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100:不倫・夜逃げ|人生#005

・前回


・14歳の誕生日を迎える1週間前、僕の人生は暗転した。

***

・サッカー部の活動の中で大怪我をし、サッカーに対する情熱は消え失せたものの、まぁ急に環境を変えてもな…と思い部活動は何となく続けていた。
・骨折が完治した後、ピアノも再開した。

・中学2年生にあがったことで、嫌いだった先輩たちは卒業し、可愛い後輩もできたので、いろいろ思うところはあれどそれまで通りの生活を続けてはいた。

・相変わらず、学校生活に現実を見出せていたかというと、素直に頷けない気分ではあった。
・親が懸命に舗装してくれた道をとぼとぼと歩いている感覚だった。

・とは言え、その頃は明確な「道」があったので、安心感はあった。

***

・この頃、家族仲が急速に悪化していた。
・両親はよく喧嘩をしていたし、大学受験を控えていた兄も父によく刃向かっていた。

・うつ病だという父のヒステリックが拡大し、その矛先があらゆる方向に向いていた。

・なぜかそれが僕に向くことは多くなかったので、うっせぇうっせぇうっせぇわくらいの気持ちで彼らの争いを聞いていた。
・なんだかあんまりよくない状態だな、となんとなく思っていた。

***

・ある木曜日、部活から帰宅した僕はその頃ゴールデンタイムに放映されていた「ポケットモンスター」と「ナルト疾風伝」を見ながら、母の作ってくれた夕食をもぐもぐと食べていた。
・誕生日がもうすぐだったので、その日を楽しみにしつつその期待が家族にバレることが恥ずかしかったので、なるべくいつも通りの日常生活を送るよう心掛けていた。

・そのせいで帰宅後すぐには、普段と異なる様相をしている家族に気づけなかった。

・夕食を済ませたら、兄が神妙な面持ちをしながら「久々に一緒に風呂に入ろう」と言ってきた。
・その頃の僕は兄が大好きだったのでその誘いがとても嬉しく、急いで食事後のお皿を片し、風呂に入る支度を済ませた。

・兄とは、小学生の頃は毎日一緒に風呂に入り、2人で歌いながら長湯をしていたのだ。
・身体が大きくなり男2人で入るには浴槽が狭く、中学入学時くらいから1人で入るようになっていたので、久々に兄と歌えるのがとても楽しみだった。

***

・風呂の中で兄から「父の浮気が発覚した」「今夜中に荷物をまとめて明日の早朝に家を出るぞ」と伝えられた。

***

・なんでも不倫相手から手紙が届いたのだそう。
・父は不倫相手に対して妻子がいることを偽っていたらしく、なぜかその怒りが母に向けられていた。

・ちなみにその手紙には「妻と次男は数年前に交通事故で亡くし、今は長男と2人暮らしをしている」と聞いていた」といった旨が綴られていた。
・僕は父の中では死んだことになっていたらしい。

・最初にそのことを聞いた時の感想は「あぁ、ついにバレたんだ」というものだった。
・手癖が悪く父のガラケーをよく盗み見ていたので、その数年前から父の不倫は知っていた。
・知った上で「不倫が悪いことである」ことを知らなかった僕は、わざわざ母や兄にそのことを伝えていなかった。

・「浮気されたらされた側が家を出ないといけないのか?」と少し疑問に思ったものの、まぁ子どもだったのでなりゆきに身を任せ母と兄についていくことになった。

・同日の夜、久々に母・兄・僕の3人で同じ部屋で川の字になって少しの仮眠を取った。
・その時の部屋の様子、カーテンの隙間から差し込んでいた光、その先に少しだけ見えた星々の風景は、今でも鮮明に記憶に残っている。

***

・その情景が、自分が思い出せる最後のカラフルな記憶となった。
・それから先しばらくのことは、どれだけ明瞭に思い起こそうと思っても、セピア色のフィルターがかかっている。


・次回

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