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【マッチレビュー】2023 J3 第14節 AC長野パルセイロvs鹿児島ユナイテッドFC

4連敗を受け止める

 2023 J3 第14節 AC長野パルセイロvs鹿児島ユナイテッドFCの一戦は、1-2でアウェイ鹿児島が上位対決を制した
 鹿児島は第8節の岩手戦から北九州戦・琉球戦・松本戦と4連勝を記録。6月に入って以降、奈良戦・八戸戦と無得点試合が続き、勝利から遠ざかっていた。そんな中で迎えたアウェイ長野戦という上位直接対決で貴重な勝点3を掴んだ。土曜開催の試合で他上位クラブが勝利する中、勝点3を積み上げ2位の座を守った。
 長野は第10節松本戦を最後に沼津戦・FC大阪戦・琉球戦・神戸戦(天皇杯)と公式戦4連敗を喫していた。リーグ戦だけで見ても3連敗と決してチーム状態が良くない中で迎えた上位直接対決だった。ホーム連戦という利点があったものの、ミッドウィークで天皇杯神戸アウェイを挟んだことで利点は消滅。上位カテゴリーとの勝負で掴んだ"何か"を抱き試合に臨んだが、連敗の沼から抜け出すことはできなかった。

基本システム&スタメン

 ホーム長野の基本システムは、今季のベースである3-5-1-1。GKはキム。3バックは右から池ヶ谷・秋山・佐古。WBは右に船橋、左に杉井。アンカーは西村。IHは安東・三田。トップ下は森川。1トップは山本。前節琉球戦からスタメン変更は2名。天皇杯神戸戦からの変更は6名。天皇杯での活躍を受けて数名ベンチに入ったが、基本的にはリーグ戦用メンバーに戻したと言える人選だった。
 アウェイ鹿児島の基本システムは、今季のベースである4-2-3-1。GKは松山。4バックは右から星・広瀬・岡本・渡邉。ボランチは木村・中原。2列目は右から五領・端戸・福田。1トップは藤本。前節八戸戦からのスタメン変更は1名。怪我による離脱となっていた星が野嶽に代わってRSBに起用された。怪我からの復帰が期待された薩川・米澤はメンバー入りとはならなかった。

マッチレビュー

 前半の立ち上がりに主導権を握ったのは長野。天皇杯神戸戦を彷彿とさせる連動したプレッシングで、鹿児島のビルドアップを破壊する勢いだった。

 鹿児島は4バックの前に木村が6番ポジションをとる形でのビルドアップを試みる。足元の技術が高い松山がGKであることで、CBは幅を使ってビルドアップポジションを取ることができる。
 鹿児島の後方4-1ビルドアップに対して、長野は今季の軸である5-1ブロック+4枚でのプレッシングでボール奪取を試みた。山本・森川が縦関係になり、6番ポジションに入る木村を消しにかかる。

 木村を使ったプレス回避経路を塞がれた鹿児島が狙う次のパスコースは幅をとったCB。松山から長いパスでSBに直接つけることは少なく、基本的には広瀬・岡本を経由してビルドアップを構築した。
 長野は山本・森川による制限を見て、鹿児島CBに対してはIHの安東・三田が縦にずれて圧力をかける。このとき、IHの背後のスペースでボールを引き出そうとする鹿児島のIHが気になるが、自身の背後にマーカーを置いてパスコースを消すようにプレッシングをかける(カバーシャドウ)。

 長野IHによる鹿児島CBへのプレスでプレー選択時間を削ぎ、鹿児島CBからのビルドアップコースをSBへと外側に誘導する。このCB→SBのパス交換の間に長野WBがさらに縦にずれて、鹿児島SBに対して圧力をかけていく。長野は5バックで守備ブロックを構えているため、長野WBから鹿児島SBまでの距離は遠くなる。仮に完全に遅れて前に出て行ってしまうと、単純にビルドアップのスペースを与えることになり、ハイプレスが完全に剥がされてしまう原因になる。
 ただ、今節の長野は
「6番ポジションへのパスコースの封鎖」
→「CBへのプレッシング&8番ポジションを背後で消す」
→「WBの縦ずれ&HVの横ずれ」

の一連の流れが非常に連動してタイミングよく行われていた。そのため、ビルドアップの整頓された鹿児島でも立ち上がり15分頃までは、なかなか長野のハイプレスに対してプレス回避経路を作り出せずにいた。

 一方で、長野にとってハイプレス戦術は非常に体力を消耗する戦い方であった。鹿児島のビルドアップを封殺し、主導権を握るという点に関しては及第点の効果を見せたハイプレス。しかし、最も重要なゴールという結果まで辿り着くことができなかった。ゴール前の個人判断の質やラストパスの精度というところは求めていかなくてはならないが、"賢守"を軸にしていた中で疲れが精細を欠くことにつながっていたのではないかという疑問が残る。
 天皇杯神戸戦を含む3連戦は、移動距離も長くコンディション的に万全な状態とは言えなかったはずだ。特に、ボールの取りどころに設定されている杉井・西村・船橋の疲労蓄積はチーム内でもトップクラス。それぞれが悪いプレーだったわけではないが、圧をかけてピッチを制圧していた時間で先制点が奪えなかったことは重くのしかかった。

 前半のうちに鹿児島が先制点を奪った場面は、長野のビルドアップミスが起点だったが、設計としては鹿児島のプレスに対して良く対応できていたのではないだろうか。
 長野陣内の深い位置からのビルドアップに対しては、鹿児島は4-2-3-1の形を崩さずにプレッシングをかける姿勢を見せた。非常に強度の高いプレスではないように見えたが、前線の選手の体力を考慮した中でのプレス強度だったと思う。
 長野のビルドアップの基本型は3バック+6番ポジションに入る選手。このため、3-1でプレスをかけてくる鹿児島に対しては、全員が捕まってしまいやすい配置にもなっている。しかし、西村が左右いずれかに流れて立ち位置を取り、IHの一方が西村の脇に降りてくる。この動きによってビルドアップ時に3-2の形を生み出し、鹿児島の4枚に対して数的優位を保ちながらビルドアップすることができた。
 元々6番ポジションに入る西村に加え、降りてくる三田・安東の質も悪くなかったはずだ。実際、失点場面は三田の個人技術面でのミスが原因だが、失点以前から池ヶ谷→三田のパス交換からボールロストした場面もあった。個人技術の向上は必要として、ビルドアップの過程でいつ前方につけるかと共通認識も重要になっていくだろう。

 鹿児島のブロックを押し込んだ時には、三田・安東は1列高い位置に戻り、ハーフスペースでボールを引き出すポジションをとった。鹿児島のブロックを押し込んだ際には、藤本-端戸が横並びになるため、西村が2人の間で牽制し、門を閉じればHVを使った前進を、門を閉じなければ中央からの前進をと選択肢を持った状態で攻撃のスイッチを入れられていた。
 欲を言えば、3バックの保持に対してもっと食いつかせた状態で、中央の2ndDFライン背後で三田・安東・森川がプレーできるような余裕とプレー判断は求めていきたい。
 ただ、ビルドアップミスから失点した後も攻撃を組み立てていく姿勢を変えず、上位相手に自分たちのスタイルを貫こうとした姿は評価したい。おそらく、天皇杯メンバーがJ1神戸相手にビルドアップを挑戦していた姿を見て、リーグ戦メンバーも何か感じるものがあったのではないだろうか。

 楽観的な見方かもしれないが、後半に入っても主導権を先に握ったのは長野だったのではないだろうか。

 鹿児島のビルドアップに対して、長野は前半に続いて同じようなプレッシングで対応する。しかし、前半途中から見られた連動の遅れや運動量の低下も踏まえてプレッシングラインを1段階低い位置に設定したように感じた。

 プレッシングラインを1段階下げたことで鹿児島CBへの圧力がかけづらくなり、CBから西村の脇に差し込まれるような場面が増えた。鹿児島は西村の脇にあるスペースを起点として、攻撃を展開していく場面が増えていった。長野としても対応策がないわけではなく、ハーフスペースで浮いた選手に対してはボールサイドのHVが縦にずれて対応していた。この対応の流れで、HVとWBの内外が入れ替わることも発生していたが、長野WBとHVの守備面における互換性は問題なかった。
 また、プレッシングラインを低くしたが、鹿児島の勢いが一気に出てくることはなかった。この点に関しては、森川に代わって入った進の貢献が大きいと思われる。長野の前線4枚のプレッシングを最前線にいながら、コントロールできる進は、ボール奪取にいく局面とコース限定に抑える局面を洗濯しながらプレッシングを行っていた。プレッシングにおける司令塔が前線に入ることは長野にとってプラスに働いた。

 そして、シュタルフ監督は得点を奪いにいくために3枚同時交代を行う。プレッシング時に運動量が求められ、消耗の激しいIHを2枚替え。また、杉井に代えて原田をLWBとして投入。ボール保持時に後方3-2ビルドアップを可能にする可変型に切り替えた。原田を活用した可変システムへの切り替えによって、IHが高い位置で攻撃参加ができるようになった。左サイドは音泉が、右サイドは船橋がサイドレーンでボールを引き出すことにより、鹿児島WGが低い位置まで守備に引っ張られることになった。この影響で長野HVがクリアボールを回収しやすくなった。
 波状攻撃を仕掛けることで鹿児島の守備ブロックを押し込む時間帯もあり、攻撃に割く時間が増加した。安東の同点弾の場面も、後方3-2ビルドアップからの流れで左サイドを深く抉り、二次攻撃のタイミングでミドルシュートを突き刺した。

 鹿児島の攻撃に関しては、鹿児島WGvs長野WBという局面で、個人の質で上回られる場面が少なくなかった。完全に攻撃の起点にされていたわけではなかったが、長野のプレッシングラインが下がったことで守備が難しくなったのは、ここのマッチアップだったと思う。鹿児島WGはJ3の中でも非常にクオリティが高いため、個人の質で上回られたといって優勝に向けて悲観しすぎることはないように感じた。

独断評価

個人評価

キムミノ:7
琉球戦・神戸戦・鹿児島戦と厳しい日程ながらも、全試合で長野のゴールマウスを守った。今節も決定的な場面で何度もチームを救った。勝ち越し点に関してはノーチャンスであり、素晴らしいパフォーマンスだった。
池ヶ谷颯斗:6
今節はビルドアップにおける楔のパスの精度が冴え渡った。RHVとして彼を起用する最も大きなメリットであり、攻撃の始点を担った。対人守備に関しては、まだまだ改善の余地があると言える。
秋山拓也:5
今節は強みとする空中戦で勝負する場面が少なく、目立つ活躍は見られなかった印象。ただ、ビルドアップの安定感には貢献できていたように思う。一方で、縦ずれや横ずれが多く求められた今節では守備で苦労したのではないか。
佐古真礼:5
今節の3バックの中では最も機動力に優れ、縦ずれにも横ずれにも対応し、鹿児島のビルドアップに蓋をする働きができていた。ファウル数も目立ったが、強度としては申し分ないものがあった。
船橋勇真:6
試合終盤に足を攣ってしまったが、前後半通じて攻守にアップダウンを厭わなかった。渡邉を相手に球際でもよく戦えており、攻撃に関しては身体のキレを感じさせる持ち上がりを見せた。
杉井颯:5
琉球戦・神戸戦・鹿児島戦で出場し、今節は運動量の下降が見られた。序盤は縦ずれを軸にプレッシングを行えていたが、徐々に1テンポ遅れる場面が増えて行った。まずはしっかりと休息をとってほしい。
西村恭史:6
琉球戦・神戸戦・鹿児島戦で出場したが、今節も足元の高い技術と中盤からの推進力を見せた。日程から考えると非常に高いパフォーマンスだったと言える。ただ、ゴール前での精細さは欠いていたため、杉井同様に休息してほしい。
安東輝:8
神戸戦での活躍が認められ、リーグ戦での今季初先発を果たした。ビルドアップへの貢献も、攻撃時に相手の矢印の逆をとることにも優れていた。同点弾も素晴らしいゴールだった。
三田尚希:4
不運にも被先制点のきっかけになるミスをしてしまった。攻撃での運動量など評価できる側面は多々あるものの、決定的なミスであったため高い評価をつけることは難しい。
森川裕基:5
前半のみの出場になったが、狙いとしていた広瀬をサイドに引き出す働きを十分に遂行していた。負傷も影響しての交代と試合後コメントで言及されていたが、独力で突破可能な彼を失えば非常に厳しくなることが予想される。
山本大貴:5
1トップとトップ下で起用された。直近の試合の中では比較的ロングボールでの陣地回復が少なかったため、攻撃の起点になる数は少なかった。ただ、ボックス付近でのタッチ数は増えたため、得点につなげていきたい。
進昂平:6
1トップで後半開始から起用された。前線でのプレッシングにおける司令塔であり、スイッチのON/OFFを操った。審判との相性が悪く、ファウルになってしまったが、ポストプレーの巧みさは健在であった。
原田虹輝:5
後半途中からLWB/ボランチとして起用された。可変型に切り替えられたのは彼の特徴があってこそ。中央での推進力と狭いスペースでの技術は卓越したものを見せた。WBとしての対人守備はやや劣る。
近藤貴司:6
後半途中からRIHとして起用された。プレッシングのスピードやタイミングはやはり一級品。推進力も卓越しており、独力での持ち上がりで陣地回復することにも貢献した。
音泉翔眞:5
後半途中からLIHとして起用された。独力でサイド攻略を試み、鹿児島WGを押し下げることに貢献。試合終盤の振る舞いに関しては、反省するべきところもあるが、闘志を感じさせるプレーだった。
高橋耕平:5
試合終盤からRWBとして起用された。試合終盤で船橋の痙攣による交代になったが、クオリティの高い鹿児島WGに対しても引けを取らなかった。地上戦での対人守備に関しては、先発メンバーを上回るものを持っている。

ORANGE評価

One Team:4
公式戦4連敗の状況を何とかひっくり返すという意気込みを感じる立ち上がりの姿勢だった。試合終盤の振る舞いのいくつかはFor Teamだったのかを考える必要もある。
Run Fast:4
特に試合序盤のプレッシングは、明らかに鹿児島のビルドアップを抑えられていた。ただ、日程と天候を考えた時にいつバランスをとるべきだったかは、賢守を軸に改善していく必要がある。
Aggressive Duels:3
非常に積極的にデュエルで戦えていたと考える。ただ、ノーファウルで奪い切るところやルーズボールの競り合いで奪い切るところは、まだまだリーグトップレベルを目指していけるはずだ。
Never Give Up:3
木村にスーパーゴールを決められた後、チームはもちろんスタジアムの雰囲気として諦めムードが漂っていなかったかを確かめなければならない。連敗中こそピッチの外から大きな後押しが必要になる。
Grow Everyday:4
厳しい日程になった3連戦だが、短いスパンながらも成長が見られた試合だった。リーグ上位につける鹿児島相手にも勝利できる内容だった。しかし、敗北の事実は受け入れ、勝てる集団になっていく必要がある。
Enjoy Football:3
公式戦5連敗の状況で試合結果を楽しめないことは仕方がない。また、チームも勝利に渇望し、楽しめていなかった側面があるのではないだろうか。今こそ、純粋に楽しむ心を持つことも重要になるだろう。

まとめ

 鹿児島にとっては、土曜開催の第14節で他上位クラブが勝点3を積み重ねていた中で上位対決を制したことは非常に大きな意味を持つだろう。結果的には長野のミスとスーパーゴールで勝点3を掴んだが、ある意味では運が完全に味方していると自信を持てる結果になったと言える。直近2試合は得点が生まれていなかったが、再び得点が生まれ、エンジン再点火のきっかけになったのではないだろうか。
 次節はホームに鳥取を迎えての一戦となる。昨季の後半戦では大敗を喫しており、是が非でもリベンジを果たしたい対戦になるだろう。徐々に上位グループが小さくなる中で、牽引する立場をとるためにも連勝を掴み取る必要があるだろう。

 長野にとっては、天皇杯を含む公式戦で5連敗と非常に厳しい6月を送っている。第10節以降未勝利であることを考えると、単純なダービー燃え尽き症候群では片付けられない問題があると言える。佐藤・砂森の離脱はシュタルフ監督にとって大きな痛手と言えるが、誰かがいなくなったことで失速してしまっては優勝にふさわしいチームとは言えないだろう。
 次節はアウェイ北九州戦に臨む。鹿児島戦では宮阪のメンバー外もあり、3列目の人員トラブルが発生しかねない状況と言える。そして、対戦相手の北九州は第2節以来の勝利を今節で掴んでおり、復調気味と言える。順位表の位置が意味をなさない拮抗したJ3だからこそ、一戦の勝利を求めていく必要がある。また、サッカーを楽しむ心はチーム・サポーターともに取り戻していきたい。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。


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