って、チームもクラブもサポーターも勝利に向かっていきたいと思う。まだ13連勝のチャンスもある、こんなところで下を過去を見ている場合ではない。次節、北九州戦で必ず勝利を掴み、みんなでまた喜びを分かち合おう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。


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