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【マッチレビュー】2022 J3 第20節 AC長野パルセイロvsカターレ富山

4連勝

 8月14日、長野Uスタジアムで行われた、2022 J3 第20節 AC長野パルセイロvsカターレ富山の一戦は1-0でホームチームの勝利となった。
 ホームチームの長野は、この結果によって4連勝を達成し、7月中の無敗に続き8月に入っても負けず。4連勝&6戦負けなしと勢いを落とすことなく、上位戦線に食らいついている。最後に敗北した富山に対して、ホームゲームでしっかり借りを返し、勝点3を奪えたことはチームにとって自信となるだろう。長野はコロナ陽性者・濃厚接触者を6名抱えての試合だったが、上位につける富山に対してチーム一体となって挑み、見事に"ウノゼロ返し"を完遂した。これまでと異なる起用法などがいくつかあったが、上位に対しても戦えたという自信が、戦列を離れているメンバー・ベンチ外となったメンバーにも良い影響を与えると信じたい。
 アウェイチームの富山とすると、上位直接対決であるこの一戦に敗れたことは、昇格に向けて大きな痛手と言えるだろう。前節はコロナ陽性者の影響もあり、ベンチ登録が1人少ない中、強敵いわきFC相手に勝点1を分け合った。全員が戦列に復帰し、1週空けてのリーグ戦だっただけに、長野とのスカッド状態を比較しても勝点3を奪いたかったところだろう。この敗戦で、2試合連続で勝利から見放されている状況。勝点差から見ても、まだまだ可能性がある位置につけているが、いわき(H)→長野(A)→愛媛(H)という上位直接対決の塊を未勝利で折り返すことになった。勢いはもちろんのこと、自力でライバルを蹴落とす機会で、逆に勝点を献上してしまったことになる。ホームに戻り、愛媛との直接対決を制し、昇格圏内に向けてリードを取る必要がある。

スタメン&ベンチメンバー

 ホームの長野は、前節からスタメンを3人変更した。コロナ陽性者・濃厚接触者が6人いることを考えると、想像したよりも変更は少なかった印象。大内の加入以降、ベンチに座る機会の多くなった金が先発起用され、直近の勢いを象徴する藤森も初先発起用。2020、2021シーズンの攻撃を牽引した三田も先発メンバーに名を連ねた。また、昨季は怪我に泣かされた牧野もメンバー登録され、ついに2022シーズン公式戦で初お披露目となった。
 アウェイの富山も、前節からスタメンを3人変更した。コロナ陽性者の発生により、メンバー登録人数が1人少なかった前節に比べるとベストな状況からメンバーを選出することができた印象。前回の同対戦カード時と全く同じ両WB、神山選手・安藤選手に戻してきた。また、個人的に印象に残ったのは、アルトゥールシルバ選手・マテウスレイリア選手・ルイスエンリケ選手といった外国籍選手がベンチも含めて登録されなかったことだ。前回対戦時も個で局面打開された場面が焼き付いていたため、メンバーの並びだけを見るとやや安心できた点もある。

対富山対策の変更

 コロナ陽性者トラブルがあったにせよ、長野の講じた対富山策は前回対戦時とは異なっていた。前回対戦時は、富山の3-5-2のシステムに対して4-3-1-2の中盤ダイヤモンド型で臨んだ。前半の内に少ない決定機を沈められビハインドを背負ったが、悪天候による中断を挟んでからは完全に長野がボールを握る展開。ボール支配率は69%に達し、パス成功数も富山の約5倍の数値を記録した。しかし、なかなか得点に結びつけることはできず、富山の得意な形の前に屈したように見えた。

 一方、今節の長野は守備時にWBを3バックの脇まで下ろして、ブロックを整備し引き込んだところから迎撃する守備スタイルを選択。ボールを握ることを放棄したわけではないが、良い形の守備から攻撃に転じる狙いが見えた。普段RSBを務めることの多い船橋の欠場(翌日怪我による長期離脱のリリース有)もあり、RWBに抜擢されたのは直近の勢いを体現する藤森。第4節の終盤投入でRWBを務めることはあったが、それ以降はIHやWGでの起用が多かった。今季初先発でRWBに起用されるとは、正直予想していなかった。
 3バックの一角に入った杉井がRSBを務めることで、4バックとし藤森を高い位置で起用する方法もあったはず。それでも3バック、5-3-2で迎撃することを選んだシュタルフ監督の策が富山に対して見事に刺さった内容だった。

 今節で顕著だったのは、三田によるアンカー封じ。3-5-2同士の噛み合わせであるため、2トップに対して3バックによる保持は常に数的有利を作り出せる。特に、今節の長野は富山にある程度保持させる形で入ったため、富山の3バックに対する制限は少ない。ただ、2トップの一角に入る三田には徹底してアンカー封じのタスクを与えていたように思う。中央の位置を抑えることにより、左右に揺さぶられる数を減らし、本来のボール奪取位置に人数をかけられるように設定していたのではないだろうか。

Aggressive Duels

 5-3-2で構えた形から守備をしていくと言っても、ブロックに対して進入してきた相手を自由にさせないことが前提条件となる。そこで、FPで前節と異なるスタメンとなった三田・藤森の貢献が大きかった。
 これまで、見ることの少なかった藤森のRWBという点に関して、不安要素として予想していたのは守備強度。運動量や攻撃力に関しては船橋と同等かそれ以上の能力を見せているが、強烈なシュートやドリブルに注目が集まり、守備では前線で追い回す印象が強かった。相手のサイドアタッカーに対して止まったところからどう対応していくのか気になったが、余計な心配だったようだ。
 相手からすれば、嫌なタイミングで足を出せる選手だったと思う。安藤選手や川西選手とマッチアップすることが多かったが、相手が後ろ向きで保持している時は容赦なくボールを突きに出る。決して楽な体制で保持させず、ボールを刈り取ることで前半は右サイドを佐藤と共にロックしていた。
 また、三田も11:30頃のプレーに代表されるように球際の強さにこだわっているような気概を見せた。2020シーズンや2021シーズンのRWGやRSHでの起用でもこのような守備を実施していたが、アンカー封じに加えて流れからサイドのカバーもできるとなると本当に心強い。守備の立ち位置が中央に寄ったことで、攻撃参加も中央が出発点になることが多く、今後の得点力の爆発にもつながりそうである。

持たされる富山

 富山は前節終了時点でボール支配率がリーグで最も低いチームであった。ボール保持はせずとも鋭いカウンターから個人のクオリティで得点を奪うスタイルが強みと言える。ウノゼロを積み重ね、6連勝を達成した時期があることからもそのスタイルは伺える。しかし、今節は長野が5-3-2のブロックを構えたことでボールを保持する側になった。

 当然、長野のブロックは中央や自陣に入れば入るほど密度が高くなる。そのため、ボールを動かそうとIHが積極的にブロックの外側に出てビルドアップに参加する。また、川西選手はCFに配置されているが、1.5列目に下りてチャンスメイクするポジションをとる傾向のある選手。ボールを持たされた富山の選手は長野のブロックの外側で受けようとし、中央に人がいなくなる現象が多発していた。

 もちろん、人数をかけたブロックの外側ではボールを繋げるため、WBなどが高い位置で受けることはできる。しかし、ブロックの外で繋ぐあまり、気がつけばライン際に集結させられていて、ハーフレーンに人がいない状況になる。後方に戻してやり直すも、中央の振り分けどころは三田が抑えており緩やかなテンポのサイドチェンジになってしまう。
 急所に差し込むパスが出なくなり、WBからの放り込みも5バックで構えた状況に対しては有効的ではなく、保持しているのにゴールに迫れない状況が続く。

先制点の起点

 ブロックの外では保持できるという富山の余裕から生まれたミスを逃さずに三田がカット。山本と三田の2人でシュートまで完結させ、見事なシュートを隅に叩き込んで先制。焦れることなく、狙いどころを逃さなかった長野が一瞬の隙で先制に成功した。まさに、前回対戦の反対の立場から見ているようだった。チーム全体の組織で守り、個人のクオリティで叩き込む富山のお家芸をホームで見事にやり返した。

富山の追い上げ

 サイドレーンで人数をかけて崩そうとする富山は、3バックの一角に入る大畑選手も積極的に攻撃参加するようになる。WBが保持しているときに外側へのパスコースに入ることで、IHが中央でプレーできるようになる。前半の終盤で作られた決定機も含めて、5バックの1枚が釣り出されたスペースに走り込まれる場面があった。川西選手や松岡選手といった狭いスペースでのプレーを苦にしない選手がバイタルエリアで前を向けば、DFラインとしては出ていかざるを得ず、5バックに隙が生まれることになる。
 段差を作り出すことのできる選手がPA角付近のファジーなエリアで仕事ができるように攻撃の厚みを出し、長野のゴールに襲い掛かる状況が増えた。また、空中戦に強みを持つ大野選手が後半から投入されたことで、より明確にクロスのターゲットが定まり、脅威となる攻撃を展開した。

矢印を折るボール保持

 今節特に長野の成長を感じたのが、相手の守備の矢印の逆を取るビルドアップの巧みさ。

 最近の試合でよく見るようになった幅をとりすぎない形でのGKからのビルドアップ。PA幅程度までSBが開き、GK+4バック+ボランチ1枚が基本的にはビルドアップに参加。相手の守備の矢印を見ながらボールを慌てずに出し入れして守備の網の隙を狙い続け、食い付かせた相手の背後で中盤の選手が受ける形で行っているように思える。どの選手も必要以上に幅を取らないことで、ビルドアップで詰まる場面が非常に少なくなった。また、距離感も遠すぎないものとなり、ボールロスト後の即時奪回や楔のパスへのサポートタイミングが抜群によくなった。選択肢を持ちつつ、相手の逆を取ることで相手のファースト・セカンドラインを超えてからのスピードアップがスムーズになり、簡単に相手陣内に進入しているように見えるようになった。
 「絶対ミスするなポイント」がピッチ上から少なくなり、セカンドボールが長野に溢れる確率が上がったり、自信を持ってポジショニングやパス交換を行えるようになったと感じる。当然、まだミスは発生するし、ロングボールに逃げる時もある。しかし、開幕当初からの積み上げを感じる仕上がり具合になってきたのではないだろうか。決して簡単ではない戦術の落とし込みだからこそ時間はかかるし失敗もするが、監督を中心にOne Teamとなって作り上げてきた成長が伺える。

まとめ

 昇格争いに食らいつくために絶対に落とせない上位との直接対決を制した長野。4連勝達成ということもあり、勢いがあることは間違いないだろう。また、一撃で沈める力を持つ大野選手を最後まで0ゴールに抑え込めたこともプラスに捉えて良い。着実に勝ちながら成長することができており、接戦をものにする強さもついてきたように思う。
 シュタルフ監督はコメントなどで"J2昇格に向けて"というワードを口にすることは少ないが、一種のストレス軽減のマネジメントのようにも思える。J2昇格に焦点を当てすぎると勝っても順位が上がらなかったり、引き分けで順位が下がったときに必要以上に焦ってしまう。J2昇格は1シーズン戦い抜いた結果であり、それ以上でもそれ以下でもない。焦らず積み上げる。そんなどっしり構えた体勢に見えるのである。
 連勝継続や負けなしも結果の1つ。まずはコロナ陽性者や濃厚接触者の1日も早い復帰を祈り、次節のアウェイ八戸戦に集中して欲しい。自分達の成長に矢印を向けられるチームと相手の困ることを徹底して戦術に落とし込める監督を支えられる"12番目の一員"になっていこう。
 我々の旅は始まったばかり。一歩一歩着実に階段を登っていこう。楽な相手、楽な道はどこにもない。逃げずに闘い抜き、最後に長野をオレンジに染めて上のステージに。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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