短編シナリオ詰め合わせ
お世話になってます、永井です。(©オズワルド)
一応シナリオライター志望と名乗っている身にもかかわらず、生来のズボラで面倒くさがりな性分が災いして、映画もドラマも碌に見ないとにかく不勉強な私ではあるのですが、月に一度参加しているシナリオの合評会があります。
そこではコンクール前に応募シナリオを提出して意見や感想を貰ったり、どのように直せばより良いシナリオになるか参加者全員で探っていったりなど、多くを学ばさせてもらっています。
その合評会で年に一度行われている催しが、俳句会形式での短編シナリオ合評会です。
どういった催しかと言うと、1つのお題に基づいてペラ10~11枚以内の短編シナリオを執筆して、作者を伏せて合評を行い、最も評価が高いシナリオの作者がささやかな景品を得られる、というものです。
私はこの合評会にかれこれ4年参加しており、短編シナリオを4作執筆してきましたが、最高評価を貰ったのは一度だけで、専ら次点続きです。
とはいえ、せっかく書いたシナリオなのに人の目に触れられないのも勿体ないので、noteにて詰め合わせ大放出しようと思います。
➀お題『新』
タイトル『新しいモノ、昔のモノ』
○ ベッドルーム(夜)
ベッドサイドランプが点いているだけの、薄暗い部屋の中。
木製のベッドの上には、裸姿で眠る、工藤由美香(27)と、同じく裸姿でスマホを弄る、谷健斗(26)。
健斗、煙草を吸いながらスマホの画面を眺めている。
健斗「…」
スマホの画面には、通販サイトの家具ページ。
健斗、パイプベッドの画像に目を止め、その画像をタップして商品ページへ。
健斗「…あ」
煙草を持った手で、購入ボタンを押す。
○ アパート・外観(朝)
畑や田んぼが広がる田舎の景色の中、ぽつんと建つアパート。
○ ベッドルーム
誰もいない部屋の中に、真新しい大きな段ボールと、組み立て途中のパイプベッド。
○ 空地
健斗、木製ベッドをノコギリでバラバラにしていく。
その姿をじっと見てる、由美香。
由美香「なにも捨てなくたっていいのに。フリマで売るとか、誰かにあげるとかしないの?」
健斗「面倒じゃん、梱包とか」
由美香「そもそも、粗大ごみで引き取ってもらえばいいじゃん。そんなことしなくたって」
健斗、ノコギリを置いて、バラバラになったベッドを一か所にまとめ、その周りに枯れ葉や枯れ枝を集めていく。
ポケットの中から煙草ケースとライターを取り出し、1本を銜えて火をつけて一服したあと、拾い上げた枯れ枝にライターで火をつけて、、枯れ葉の山に投げる。
徐々に枯れ葉や枯れ枝に引火していき、やがてベッドの破片に火がつく。
由美香「こういうことして、怒られないの?」
健斗「ここ、うちの土地だから」
由美香「出たよ、地主の孫」
健斗の隣に立って、少しずつ大きくなっていく火を見つめる。
健斗「…新しい服とか、家具とか買うとさ、それまで持ってたものにムカついてこない?」
由美香「えぇ?」
健斗「なんていうか…『なんでこんなもん持ってたんだろ、俺』って思って。その時はめちゃくちゃ欲しかったものでも、後になってどうでもよくなって、そこにあること自体がウザくなってくる、そんな感じ」
由美香「(半笑い)なにそれ、怖いよ。…まさか、今までの彼女に対しても、そんな風に思ったりするの?」
健斗「…由美香ちゃんが初めてだから、わかんないわ」
由美香、ニヤついて健斗を小突く。
炎は大きくなり、ベッドを燃やしていく。
○ 1か月後
○ ベッドルーム(夜)
真っ暗な部屋の中、パイプベッドの上には、服を着たまま横並びに寝そべる、健斗と由美香。
由美香「…別れよっか、健斗」
健斗「…うん」
サイドテーブルの上にある煙草ケースとライターを手探りで取って、煙草を1本取り出し、火をつけようとする。
由美香、その様子を見て、
由美香「私も、燃やす?」
健斗、由美香をじっと見つめ、銜えた煙草をケースに戻し、煙草とライターを元の位置に戻す。
健斗「…由美香ちゃんには、ムカつかないわ」
由美香「なんで?」
健斗「なんでだろ。…人間だからかな」
由美香「あははは」
笑いながら、健斗を小突く。
由美香「…多分ね、もう二度と会わないからだよ」
健斗「……」
由美香「そんな顔しないでよ。昔は大事にしてたものが、そのうち大事でなくなるのって、結構普通のことだよ」
健斗「…それはわかる」
由美香「でもさ、それは新しい大事なものができるってことだから」
健斗「…じゃあ由美香ちゃん、もう次の彼氏、探す?」
由美香「探す探す、明日にでも探すわ」
健斗「…新しい彼氏、どんな奴がいい?」
由美香、健斗を見て、少し笑う。
由美香「物持ちがいい人、かな」
②お題『爆破』
タイトル『コッパミジン』
○ 商店街(夜)
屋台が並び、人々が行きかう、お祭り騒ぎの最中の商店街。
浴衣を着た女が、リンゴ飴を食べながら、空を見上げる。
夜空に花火が上がり始める。
○ 古いアパート・4号室(夜)
物で散らかっているワンルームの部屋の中。
眼つきの悪い眼鏡の男、柳瀬達也(20)が、冷蔵庫からビールを取り出していると、外から爆破音のような花火の音が聞こえる。
対戦テレビゲームに興じていた、小野田輝幸(20)、上村智治(20)、音に驚く。
輝幸「うわっ! ビビった~」
智治「花火ってこんなデカい音してたっけ?」
達哉、ビールを飲みながら2人の方へやってきて、ソファに腰を下ろす。
達也「ここ、花火会場近いからな。去年もこんなんだった」
輝幸「へー」
智治「にしても、すげー音。近くで自爆テロとか起きても気づかねーだろ」
達也、智治の言葉に反応して、智治を見る。
智治、達也の視線に気づき、身を捩る。
智治「なにガンくれてんだ、コラ」
達也「くれてねーわ」
智治「冗談だよ。でもお前、ただでさえ眼つき悪いんだから、あんま見てくんな」
達也「…いや、お前の『自爆テロ』で思い出したんだけどさ」
ソファ上に置いてあったコントローラーを手に取り、ゲームに参加する。
達也「俺、中学の頃のあだ名、『爆弾魔』だったんだよな」
輝幸と智治、同時に噴き出して笑う。
輝幸「ひで~、なんだそのあだ名!」
智治「でもわかるわ、クラスに1人はいる犯罪者顔だもんな」
達也「化学のテスト、最高得点48点なのに、爆弾魔」
輝幸&智治「あっはっは!」
達也「けど、そんなあだ名だったせいで、一回だけ変なことがあって」
輝幸と智治、達也の方を見る。
達也「中2の時、生物室でぼっちメシ食ってたらさ」
○ 中学校・生物室(回想)
生物のホルマリン漬けなどが並ぶ棚の前で弁当を食べる、14歳の達也。
教室の扉が開き、達也、視線を扉へ向ける。
美しい女子生徒が、達也に向かって微笑んでいる。
女子生徒、達也のもとへやってきて、屈んで視線を合わせる。
女子「ねえ、爆弾魔くん。爆弾作れるって、ホント? それも、人を木っ端みじんにできるぐらいの、すごいヤツ」
達也、唖然としている。
○ 古いアパート・4号室(夜・現実)
輝幸と智治、怪訝そうな表情。
輝幸「まず、なんで生物室でメシ食ってんだ、お前」
達也「重度の中二病でな。藤岡藤巻の『まりちゃんのホルマリン漬け』ばっか聞いてたんだ」
智治「逆に珍しいだろ、そのタイプの中二病」
輝幸「あだ名『爆弾魔』で、好きなアーティスト『藤岡藤巻』の奴は、そりゃぼっちだよな」
智治「で…何なの、そのこえー女。なんて言ったの?」
達也「ビビりながら『作れません』って言ったら、何も言わずにどっか行って、それっきり」
輝幸「名前とか、学年とかは?」
達也「わからん。全校集会の時とか探してみたけど、一度も見かけなかった」
輝幸「何それ、幽霊か何かだったんじゃねーの?」
智治「…それ、お前がガチで爆弾作れてたら、どうなってたんだろうな」
達也、ビールを一口飲んで、遠くを見る。
達也「…誰か殺したかったのか、それとも自分が死にたかったのか」
玄関のチャイムが鳴る。
達也「お、来た来た」
玄関へ行き、扉を開けると、鈴木千尋(20)がたこ焼きの入った袋片手に上がり込んでくる。
千尋「悪い、バイト長引いてさ。これ土産な」
達也「お、たこ焼き」
智治「やっと4人揃ったか。スマブラやろうぜ、スマブラ」
達也「その前にたこ焼き食うべ」
千尋と達也、輝幸と智治のもとへ行き、4人でたこ焼きを食べ始める。
○ 商店街(夜)
花火を見上げて歓声を上げる人々。
浴衣の女、不敵な笑みを浮かべて、食べ終えたリンゴ飴の棒を2つに折る。
花火の火種が、空に昇っていく。
○ 暗転
爆破音のように鳴り響く花火の音。
1つだけ、本物の爆破音が混じる。
③お題『紅白』
タイトル『腹が減っては戦ができぬ』
○ 小学校・校庭グラウンド
色とりどりの小さな国旗が吊るされ、紅白帽を被る体操着の児童たち、観覧している保護者たちのいる、運動会中の校庭内。
50M走のスタート位置に並ぶ赤い帽子の、平井梓(7)、後ろへ振り返る。
視線の先には、梓の家族のいる保護者席。ビデオカメラを構える梓の父、篤(34)。スナック菓子に夢中の梓の弟、俊(3)を膝に乗せて観覧している、梓の母、瞳(33)。
教師「位置について、よーい、ドン!」
梓、走り出し、ダントツの速さで先頭に出る。みるみる後続を引き離し、1位でゴールテープを切る。
梓「やったー!」
家族のいる保護者席に振り返る。
篤と瞳、梓を見ておらず、スナック菓子を地面に落として泣く俊を宥めている。
梓、それを見て笑顔が曇る。
○ 同・保護者席
豪華なお弁当を前に、不満そうな梓。
瞳「あず~。機嫌直して、お願い!」
篤「パパもママも謝ったやろ」
梓「・・・俊がお菓子落とすからや!」
怒り任せに俊の頭を叩く。
俊「いたい!」
瞳「梓! 俊にあたったらあかんやろ!」
梓、いたたまれなくなり、立ち上がってその場から走り去る。
○ 同・記念樹の下
梓、記念樹のもとまでやってくる。
そこには、傍らにランドセルを置いて、1人で惣菜パンを食べている、白い帽子の、橘理乃(7)。
梓、理乃に気づき、立ち止まると、理乃も梓に気づき、目が合う。
理乃「勘違いせんといてや、別に可哀想なんちゃうで」
梓「え?」
理乃「おかん、看護師さんやねん。今朝な、担当の患者さんの容態が急変したって、病院すっ飛んでいってん。うちのお昼どうすんねん言うたら、『たんすの中にへそくりあるからそれでなんか買い』言うて」
食べていたパンを梓に見せる。
理乃「これ、ヤマザキでいっちゃん高いパンや。贅沢したった」
梓「・・・でも、ひどない? 運動会の日くらい、子供のこと優先してくれたってええやん」
理乃「しゃあないやん、おかんが仕事行かんかったら、人死んでまうんやで」
梓「・・・」
俊の声「おねえちゃあーん」
梓「!」
咄嗟に木の陰に隠れる。
理乃が声のするほうを見ると、校門前で、瞳と手をつないだ俊が梓を探している。
理乃「どしたん?」
梓「・・・弟やねん」
理乃「行ったったらええやん。あんたのこと探してるんちゃうの」
梓「ええねん! あいつが生まれてからママもパパもうちのことほったらかして、ずっと損ばっかりや。たまには泣かしたってもええやろ!」
言いながらぐずつき始める。
理乃「あんたも泣いてるやん」
梓「泣きたくて泣いてるわけちゃうもん」
理乃「別に弟くんは、あんたのこといじめたいわけちゃうやろ」
梓、ムッとする。
理乃「怒るのはしゃあないけど、相手の気持ちも考えたりいや」
ふと、梓の腹が鳴る。
恥ずかしそうな梓に、理乃、ランドセルを開けて中身を見せる。中にはスナック等お菓子の袋がぎっしり詰まっている。
理乃「食べる? へそくり使いきったろ思って、お菓子とかめちゃ買うてきてん」
梓、少し考えて首を横に振る。
梓「ママのお弁当、あるから」
俊のもとへ駆け寄ろうとして、ふと立ち止まって理乃に振り返る。
梓「やっぱ1個もらってええ?」
○ 同・校門前
俊、ぐずつきながら瞳と手を繋ぎ、梓を探している。
俊「おねえちゃあーん・・・」
梓、後ろ手に何かを隠し、俊と瞳のもとに駆け寄ってくる。
梓「俊、ママ!」
俊、瞳、梓に気づいて振り返る。
瞳「梓! やっと見つけた!」
梓、後ろ手に隠していたスナック菓子の袋(うすしお味のポテチ)を俊に差し出す。
梓「俊、叩いてごめん」
俊、スナック菓子を受け取るとぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。
俊「おねえちゃん、だいすき!」
○ 同・記念樹の下
理乃、パンを食べながら、紅白帽の止め紐を引っ張って遊んでいる。
理乃「敵に塩を送ってもうたわ」
お題『距離感』
タイトル『遠く遠く』
○ マクドナルド・店内
学生客で賑やかな店内で談笑する、光(16)、 琴音(16)、透子(16)、美月(16)。
琴音「え! 光って彼氏いんの!?」
光、恥ずかしそうに頭の上に手で○を作る。
美月「キャー! なに隠してんだよ、このぉー!」
光「隠してるつもりはないんだけど…。遠距離恋愛だから滅多に会えないし…」
琴音「遠恋とかめっちゃキュンなんだけど! 写真とかないの!?」
光「ダメダメダメ! うちの彼氏、イケメンだもん、絶対好きになっちゃうから!」
美月「何それ、余計見たい! 見せろよ、光~!」
光のスマホを奪おうとする美月、慌てて光はスマホを隠す。
透子「じゃあさ、じゃんけんで勝ったら見せて! 負けたら見せなくていいから!」
光「えぇ~…」
透子「ハイ、じゃんけんぽん!」
光は咄嗟に、他3人はノリノリでじゃんけんをする。光はチョキ、美月はグー、透子 と琴音はパーを出している。
美月「うぇーい、勝ったー!」
光「ああああ~!」
琴音「美月いいなあー」
光、しぶしぶスマホを取り出して画像を探し、美月にのみ画面を見せる。
光「3秒だけね、見せるの!」
美月、ニヤニヤ笑いながら画面を覗き込む。
その途端、美月の表情が凍り付く。
透子と琴音、怪訝そうに美月の様子を伺う。
光「ハイ、そこまでー! うちの彼氏なんだから好きにならないでよー?」
美月を小突く。
すると、小突かれた美月がそのままその場に倒れこむ。
驚く3人。
美月、白目を剥いて痙攣している。
○ 高校・教室
帰り支度をする琴音。
窓際の席の女子2人が小声で話している。
女子A「うちの親が聞いたらしいんだけど、美月、入院してるらしいよ」
女子B「えー? 何の病気?」
女子A「わかんないけど、まともに会話もできない状態なんだってさ」
琴音のもとに透子がやってきて、
透子「琴音、今日マック寄る…?」
琴音、俯きがちに首を横に振る。
透子「だよね…。光も帰るよね?」
一番後ろの席で帰り支度をする光、妙にうれしそうな様子で、
光「うん! ちょっと用事あるから!」
琴音「…用事?」
光「久々にみっちゃんと会うの、今日!」
透子「ああ…遠恋の彼氏?」
光「うん! じゃあね、また明日ー!」
足早に教室を出ていく。
残された琴音と透子、浮かない表情。
○ 琴音の家・寝室(夜)
電気を消した部屋の中、ベッドに横になるも、眠れないでいる琴音。
すると、外から轟音が聞こえてくる。
驚いて飛び起きる琴音。
琴音「なに?」
○ 同・居間(夜)
真っ暗な部屋の中で、寝間着姿のままテレビでニュースを見ている、琴音の父と母。
寝室から出てきた琴音、居間へやってくる。
女子アナ「えー、たった今、爆音が確認された付近で撮影したとみられる映像が入ってきました」
テレビ画面に、スマホで撮影したらしき映像が映る。
夜空に浮かぶ青白い光が、流れ星のように流れて消え、直後に轟音が響く。
琴音母「何あれ、隕石?」
琴音父「いや、UFOかも」
琴音、テレビ画面から目を離せないでいる。
○ 山中(夜)
木々の隙間を縫うように走る光。
やがて、辺り一帯の木々が全て消し飛んで、完全に更地となった空間へと出る。
その空間の中央に、とても美しい青年が立っている。
光「会いたかった、みっちゃん!」
青年に駆け寄り、抱き着く。
○ 同・居間(夜)
呆然とテレビを見ている琴音のもとに、スマホの着信音が鳴り響く。
画面を見ると、着信の相手は光である。
琴音、電話に出て、
琴音「光?」
すると、電話の先から、獣の断末魔のような悍ましい声が聞こえてくる。
驚いて固まる琴音に、声の主は一方的に叫び付けて、電話が切れる。
琴音N「それ以来、光は行方不明になった」
○ 山中(夜)
青白い光が、上空へ打ち上がり、夜空へ吸い込まれるように消えていく。
琴音N「私はなぜか、もう二度と光に会えないような…。どこか遠く遠く離れた場所へ行ってしまったような、そんな気がする」
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