スペース"J-POP"オペラがコンセプトのアニメシリーズ1話のシナリオ

まえがき

まずはじめに、このシナリオはNHKが行った『WDRプロジェクト』のメンバー公募に応募するために執筆したシナリオです。
WDRって何?と言いますと、

WDR(Writers' Development Room)とは
NHKで新たに立ち上げる「脚本開発に特化したチーム」

https://www.nhk.or.jp/wdr/

ということらしく、「世界を席巻するドラマを作る。」というコンセプトのもと立ち上げられたプロジェクトだそうな。
そんなプロジェクトに私は一体何を提出したかというと「SFアニメシリーズの第1話と2話のシナリオ」を提出しました。ドラマっつってんだろうがよ!
結果は見事に一次落ちだったわけですが、私としては面白い企画だと思っているので、何とか自力で形にして世に発信していこうと考えています。
なのでひとまずWDR用に書いたシナリオは、パイロット版ということで1話部分のみnoteに投稿して、私は今こういった企画を考えているという魚拓を取ろうと思った次第です。
前書きがゴチャゴチャしてても何ですので、さっそく本編をどうぞ。



タイトル未定 コンセプト名「スペース"J-POP"オペラ」

登場人物

街裏りんご(24)…地球人の地下アイドル
イウヴァルト(外見年齢14)…宇宙人の音楽オタク
アディ(外見年齢18)…女性型アンドロイド
野上茂(40)…りんごの熱烈なファン
スィズ(外見年齢30)…


1話


〇 地下シェルター

薄暗い地下シェルターの中、野上茂(40)の操作する端末の画面だけが光を放っている。

茂「…前にあったよね。『もしも明日、地球が滅ぶとしたら…最期の瞬間を誰と過ごしたい? 』って質問」

茂、最後にエンターキーを押すと、端末を操作する手を止める。

茂「君はプロだから、いつもの笑顔で『ファンのみんな』って答えてくれたね」

茂が振り返った先には、棺桶のような形状をした一人分のコールドスリープ装置がある。
 
〇 ニューヨークの街並み

様々な人種の人々が闊歩する、ごく普通の日常風景。
ところが突然、人々の頭上に影が迫り、通行人が一斉に顔を上げる。
次の瞬間、大量の隕石群が上空から飛来してくる。
次々に破壊されていく街並み、逃げ惑う人々、泣き叫ぶ子供の地獄絵図。

茂の声「本当はきっと家族とか友達とか…。そんなことは考えたくないけど、ひょっとしたら恋人とか、もっと大切な人と過ごしたかっただろうにね」
 
〇 地下シェルター

コールドスリープ装置の表面をそっと撫でる茂。

茂「最後に一緒にいるのが俺でごめんね…。でも俺はどうしても、君に未来を残したい」
 
〇 コールドスリープ装置内部

ステージ衣装を身に着けた街裏りんご(24)が眠りに付いている。

茂「君ならきっと…宇宙一のアイドルになれるはずだから…。りんごちゃん…」
 
〇 宇宙空間

陸地の殆どが消失した地球が見える。

N「巨大隕石群の飛来により、惑星・地球は滅亡した。一部の地球人は、新天地・火星を目指し、宇宙へと逃れた」

× × ×

宇宙空間を飛び交う宇宙船が、ワームホールに飲み込まれていく。

N「しかし、火星へ向かう複数の宇宙船でワープ事故が発生」
 
〇 惑星アリーチェ・一般家屋内

地球の様式ではない宇宙的な様式の一般家屋で、美少女的な顔立ちの宇宙人、イウヴァルト(外見年齢14、一目見て宇宙人とわかる外見)が食事を摂っている。
そこへ突如として轟音が響き、驚いたイウヴァルトが窓の外を覗く。
そこに広がっていたのは、巨大な宇宙船が住宅地のど真ん中に墜落している衝撃的な光景であった。

× × ×

墜落した宇宙船を眺めているアリーチェ人の民間人。
すると宇宙船から怪我を負った地球人の人々が出てきて、アリーチェ人らに気付き驚愕の表情を浮かべる。

N「外惑星への不時着を余儀なくされ、そこに住まう知的生命体との遭遇を果たす」
 
〇 惑星ラヴィア・繁華街

様々な宇宙人が闊歩する、惑星ラヴィアの歓楽街。

N「皮肉にもこのことがきっかけで、宇宙は急速な発展を遂げることとなった」

別々の人種の若い女性2人が、笑顔で一軒の建物(クラブ)の扉を開き、中へと足を踏み入れていく。

N「地球が滅んでから312年が経過した今日――」
 
〇 音楽クラブ・フロア

大音量でJ-POPが鳴り響くフロアで、多種多様な宇宙人たちが熱狂して踊り狂っている。

N「宇宙では地球文化が大・大・大ブーーーム!!!」
 
○ 荒廃した東京

淀んだ空の下、荒廃しきった東京の街並み。
人の姿はなく、異形の化け物と化した原生生物が地上や上空を闊歩している。
街の片隅には、円盤型の宇宙船が停泊している。
 
○ 地下シェルター

巨大コンテナが並ぶ、広々とした地下シェルター。
扉の開いたコンテナの中から、電子音が聞こえてくる。
 
○ コンテナ内

コンテナの中には棚が並んでおり、そこには大量の音楽CDが並んでいる。
ホログラム式の端末を操作しているイウヴァルト。防護服を装着しており、顔は見えない。
すると、ホログラム画面にアリーチェ語でエラーの表示が。

イウヴァルト「くそ、これもだめか…!」

別の端末(小型のCDプレイヤーのようなもの)を操作し、中に入っていたCDを取り出し、丁寧な手つきで専用ケースへとしまう。

イウヴァルト「一か八か、データの修復に回してはみるが…。期待はできんだろうな」

別のCDを手に取ると同時に、防護服の腕部分にある端末から警報アラームが鳴りだす。イウヴァルト、端末を見ながら、

イウヴァルト「もう活動限界か…。だがこの1枚だけでも…!」

丁寧な手つきでCDを取り出し、端末で読み込む。
すると先ほどとは打って変わって、エラーになることなくデータが読み込まれていく。

イウヴァルト「(嬉しそうに)!」
 
○ 荒廃した東京

大型車サイズの巨大な猫が腹を出して寝転がっており、その猫の腹を撫でている女性型アンドロイド、アディ(外見年齢18)。

アディ「(機械的に)ごろにゃー、ごろにゃー」

そこへ、大荷物(端末やCDなどが入ったケース)を抱えたイウヴァルトが、走ってやってくる。

イウヴァルト「アディ!」

巨大猫、イウヴァルトに気付くと途端に獰猛な異形の顔つきになって、イウヴァルトに襲い掛かろうとする。
しかし、アディが巨大猫の尻尾を掴み、そのまま巨大猫を投げ飛ばす。
吹っ飛んでいった巨大猫、朽ちかけた建物に激突し、そのまま瓦礫の下敷きに。

アディ「マスター・イウヴァルト。むやみに大声を出すのは、原生生物を刺激し、危険です」
イウヴァルト「喜べ、極めてデータの保全状況が良好なアルバムを発掘したぞ!」

再びイウヴァルトの端末から警報アラームが鳴りだす。

アディ「これ以上の滞在は危険です。一時退避すべきかと」
 
○ 宇宙船・廊下

速足で闊歩するイウヴァルトと、追従するアディ。

イウヴァルト「あとは任せるぞ、アディ!」
アディ「承知致しました」

アディはコックピットへ、イウヴァルトはスタジオルームへと向かう。
 
○ 同・スタジオルーム

前面に大画面モニター、大量の端末が所狭しと並んだ、どことなく音楽スタジオのような雰囲気の室内。
イウヴァルト、防護服を脱ぎ捨て、素顔が露になる。
慌ただしくモニター前の椅子に腰かけCDを端末に読み込ませると、モニターに読み込みの進捗状況が現れ、11曲あるうちの10曲はなかなか進まないが、1曲のみ順調に進んでいく。
その様子をキラキラした瞳で見るイウヴァルト。
 
○ 荒廃した東京

今まさに飛び立たんとする宇宙船。
すると瓦礫の中から這い出た巨大猫が、悍ましい叫び声をあげながら宇宙船に飛びついてくる。
 
○ 宇宙船・コックピット

宇宙船に攻撃を繰り返す巨大猫の様子をモニターで見ていたアディ。
冷静な様子でコックピットから出て行く。
 
○ 同・スタジオルーム

1曲の読み込みが完了したことを告げるモニター画面。
イウヴァルト、待ちきれないと言わんばかりに、満面の笑みで再生ボタンを押す。
すると宇宙船中に、J-POPの楽曲(accessの『BeNude』)が流れ始める。
イウヴァルト、興奮した様子で立ち上がり、瞳をキラキラと輝かせる。
 
○ 荒廃した東京

未だに宇宙船にしがみついている巨大猫。
すると、どこからともなくビーム砲が飛んできて、巨大猫に直撃する。
驚いた巨大猫が攻撃が飛んできた方を見ると、タラップに立つアディが左手に装着された砲台から追撃を放たんとしていた。
巨大猫、攻撃される前にアディに飛び掛かり、地面に押し倒して胴体を抑えつける。
が、次の瞬間アディの顔が開いて、口内の砲台からビーム砲が発射される。
凄まじい轟音とともに瓦礫の山へ再度吹っ飛んでいく巨大猫。
その直後、宇宙船が離陸し、上空へ飛んでいく。
アディ、胴体とケーブル繋がっている右腕を宇宙船に向かって飛ばし、タラップを掴む。
やがて大気圏を突き抜け、アディが掴まった宇宙船は宇宙へ。
 
○ 宇宙空間

陸地の殆どが消失した地球が見える。
宇宙空間に生身でいながらも平然としているアディ(アンドロイドだから)。
徐々にケーブルを縮めてタラップへと戻る。
 
○ 宇宙船・スタジオルーム

曲に合わせてノリノリで踊っているイウヴァルト。
だが突然、室内が停電状態になり、曲も止まる。

イウヴァルト「んなぁっ!? このようなタイミングで何だ一体っ!?」

憤慨しだすイウヴァルトのもとへ、アディがやってきて、

アディ「マスター、船が自動で省エネルギーモードに移行した模様ですが」
 
○ 宇宙空間

宇宙空間に漂っている宇宙船。

イウヴァルトの声「なんだと!? 私はただ、このアルバムのデータを読み込んだだけだぞ!」
アディの声「マスター、何度も申し上げておりますが、SCDデータの読み込みには膨大な処理作業に伴う電力消費が不可避であり、複数音源を同時並行で行うのは控えて…」
イウヴァルトの声「そうこうしているうちにデータの劣化が進んだらどうなる! この私の邪魔は誰であろうと許さんぞぉぉぉ!」
 
○ 惑星ラヴィア・歓楽街

様々な宇宙人が闊歩する歓楽街。
街のあちこちにクラブやライブハウスのような建物があり、あらゆるジャンルの邦楽が音漏れしている。
若者女性の宇宙人の連れ合い、道を歩きながら、

宇宙人女性A「ねえ、EVON(エヴォン)の新譜聞いた?」
宇宙人女性B「聞いた聞いた! めっちゃいいよね!」
 
○ 音楽ショップ

商品棚にCDに限りなく近い音楽端末が並んでおり、宇宙人の店員が大勢いる客に呼び掛けている。

店員「いま大注目の地球音楽専門レーベル、EVONのニューリリース音源! 残り僅かでーす!」

商品を購入した男性の宇宙人の連れ合い、店から出て行きながら、

宇宙人男性A「やっぱりEVONの音源は音質が段違いだな」
宇宙人男性B「せっかく曲が良いのに音質がクソだと萎えるもんなー」
 
○ EVONオフィス・外観
宇宙的なデザインの建築物。入り口前には「EVON」と書かれた看板が。
 
○ 同・社長室

建物よろしく宇宙的な雰囲気の室内。
やたら上機嫌な様子の、地球人そっくりな宇宙人男性、スィズ(外見年齢30)が社長室にやってくる。

スィズ「待ってたぞ~、イウヴァルトにアディ! アルバム音源を発掘してきたんだって!?」

既に室内にいたイウヴァルト、何故か最悪な顔色をしてバケツに嘔吐しており、イウヴァルトの背をアディがさすっている。

イウヴァルト「おえぇぇぇ…!」
スィズ「のわっ!? おいおい、大丈夫か?」
イウヴァルト「大事ない、ただの船酔いだ…。地球に行った後は毎度こう…おえぇぇぇ!」
スィズ「頼むからその辺に吐かないでくれよ。それで、発掘した音源はいつリリースできそうなんだ?」

イウヴァルト、口元をぬぐいながら、バケツをアディに渡す。

イウヴァルト「5曲ほどにデータの欠落が見受けられた。故に復元作業に3か月、音質の修復に1か月といったところだな」
スィズ「ってことは…プレスに回せるのは4か月後か!? 遅すぎるよ~っ! 音が多少少なくたって誰も気づかないんだし、1か月で何とかならない?」

イウヴァルトの眼がギロリと光り、スィズに激しく詰め寄る。

イウヴァルト「キサマァ!! 腐っても音楽レーベルの代表が、そのような舐めたことを抜かすな!! 複数の音が緻密な計算のもとに重なり合い、この上なく美しい調和を生むことこそ地球音楽の醍醐味!! 欠落していい音など一つ足りとてない!!」
スィズ「わ、わかったわかった! ゴメンってば!」

イウヴァルトから逃れ、社長椅子に腰かけるスィズ。

スィズ「でもさぁ、今のこの地球音楽ブームだって、いつまで続くかわからないんだからさ。地球に残るSCDだって、経年劣化でどんどんダメになって、ただの円い板になっちゃってるわけだし」

イウヴァルトの眼が再び光る。

イウヴァルト「ただの円い板だと…!?」
スィズ「事実なんだから怒んないでよ。要するに、地球音楽は限りある資源ってわけ。ブームが続いてるうちにじゃんじゃんリリースして、少しでも多く稼いで、ブームが廃れてきたらさっさと見切りをつける。それが真っ当な商売ってもんでしょ」
イウヴァルト「……」

怒りを抑えるように拳を握り締めるイウヴァルトに、アディだけが気付く。
イウヴァルト、突然室内に置かれていた高級そうな花瓶を手に取ると、そこに向かって嘔吐する。

イウヴァルト「おえぇぇぇ」
スィズ「あーっ!! ちょっと、それ300万モーグで買ったやつーっ!!」
 
○ 同・廊下
社長室から出てきたイウヴァルトとアディ。イウヴァルト、乱暴に扉を閉めて、

イウヴァルト「チッ、俗物めが!」

イウヴァルトとアディ、出口へ向かいながら、

アディ「しかしスィズ社長の言うことはごもっともです。あと数年もすれば、地球に遺されたSCDはその大半がデータ消失を免れないでしょう」
イウヴァルト「……」
 
○ エネルギースタンド

数々の宇宙船がエネルギーを補給している。
アディが自身の宇宙船へと補給する傍ら、イウヴァルトはタラップに腰かけて端末を操作している。

イウヴァルト「補給が終わり次第、すぐ地球に出発だ」

アディ、補給の手を止めてイウヴァルトを見る。
アディの視点にイウヴァルトの脈拍や放射線量などのデータが表示される。

アディ「マスターの体調を鑑みたところ、明日以降の出発が最適と考えますが」

イウヴァルトの持つ端末から、ホログラムの画面が表示される。画面上には地球の地下層をスキャンした際のデータが。

イウヴァルト「先日発掘に当たった座標付近に、手つかずのシェルターの存在が確認できた。面積から推測するに一般家庭用の可能性が高い、思わぬ掘り出し物が見つかるしれん」
アディ「仮にそうなると、保存状態にはあまり期待できませんね」

イウヴァルト、ホログラム画面を消して、イウヴァルトに向かって得意げに笑む。

イウヴァルト「このわたしを見くびるなよ。僅かなデータの残骸だけでも確認できれば、十分に修復できる! とはいえ、急ぐに越したことはない」

決意に満ちたイウヴァルトの眼差し。

イウヴァルト「音楽は地球が生み出した偉大な文化だ。たとえ惑星そのものが滅ぼうとも、決して絶えてはならない! わかったら早く補給を済ませろ!」

アディに背を向け、タラップを上って宇宙船内へと向かう。

アディ「承知いたしました、マスター」

アディ、補給を終え、イウヴァルトに付いていって船内へと向かう。
 
〇 宇宙空間

地球に向かっているイウヴァルトたちの宇宙船。
 
〇 宇宙船・スタジオルーム

J-POPの楽曲(accessの『SensualGlide』)が室内にこだまする中、音源の修復作業(マスタリング作業に酷似している)に勤しんでいるイウヴァルト。
そこへ通信が入り、

アディの声「マスター、間もなく目的地に到着します」
イウヴァルト「わかった」

作業の手を止め端末の電源を落とすと、防護服の装着にかかる。
 
〇 荒廃した住宅街

廃墟と化した住宅街を、防護服姿のイウヴァルトとアディが歩いている。

アディ「この周辺は地球人の居住地区だったようですね」

イウヴァルト、手に持つ端末とある一軒の家を見比べ、

イウヴァルト「あった、あそこだ!」
 
〇 荒廃した一軒家・庭

崩れ落ちた一軒家に、核シェルターの入り口部分が隣接されている。
アディの手のパーツがチェーンソーのような形状になり、入口扉の鍵部分を切り開いていく。

イウヴァルト「一般家庭用のシェルターにしては随分と丈夫な出来だな」

アディ、扉の切除を終え、手のパーツを元の人型のものに戻す。

アディ「開きました、マスター」
 
〇 地下シェルター・入り口部分

扉が開き、イウヴァルトとアディがシェルター内を覗き込む。
明かりのない真っ暗な内部には、地下へ通じる階段がある。
 
〇 同・階段

イウヴァルトとアディが階段を下りている。
階段を下り終え、イウヴァルトとアディが最下層へと辿りつくと突然、その場に照明が付く。

イウヴァルト「!」
 
〇 地下シェルター・最下層

明かりに照らされた空間の中央に、コールドスリープ装置が設置されている。
その周囲には色あせてしまっているが、りんごのポスターやチェキなどのグッズが部屋いっぱいに飾られている。
イウヴァルト、驚愕しながら、

イウヴァルト「これはいったい…!?」
アディ、コールドスリープ装置に近づき、稼働していることを確認する。

アディ「マスター、この装置…稼働しています」
イウヴァルト「何!?」

慌てて装置のもとへ駆けつけてきて、表面や接続口などあちこちの部分を見始めるイウヴァルト。

イウヴァルト「いったい何を動力に…いや、そもそもいつから…? まさか、地球が滅亡するその以前の…!?」

一通りの確認を終えたイウヴァルト、信じられないといったような様子で、

イウヴァルト「つまり、これは…」
 
〇 コールドスリープ装置内部

眠りについたままのりんご。

イウヴァルトの声「地球人が遺した、コールドスリープ装置…!」
 
〇 光の空間(りんごの夢)

白い光に満ちた空間に、りんごの両親、幼い妹の柚子(12)の姿が浮かび上がる。が、3人の顔はぼんやりと白んでいてよく見えない。

りんごの母「りんご、身体には気つけでね」
りんごの父「何があったっきゃいづでも帰っておいで」
柚子「姉っちゃ、けっぱってね!」
りんごの声「ありがとう、みんな。わたし、東京で成功すて、宇宙一のアイドルになってくるはんでね!」

× × ×

茂をはじめとする数人ばかりのファンの笑顔が浮かび上がるが、やはり顔がぼやけてよく見えない。

茂「りんごちゃーん!」
ファンA「りんごちゃん、可愛いよーっ!」
ファンB「りんごちゃん、世界一!」
りんごの声「(若干訛った喋り方)ありがとう、みんな! りんご、宇宙一のアイドルになるまで頑張るから、ずっと応援してねーっ!」

× × ×

悪どい笑みを浮かべたプロデューサーの顔がぼんやりと浮かび上がる。

りんごの声「え…次回からソロパートなしって…」
プロデューサー「仕方ないじゃん、お前人気ないんだから。こっちもさあ、いつまで経っても売れる気配のない地下アイドルを、5年も6年も抱えておけるないワケ」
りんごの声「そんな…そんなのって…!」

× × ×

顔はぼやけているが興奮している様子の茂が、りんごに迫っている。

茂「りんごちゃん! 俺は最後までりんごちゃんの味方だからね! 売れなくたって、世界中の誰にも見向きされなくたって、りんごちゃんが宇宙一のアイドルだってことに変わりはないんだから…!」
 
〇宇宙船・休息スペース。

装置内で眠っていたりんご、パッと目を見開いて、怒りの表情で起き上がりながら、

りんご「勝手に売れないって決めづげるんじゃねえ、このぼげぇーーーッ!!!」

我に返って辺りを見渡すりんご。
するとりんごの顔面スレスレのところに、防護服で顔の隠れたイウヴァルトの姿が。
りんご、一瞬硬直するが、すぐさま驚愕してのけぞる。

りんご「うぎゃあーーーっ!?」
イウヴァルト「(アリーチェ語で聞き取り不可能)うおっ! よくもまあコールドスリープから目覚めた直後にそう叫べるものだな」
りんご「は!? 誰!? 何語!?」
イウヴァルト「(アリーチェ語)あー…そうか、地球言語への翻訳が必要だな」

イウヴァルトが腕部分の端末を操作すると、発した言葉が英語に翻訳されていく。

イウヴァルト「How are you feeling? Can you say your name?」
りんご「うえぇ!? えー、アイドントスピークイングリッシュ! プリーズジャパニーズオンリー!」
アディ「(アリーチェ語)マスター、肌の色・骨格・周辺地域の情報から察するに、彼女は日本人かと思われます。従って日本語への翻訳が適応かと。(日本語)大丈夫ですか? 自分の名前は言えますか?」

りんご、パニックながらも、少し落ち着いた様子で、

りんご「えっ! えっと、大丈夫だと思うけど…。名前は…りんご。街裏りんご」
アディ「街裏りんご、認識しました。はじめまして、私はEVONレーベル所属のアンドロイド、個体識別名称アディ。こちらはわたしのマスターで、アリーチェ星人のミュージック・エンジニア、イウヴァルト」

りんご、イウヴァルトとアディを交互に見比べるが、状況を飲み込めずポカンとしている。

アディ「街裏りんご、落ち着いて聞いてください。あなたはつい先ほど、私たちの手によってコールドスリープ状態から解除されました」
りんご「…は? 何それ? っていうかここどこ?」
イウヴァルト「(日本語)ここはわたしたちの船の中。そして、お前の知る地球から312年経った後の地球。死の惑星と化した星だ」

りんご、驚愕のあまり、凄まじいマヌケ面を浮かべる。

りんご「…へ?」
 
〇荒廃した住宅街

崩壊した街並みの上空に、イウヴァルトの宇宙船が飛んでいる。
りんご、宇宙船の窓から変わり果てた街並みを見下ろしながら、

りんご「えぇーーーーーっ!? !? !?」
 
1話END

※補足
作中に出てくる「SCD」とは現代のCDより耐久性が増して、数百年単位のデータ保存が可能になった、地球滅亡前に普及されはじめた音楽規格という設定です。



企画説明

この物語の舞台は一言で説明すると、

地球の音楽文化ひいてはJ-POPが爆発的に流行っている、地球が滅んだあとの宇宙世界

となります。
実際、作中に実在のミュージシャンの楽曲を登場させたり、現実世界の音楽とリンクしたストーリーを組み立てる予定でいました。
1話で発掘されたCDは、わたしが個人的に大好きなaccessのファーストアルバム『FAST ACCESS』だったりします。

WDRのメインコンセプト「世界を席巻するドラマを作る。」を目にした時、私は「メインターゲットは海外である」と解釈しました。
そこで真っ先に思い浮かんだのが、海外発端のシティポップブーム。

70~80年代の邦楽の再評価が進んでいる中で、ゆくゆくは90~00年代のJ-POP、そして現在の邦楽へと繋がっていくのでは…
いやむしろ、シティポップを起点にもっと日本の音楽を世界に広めていく動きを起こすべきなのでは…
という企画意図のもと、このコンセプト名「スペース”J-POP”オペラ」が生まれたという経緯でした。

この世界観をこのまま発信するかどうかはさておき、この世界を基にした様々な企画を考えては、じゃあどうやって実現すんじゃいと壁にぶち当たっているところです。
映画にするのかアニメにするのか漫画にするのか、もしくはコンセプトアルバムのような形で音楽として発信するのか…
このままぼっちでシコシコ脚本を書き続けているだけの物臭文字書きのままではいけないな、と思って行動的になったりならなかったり…
2023年はこの企画の実現に向けて何かしら動き出したいなと、まだ2022年が終わってないにも関わらずそんなことを思っています。

ここまで読んでくださってありがとうございました。
面白そうじゃん!と思ってもらえてたらとっても嬉しいです。
もっと他人様に見てもらえるような形にして、世に発信できるように頑張ります。

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