見出し画像

【マッチレビュー】2022 J3 第16節 AC長野パルセイロvsFC今治

あと一歩の馬力

 7月10日に長野Uスタジアムで行われた2022 J3 第16節 AC長野パルセイロvsFC今治の一戦は、お互いに1得点を奪ってのドロー決着となりました。パルセイロにとってもFC今治にとっても自分たちの時間を作りながら、1得点に終わったのは不完全燃焼と言える内容だったかと思います。
 また、2020シーズンから続いている同対戦カードで、またも2得点を奪うチームは現れませんでした。試合内容を見ても2得点目を奪っていれば、お互いに有利に試合を進められていたでしょう。昇格争いにおける第3グループに属する両チームですが、勝敗をつけられなかった点から妥当な現在地であることを理解しなくてはならない一戦だったかと思います。
 当然、ホームで勝点3を奪えなかったパルセイロの方が昇格に向けてややダメージは大きいですが、この勝点1の意味合いを変えるのは前半戦最終節である次節だと考えています。立ち止まっている暇はありません。しっかりと今節を振り返った"Grow Everyday"、次節へのスパートに繋げていきましょう。

前半

お互いの長所

 前半45分間でお互いのやりたいことがそれぞれ発揮される時間と発揮されない時間があった試合だったかと思います。

 先にリズムを掴んだのはFC今治でした。リズムを掴むきっかけになったのは前線の選手たちのハードワークによるハイプレスでしょう。比較的4-2-3-1という配置に従いながらビルドアップを試みるパルセイロに対して、前線から圧力をかけてきたFC今治に序盤の15分ほどは苦戦した印象を受けました。ピッチ幅を目一杯使って4バックがボールを動かそうとしていましたが、ちょうどFC今治の2トップ+2SHに睨まれる形になり、両SBのところで手詰まりになる場面が散見されました。序盤に招いたピンチの大半はビルドアップミスからのものでSBから先がつながっていかないことがボトルネックとなっていました。

 次第に秋山や宮阪といったボランチが4バック間に立てるようになり、主に左サイドの水谷が高い位置をとれるようになったことで、相手のプレス強度が低減され、ボール保持ができるようになっていきます。相手のプレッシングによってうまく主導権が握れない時間帯でも焦れずにチャレンジを続けたことで相手のプレッシングを回避する素晴らしい順応だったと思います。当然、ビルドアップを着実にして主導権を握っていくためには、オンザボールのミスを減らしていかなければ、失点につながる可能性も減っていかないわけですが、チームとして取り組み成長している核となる部分になるので、前半戦ラストとなる第17節ガイナーレ鳥取戦ではさらに進化した姿を見せてほしいと思います。
 
 FC今治によるハイプレスの網を回避し出した前半中盤の時間帯は、一転してパルセイロが主導権を握る時間になりました。前述したようなビルドアップの形から相手を右サイドに集結させた状態から、宮阪の目の覚めるようなサイドチェンジでいくつも決定機を演出していきます。ここ数試合、宮阪のキック精度は更に向上しているように見え、間違いなくパルセイロの攻撃のタクトを振るう重要な役割を担っていると言えるでしょう。

小さなズレは大きな穴を生む

 スタメンだけを見るとSC相模原戦と全く同じメンバーで、狙いとしても同じだったように思われるかもしれませんが、明らかな戦術面での変更が狙いの変更も示唆していました。その小さくても明確な違いは、SHの利き足です。SC相模原戦では左利きのデュークを左サイドに、右利きの森川を右サイドに配置しました。サッカーでは、相手とボールの間に自分の体を入れてプレーすることでボールを奪われにくく、自分のプレーエリアを広く確保することができます。つまり、利き足が外側に来るような配置の時は、相手との間に体を入れやすい縦突破が相手にとって嫌な攻撃であり、利き足が内側に来る時はカットインしていく攻撃が相手にとって嫌な攻撃になります。その証拠にSC相模原戦の先制点の場面が挙げられます。

 それでは、今節の狙いはなんだったのでしょうか。今節の攻撃で重視していたのは前線4人の距離感だったと思います。利き足を内側になるように配置することで自然と味方に近い方の足でボールを扱うことになり、間接視野で味方の動きが把握しやすくなります。このことによって、ゴール方向に向かうパスを受けた選手が少ないタッチで前向きの追い越してくる選手に預けて動き直すことができ、この連続性がFC今治の守備陣に対して綻びを作っていきました。
 前半で得点することはできませんでしたが、宮本のバー直撃シュートや森川の幻のゴールなど普段より更に決定的な場面を作り出すことができていました。完全に個人的な趣向の話になってしまいますが、この前半のような前線のコンビネーションは大好物で現地でもDAZN越しでも目を輝かせて見入ってしまいました。この局面でもワンタッチの精度など求められる質的側面は大きいですが、流れるような連続性のあるバイタルへの侵入はこれまで見ることの少なかった攻撃だったので、ここにも成長を感じました。

後半

得点への執念

 後半に入っても攻撃の手を緩めないパルセイロ。対するFC今治もハーフタームで一度区切りをつけて後半に入りましたが、立ち上がりから複数回チャンスを作ることができていました。前半途中から有効な攻撃手段として機能していた、ピッチ横幅を大きく使っての攻撃からのチャンスクリエイトが多数を締めていたかと思います。特に49分頃の船橋から一気にPA内の森川へ繋ぎ、シュートまであと一歩と迫った場面は、シュートまで打ちきれていればという際どいシーンでした。
 今節も含めて、ここ数試合間違いなく決定機の数は増やせているパルセイロ。第12節頃から見られ始めたシュートへの意識とチャンスクリエイト数が重なった結果としての決定機創出であると考えています。64分の同点弾につながったCK獲得の場面は、半ば強引に森川がシュートを打ったことによるものでした。森川に渡る前までの組み立ての安定性は最近の良い特徴の一つである一方、ゴール前でのクオリティにあたるファーストタッチの質やシュートの質はまだまだ求められていると感じます。近年急激に注目されるようになった配置論やシステム論がサッカー界を席巻していますが、足で球体を扱うというサッカーにおいてお互いの意地がぶつかるゴール前では不安定ながらも足元の高い技術が求められます。「一朝一夕には仕上がらないけれど、その点を手っ取り早く向上させることが結果に結びつく」というジレンマを抱えたサッカーの1側面における成長をもサポーターは楽しんでいくメンタリティが求められるのかもしれません。
 開幕前から積み上げてきたものが一つ一つ重なって大きな目標に向かって成長しているのは明らかです。今は不安定なところも次節には改善されているかもしれませんし、不安点を超える大きなサプライズが待っているかもしれません。チームとして複数得点をするために、もっともっと得点への執念にこだわりをもって成長していってほしいと思います。

4-2-3-1から4-3-3へ?

 現地観戦では気がつきませんでしたが、76分森川→三田の交代以降、システム変更があったように感じました。

変更前4-2-3-1
変更後4-3-3

 このシステム変更による狙いともたらした影響について分析していきます。
 まず、4-3-3への変更の狙いは「重心を下げすぎない」ことにあったかと思います。前節のSC相模原戦では、1点差に詰め寄られてからDFラインを押し上げることができなくなり、守勢に回る時間が長くなってしまいました。DFラインが押し上げられないということが、ダブルボランチの固定化にも繋がり局面局面で守備の連動性が減少したように感じました。
 この点を解消するためのシステム変更だったのではないかと推測します。シュタルフ監督が今季のパルセイロで用いる4-3-3は他のチームと守備面で明確な違いがあり、3トップで中央封鎖を試みるという特長があります。イメージとしては、川の流れの真ん中に大きな岩を設置するような形です。相手の攻撃という水流を横に流し、流れを細くすることで狭くなった箇所で一気に刈り取るという策ですから、チーム全体が自分の前でボールを奪い切るという意識が働きやすくなると言えるでしょう。
 それでは、このシステム変更が与えた影響はどのようなものだったでしょうか。結論としては、相手の強みを急所に受ける形になったと感じています。

 相手SBに対する圧力は4-2-3-1時と大差ない内容だったかもしれませんが、FC今治の強みである両SHの機動力を生かしたカットインをアンカーの脇に受ける形になりました。また、SHだけではなくFWが下りてアンカー脇で受けることが起点になる場面も見られ、結果として4-2-3-1時に見られていた程よい距離感からの攻撃リズムは少なくなり、FC今治の攻撃が強まったようにも見えてしまいました。フル出場していたデュークや佐藤の疲労度もあってか、本来の4-3-3システムで見せる共有したビジョンからのボール奪取はなかなか見られませんでした。

まとめ

 これまで、2022 J3 第16節 AC長野パルセイロvsFC今治のマッチレビューをしました。個人的には両チームの狙いが発揮される時間帯がそれぞれあり、攻守のトランジションも非常にスピーディーな試合で見応えのある内容
だったかと思います。また、FC今治は前節FC岐阜相手に大量5得点を決めて勢いがついた状態での対戦。ついにこの対戦カードでゴールラッシュが見られるかと思いましたが、例によってロースコアでの決着となりました。
 FC今治は、インディオ選手の累積警告による出場停止によって抜擢された島村選手でしたが、パルセイロに対してはむしろ最初から島村選手の方が有効であると思わせるほどの活躍ぶりでした。以前から注目している選手で、パルセイロに移籍してくれないかと密かに願っています(笑)。
 対するパルセイロも山本、原田の久しぶりの活躍が見られました。山本は先制点に絡む活躍を見せ監督の"良い意味での"悩みのタネになったのではないでしょうか。原田もようやくリーグ戦出場を飾りスタート地点に立ったことで、チーム内競争も激しくなっていくでしょう。
 ただ、リーグ全体に目を向けると松本山雅FCがカターレ富山との直接対決を制したため、上位3チームの独走状態に突入したようにも思われます。ただ、まだリーグ戦は18試合あり何も決まっていません。後半戦巻き返しを図るためにも前半戦ラストを勝利で折り返しましょう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

よろしければサポートお願いします! アウェイ遠征費やスタグル購入費に使わせていただきます🦁