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短編シナリオ詰め合わせ②

Hello I'm Akane. I'll remember it so you don't have to!(©NostalgiaCritic)
その昔noteの別記事にも載せたのですが、私は脚本家の原田聡明先生が主催のシナリオ合評会「九求舎」に参加しています。(首領への道シリーズの脚本を書かれている方です)
その会で1年に1度行われる俳句会形式の合評会があるのですが、2024年開催の会で最多得票を得ることができました! やったね!

気が付けば会に参加するようになり7年目、合評会用に書いた短編シナリオも7本。
うち4本は別記事に載せているのですが、残りの3本についてもせっかくなのでnoteに載せたいと思います。
ちなみに九求舎は常時会員募集中です。興味あったらDMとかしてもらえれば紹介できますのでぜひぜひ。


お題「信じる」

〇 コンサートホール
  静寂に包まれたホール内。
  ステージ上には1台のピアノと、ピアニストの新藤巽(29)。
  巽、長い沈黙の後、ようやくピアノを弾き始める。
女子アナの声「続いてのトピックは、ショパン国際ピアノコンクールで日本人初の1位を受賞した世界的ピアニスト、新藤巽さんの突然の引退宣言についてです」

〇 新藤家・リビング
  テレビ画面にはワイドショー番組が映っており、演奏中の巽の映像が映る。
  新藤はる(88)、じっとテレビ画面を見つめている。
女子アナの声「新藤さんは自身のコンサートのリハーサル直後、突然SNSで引退を宣言。開演3時間前の出来事でした。コンサートは急きょ公演中止、観客にはチケット代の払い戻し対応が行われました」
  インターホンの音が鳴り、はるが対応に向かう。
タレントの声「要するに新藤さんは、コンサートをドタキャンしたわけですよね? プロとしてそれはどうなんですかね~」

〇 同・ピアノ部屋
  ピアノに、楽譜集や音楽の教本だらけの本棚、様々な音楽用具で溢れた室内。
  壁際のソファに、はると、記者の久木栞(32)が並んで座っている。はるは栞に紅茶を淹れている。
栞「新藤さんは、お祖母様でいらっしゃるはるさんのピアノ教室で、ピアノを学ばれていたんですよね?」
はる「ええ。ほんの短い間だけですが」
  紅茶を栞に差し出す。栞、会釈して、
栞「教え子であり、お孫さんである新藤さんの引退騒動については、どのようにお考えですか?」
  はる、悠然と紅茶を飲む。
はる「あの子らしいなあ、と…。そう思いましたね」
栞「…と、言いますと?」
はる「巽はね…。昔、まったく同じことをしたことがあるんですよ」
栞「え!」
  手帳とペンを構える。
  はる、懐かしそうに目を細めて、
はる「あの子が6歳の頃、ピアノ教室の発表会で…」

〇 公民館・リハーサル室(回想)
  一心不乱にピアノを弾く巽(6)。
  少し離れたところから巽を見守るはる(65)、巽の演奏に度肝を抜かれている。
はるの声「本番前の練習でね、それはもう完璧な演奏をしてみせたんです、あの子」

〇 新藤家・ピアノ部屋(回想明け)
  はる、微笑みながら、
はる「そしたらね、『これ以上良い演奏はできないから、やっても意味がない』って言って…。あの子、発表会に出なかったんですよ」
栞「えぇっ!」
はる「だから今回もきっと、本番前のリハーサルで、完璧な演奏ができてしまったんじゃないかしら」
  栞、怪訝そうな顔で、
栞「でも、なにも引退までしなくてもいいじゃないですか。世界的ピアニストとしての人気や、名声を棒に振ってまで引退を選んだ理由は、なんだと思われますか?」
はる「…これは私の想像なんですけど」
  ソファから立ち上がり、ピアノの傍へ。
  ピアノの鍵盤を優しく撫でる。
はる「巽にとって、お客さんとか批評家とかの存在は、そこまで重要じゃなかったんだと思います」
栞「それは、どういう…」
はる「あの子には、私たちには見えない音楽の神様のようなものが見えていて、その神様に捧げる信仰の証とするためだけに、ピアノを弾いてるんじゃないかって…。そう思う時があるんです」
栞「音楽の、神様…」

〇 コンサートホール(イメージ映像)
  スポットライトに照らされ、ピアノを弾く巽の姿。その姿はどこか神聖さを感じさせる。
はるの声「これ以上ないほどの美しいピアノを神様に聞いてもらえたから、もうピアノを弾く意味がないと…。そう思ってしまったんでしょうね」

〇 新藤家・ピアノ部屋
  栞、メモを取る手を止める。
栞「…もしそうだとしたら、そんなにも素晴らしい演奏を神様しか聞けなかったっていうのは、もったいないですね」
はる「ええ、本当に」
  窓から差し込む日差しが、ピアノを照らしている。
  はるが鍵盤を叩くと、甲高いピアノの音が室内に響く。

END


お題「縁」

〇 縁結び神社
  たくさんの参拝客の群れ(カップルや若い女の子率高し)。
  入口には『良縁成就』などと書かれたのぼり旗。、絵馬掛けには恋愛に関する願い事の絵馬がたくさん掛けられている。
売り場で参拝客の対応をしている、巫女服姿の少女、日向まどか(16)。

〇 縁切り神社
  たくさんの参拝客の群れ(単身率高し)。
  入口には『悪縁を断つ』などと書かれたのぼり旗。絵馬掛けには参拝客の恨みつらみが書き連ねられた絵馬がたくさんかけられている。
  境内の掃除をする装束姿&眼鏡の少年、月島わかつ(16)。

〇 駄菓子屋の店前
  小ぢんまりした駄菓子屋の前にあるベンチに、2人並んで座っているまどかとわかつ。
まどか「疲れた~!」
わかつ「やっぱ正月は人多いよな」
  駄菓子屋のおばちゃん(78)、2人に甘酒入りの紙コップを差し出してくれる。
おばちゃん「まどかちゃんも、わかつくんも、お疲れさま~。これ、うちで作った甘酒」
まどか「やーん、おばちゃんありがと~!」
わかつ「あざます」
  まどか、甘酒のカップを掲げて、
まどか「そんじゃ、打ち上げといきますか!」
わかつ「まだ三が日終わってないぞ」
まどか「細かいことはいーの! かんぱーい!」
  わかつ、笑いながらカップを掲げ、まどかと乾杯する。
わかつ「大雑把だなー」
  2人揃って甘酒を飲みながら、
まどか「でもさ! よくよく考えたら、縁結びの神社と縁切り神社が、徒歩10分の距離にあるって変じゃない?」
わかつ「…何が?」
まどか「いや何がって、正反対じゃん! こっち縁結んでんのに、そっち縁切ってんだよ? 神様、喧嘩とかしないのかな」
  わかつ、呆れたような深い溜息。
わかつ「あのなあ、うちだってもとをただせば縁結び神社なの」
まどか「え、そーなの?」
わかつ「悪縁を断ち良縁を結ぶ、とかっていうだろ。うちの神様は、悪い奴との縁を切ってくれて、良い奴との縁は結んでくれるっていうありがたい神様なわけ」
まどか「へー、知らんかった。さっすが次の神主!」
わかつ「むしろなんで知らないんだよ、お前だって家神社のくせに」
まどか「だってあたしは別に跡継がないし」
  甘酒を飲み干して、
まどか「…じゃあ、例えばわかつに彼女ができたとして。相性いい子と付き合う分には、神様も怒らないんだ」
  わかつ、まどかを一瞥して、
わかつ「そういうこと」
まどか「…へー」
  ちらちらとわかつの方を見ながら、
まどか「…ねー、寒くない?」
わかつ「…そうか?」
まどか「いや、寒いよ。手かじかんでるもん」
  わかつ、照れくさそうにまどかの手を握る。
  まどか、嬉しそうに笑って、
まどか「ぬくーい」
わかつ「…神様、ブチ切れてるかもよ」
まどか「大丈夫! うちの神様、縁結び超得意だから!」
  幸せそうなふたりの笑顔。
  その様子を、駄菓子屋のおばちゃんが店内から険しい顔で見つめて、どこかへ電話をかけだす。

〇 縁結び神社・社務所
  社務所内の固定電話が鳴り始める。
  電話に出る神主こと、まどかの父(55)。
まどか父「はい…はい」
  次第に顔つきが険しくなっていく。
まどか父「…そうですか…。ついに…うちの娘が…」

〇 縁切り神社・社務所
  電話中の神主こと、わかつの父(51)。
  受話器を置いて、険しい顔つき。
わかつ父「とうとうこの日が来てしまったか…」

〇 町の衛星写真
  まどかとわかつのいる町を映した衛星写真。それぞれの神社を中心に、陰陽の形が象られている。
まどか父の声「この町の陰陽を司る、我ら日向家と月島家…。2つの家は表と裏、決して交わってはならないのが掟…」
わかつ父の声「その掟を破った時、2対の神は均衡を失い、暴走する…! そうなればこの町はおろか、この国そのものが危うい…!」

〇 駄菓子屋の店前
  手を繋いで談笑する、まどかとわかつ。
まどか父&わかつ父の声「なんとしてでも、2人の恋を止めなければ…!」

END


お題「争い」

○ 中学校・屋上
  放課後の屋上。吹奏楽部の練習する音が聞こえてくる。
  ひまり(15)とゆきこ(15)、パピコアイスを食べながらグラウンドを見下ろしている。
ゆきこ「練習サボっていいのかい。コンクール近いんじゃないの」
ひまり「いーの。負けたから」
ゆきこ「負けたって…何に?」
ひまり「ソロ。田辺ちゃんに奪われた」
  ゆきこ、ひまりを一瞥して、すぐにグラウンドに視線を戻す。
ひまり「やっぱ天才にゃ敵わねーわ。負けた負けた」
ゆきこ「情けねー先輩」
ひまり「ほんまそれ」
  食べ終わったパピコの容器をグラウンドに向かって投げ捨てる。
ひまり「あたし運動神経ゴミだからさ、かけっことか大概ビリなのね。んでいっちょ前に悔しい思いすんの。文化部入っとけば競争社会じゃなくなると思ってたけど、大間違いだったね。こんな弱小吹奏楽部ん中でもポジション争いだの何だのがあって…」
  ひまり、喋りながらだんだん涙ぐむ。
ひまり「結局、めっさ悔しい…」
  ゆきこ、泣きそうなひまりを見て、自分が食べていたパピコを差し出す。
ひまり「いるかぁー。食いかけのもんよこすな」
ゆきこ「期間限定フレーバーなのに?」
ひまり「それ別に万能じゃねえから」
  ゆきこ、パピコを吸う。
ゆきこ「…ナンバーワンにならなくてもいい、もともと特別なオンリーワン♪」
ひまり「(笑いながら)古っ」
ゆきこ「懐メロブームなんよ」
  2人が見降ろしてるグラウンド下で、男性教師がパピコの容器を見つけて憤慨しているのが見える。
ひまり「やべっ、見つかった」
ゆきこ「逃げるべ」
  慌てて屋上から逃げる2人。

○ 海上自衛隊基地・外観(十年後)
  イベント中の基地。多くの一般客が基地を訪れており、音楽隊の演奏が聞こえてくる。

○ 同・屋外演奏会場
  観客で賑わった演奏会会場。
  成長したゆきこ(28)、息子のアキラ(4)を連れて開場前を通りかかる。
アキラ「ねえー、ブルー飛ばないのー?」
ゆきこ「どーだろー、パパに聞いてみよっか」
  そこへ高らかなトランペットソロが聞こえてきて、ゆきこ、音の方へ振り返る。
  ゆきこの視線の先には、トランペットを吹いている音楽隊の一員、ひまり(28)の姿。
ゆきこ「…マジぃ?」

○ 同・広場
  ひまりとゆきこ、2人並んで座りながらアイスを食べている。
ゆきこ「運動神経ゴミなのに、自衛隊かい」
ひまり「だから訓練で毎回死にそうになってるんだろがい」
ゆきこ「上官に泣かされてんの?」
ひまり「もーボロ泣き」
  けらけら笑いあう2人。
ゆきこ「続けてるとは思ってたけどさ。負けず嫌いだもんな、あんた」
ひまり「まーね。何事も下手くそほどデカい顔するからな」
ゆきこ「誰もそんなこと言ってねーよ」
ひまり「いや、ガチでそう思ってるよ。あたし下手くそだから、人より悔しい思いすることが多いんよ。それで何くそがーってなって、だからこうして続けてられる」
ゆきこ「…負け癖つきすぎて逆にポジティブなってるやん」
ひまり「そういうこと」
  食べ終わったアイスのごみを近くのごみ箱に捨てに行くひまり。
ゆきこ「ポイ捨てせんのー?」
ひまり「バカヤロー、国の防衛しょってんだぞ」
ゆきこ「成長したなー」
  ゆきこも立ち上がり、ひまり同様にアイスのごみをごみ箱に捨てる。
ゆきこ「やっぱカレー美味い?」
ひまり「めちゃうま。ブース出してるから食えるよ」
ゆきこ「えーっ、食いたい食いたい。旦那とチビ連れてくるわ」
  ひまりとゆきこ、2人ならんで語らいながらゆきこの家族のもとへ向かう。

END


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