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法人口座は簡単に作れません!

会社法の改正により、誰でも1円で会社設立することができるようになりましたので、会社を設立することは一定のカネと時間さえかければ結構簡単に誰でもできます。

一方、法人口座開設は、会社の登記が完了しないと申請できないので、会社設立できたにも関わらず、法人名義の口座が開設できないという事態が日本中のあちらこちらで起こっています。

特にここ数年の反社会勢力の排除やマネーロンダリング規制の強化の影響により、法人口座の開設については以前にも増して劇的にハードルが上がっています。ここ数年の傾向ですが、足元では全く緩む気配が微塵とも感じられません。

起業促進で経済活性化という政府の掛け声はむなしく、法人口座が開設できなくて悲鳴を上げている起業家は非常に多いというのが現状です。

審査厳格化の背景

社会にとって、暴力団などの反社会勢力の資金源を断ったり、オレオレ詐欺などの犯罪に口座が利用されるというのは真っ当な方向性だと思います。

特に、2007年施行の「犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収益法)」の施行により決定的に法人口座開設のハードルを一気に上げることになりました。犯収法は、その後規制を年々強化して今に至っており、むしろ規制強化方向にベクトルが向いております。

この犯収法の導入により、金融機関側は「疑わしい取引の報告義務」を監督官庁(銀行の場合は金融庁)に速やかに届出なければならないことになりました。

そもそも金融機関が最も気にするのは、暴力団でなく金融庁や財務局などの許認可権者の顔色です。

万が一、「疑わしい取引」を見逃したり、報告を怠ったりすると最悪は業務改善命令が下りて営業停止などの措置を受けることを非常に恐れています。

とすると、金融機関は、「はじめからこのような可能性が微塵でも感じられる企業の口座を入り口からさせなければいいんだ」という発想になるのが自然です。

怪しいと考えられる会社の法人口座を作らせれば金融機関自体がリスクを抱え込むし、このような怪しい会社が金融機関のビジネスに貢献してくれる確率は低い⇒それでは断ってしまえ!という思考になります。

現在、法人口座が厳格化している背景は、この金融機関の保守化によるものなのです。

しかも、各金融機関は、口座開設に関する審査基準を公表しておらず、どれがダメでどれがOKという明確な線引きがなく「総合審査」ということになっています。

メガバンクが厳しくてネット銀行やゆうちょ銀行の審査が緩いというのは、その通りですが、ネット銀行で審査落ちた会社がメガバンクで口座開設できたという事例も多くあり、じゃあどうするの?ということで、これまで自社及びお客さんの声を拾って傾向を分析してみることにします。

※あくまで傾向であることにご留意ください。

まずどこに相談するか?

個人口座での取引のある金融機関にまず相談するのが王道でしょう。

個人で取引のあった銀行がダメであれば、その他地域の信用金庫や信用組合などに相談するのも一手ですし、そこがダメであれば、ゆうちょ銀行やネット銀行に申し込むというのも一つの手だと思います。

一つ、ネット銀行で注意が必要なのは、定時定額の引き落としができないところが殆どであるということです。例えば、開業後様々なサービス利用の前提が毎月の銀行引き落としが条件となる場合には、事実上そのサービスが受けられないという可能性もでてきます。ネット銀行は振込や資金の受取に非常に便利だと思いますが、このような落とし穴がある点を知っておいてください。

開業後の取引先は、意外にもその法人の取引銀行を見ていますメガバンクに銀行口座が開設できた会社は、それなりに信用力があるとみられる傾向もあり、やはりメガバンク一行ぐらいは法人口座をもっていると何かとその後の営業にプラスに働くことは多いと思います。

逆に、ネット銀行だけだとBtoCビジネスはあまり問題とならないでしょうが、BtoBビジネスでは、「あの会社ネット銀行しか口座ないけど大丈夫か?」という思考をする大手企業の役職者は意外に多いということも指摘しておきたいと思います。

法人口座開設の傾向と対策

それでは、銀行側の法人口座開設の審査担当者の目線を想像しながら、これまでの成功例、失敗例を総合して傾向と対策を以下の通り考えていきたいと思います。

傾向1:事業内容が見られている

残念ながら、参入障壁の低いネット商売やIT関連ビジネスのは相当怪しまれて審査される傾向があると考えます。例えば、ネットで仕入れたものをネットで転売するビジネスやWEBサイトの開発などは、取引の実態が目に見えにくいので法人口座の開設の審査上不利に働く傾向があると考えます。

一方で、八百屋や物販、飲食業などは、実態の店舗が存在し銀行の審査担当者からみれば非常に分かりやすいビジネスモデルなので、有利に働く可能性が高いと考えます。

創業当時は、夢が膨らみ定款に盛りだくさん事業を書きたくなる気持ちを皆抱きます。事業内容の登記事項変更には、登録免許税が2万円かかるなどもあり、盛りだくさん書いていた方がいいと指導する旧来型のプロ行政書士は多いようですが、私は全く逆だと考えます。

登記事項証明書に記載された事業内容も当然ながら銀行の審査の対象になります。やらない事業もぶち込んでおけという発想で「脈略の無い会社」だと印象付けると確実に審査落ちとなります。

実際に行う業とその周辺業務に原始定款に記載する事業内容は留めるべきというのが最新の対策だと考えます。

傾向2:資本金が見られている

会社法上、株式会社の資本金は1円からで可能ですが、さすがに1円の資本金では法人口座は殆ど不可能だと思います。感覚ですが最低限100万円程度の資本金はマストだと考えます。

消費税の非課税特例を受けるために1000万円未満で寸止めしておくのが賢い資本金政策だと考えます。

話はややそれますが、従来、合同会社は認知度が低かったなどから株式会社のほうが有利に審査される傾向が特に地方の金融機関に多かったみたいですが現在は「格差」は殆どなくなってきていると思います。ただ、審査の決裁権者が合同会社嫌いの場合もあり得ると思うので、株式会社のほうが無難かもしれません。

傾向3:出資者が見られている

個人口座の場合と異なり法人口座開設の場合は「実質的支配者」が審査対象となります。実質的支配者とは、簡単に言うと「議決権の一定程度(25%超)を有する株主」であり、金融機関は、犯罪収益防止法の規定も基づきこの実質的支配者を審査することを義務付けられています。

ではどうやって審査しているんだ?という疑問が惹起されますが、「オジサンたちに感覚」で審査されているというのが現状だと考えます。

オジサン金融マンは自分が理解できないビジネスには非常に冷酷です。その思考は大体次のようなものです。

・外国人 ⇒ 怪しい(ただし欧米人には甘い)

・IT系、ベンチャー系の出資 ⇒ 怪しい 

・創業者が若い ⇒ 怪しい

理由付けて審査を通すのは、よほどその担当者やラインの決裁権者の目利き力が試される一方で、理由を付けて審査から落とすというのは、バカな担当者でもできてしまうということです。

傾向4:金融機関の大小はあまり関係ない

日本の金融機関には、メガバンク⇒地方銀行⇒信用金庫⇒信用組合⇒ネット銀行といった序列があります。法人口座開設にフォーカスすると、一般的にメガバンクが審査が厳しくて、序列の下位のネット銀行は審査が甘いという風説がありますが、一応当たっている面もある一方で、当たっていない面もあります。

特に、書類審査主義が徹底しているネット銀行やゆうちょ銀行が審査が緩いというのは全般的な傾向としてはその通りだと思いますが、必ずしもそうとは限らないという点に注意が必要です。

特に、ネット系銀行の書類審査では、審査項目に一点でも×が付くと全体が機械的に×となるという傾向があるようです。この点、メガバンクなどのリアル銀行は総合審査の傾向があるようです。

傾向5:オフィスが見られてる

オフィスには様々な形態がありますね。思い浮かぶものを挙げてみるときりがないのですが、法人の銀行口座開設にプラスに働くオフィスとマイナスに働くオフィスという観点で以下整理してみました。観点としては、「金融機関からみて法人としての実態があるか?」というのがポイントです。

審査上有利なオフィス ⇒ 普通のオフィス賃貸物件、実態店舗
場合によって審査上不利なオフィス ⇒ レンタルオフィス、マンションタイプのオフィス賃貸物件
審査上不利なオフィス ⇒ 自宅、シェアオフィス、バーチャルオフィス

信用金庫や信用組合は事務所調査に来て実態確認を行う傾向がありますが、メガバンクやネット銀行、郵貯銀行は書類審査となります。

また、信用金庫の担当者で、レンタルオフィスとシェアオフィスとバーチャルオフィスの整理ができている人が殆どいないので、レンタルオフィスは即×という冷酷な対応を取られることが意外に多いですので注意が必要です。

なお、地域の金融機関である地方銀行、信用金庫や信用組合は営業エリアが決まっており、その範囲営業範囲内でしか取引ができないので注意が必要です。

傾向6:許認可業は、許認可取得が条件

主たる事業が許認可業の場合は、許認可取得後でないと受付がしてもらえないです。意外な落とし穴なので、注意が必要です。

例えば、同じ不動産業でも不動産賃貸業には許認可が不要ですが、不動案の媒介業務や開発業務には宅地建物取引業の免許が必要になります。宅建業が主たるビジネスの場合、この宅建業の免許証取得後でなければ、法人口座の開設申し込みすら受け付けてもらえないです。

主たる事業が、飲食業ですと食品衛生法上の許可、ホテルですと旅館業法上の許可などを取得しないと法人口座開設の「申込」すら受け付けてもらえないという場合が多いです。(総合審査のメガバンクの場合は取引状況などによる審査もあり得ると思いますが)

傾向7:コネによる影響は厳然とある

最後に指摘しておきたいのが、「コネ」です。

コネというと袖の下みたいなイメージがありますが、少しニュアンスが異なります。

法人口座開設の際のコネとは、法人口座を当該金融機関に申込む合理的な理由です。

例えば、これまでサラリーマン時代に給料振込口座や住宅ローン口座がA銀行である場合は、法人口座開設にA銀行に行くのは自然ですね。

一方で、これが全く縁もなかったB銀行に口座開設したいと申し入れた場合はどうでしょうか? B銀行からすると「なぜこの人はA銀行に行かずにB銀行に行くのか?」という斜め読みを必ずしてきます。

上記の例ですと、A銀行の支店が近くにないがB銀行の支店は非常に近いなどの理由が必要でしょう。

金融機関は絶対に認めないと思いますが、口利きという意味での「コネ」も厳然としてあります。例えば、大取引先の会長の子息がこの度起業することになりメインバンクに口座開設を申し込んだ場合、銀行は普通断らないと思います。

逆に、コネなしの方は、以上の対策をしっかり行ってマイナスポイントをリカバリーしてから法人口座の開設の申し込みをすべきだと考えます。

会社設立に関するご相談は、こちらまでよろしくお願いいたします。

代々木国際行政書士事務所

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