深夜のバルコニーから
今の私の家は、メコン川の支流のナムサン川に面していて、バルコニーからは川とその奥に茂る森が見渡せる。
なんとなく思い詰めた時、気持ちを新たにしたい時、バルコニーに出ると、変わらない景色がそこにはあって、いつも心を優しく包みこんでくれる。
変わらない景色だけど、表情は毎日違う。
今夜はふと、バルコニーに干していた洗濯を取りに行ったら、いつもの森が暗闇で影のようになっていて、それを覆う夜空が少し明るいことに気づいた。
上を見上げたら、久しぶりの満天の星空だった。
雨季で雨が続いていたので、最近は夜も雲におおわれていて星も月もなかなか見えなかった。
でも今日は、強弱まばらに光る星が空一面に輝いていて、虫たちの声が聞こえ、目の前の川と森が、浮かび上がって美しく見えて、絵のような風景だった。
家のバルコニーから壮大な開けた自然に包まれた感覚を味わえるのは、今の家の特権だ。
ぼーっと眺めていたら、遠くで光が動いていた。
こんな遅くに、誰かいるのかな。一瞬見間違いかと思ったけど、確実にその光は動いてきて、遠くから少しずつ近づいてくる。そして私の家の前を通過しながら、上流へ向かっていった。
この辺りに住む人は、自前の小さな細長いボートを持っていて、魚を探しているのか移動しているのかわからないけど、よく川を縦断している。
今日も晴れたから、夜に誰かが生き物でも探しにボートに乗って対岸の森に行っていたのだろう。
そんな動く光さえも、この風景の一部になっていた。
この景色に包まれている感覚を、残したい。
衝動的に部屋からカメラを持ってきて、シャッターを切った。
暗闇なのでピントはマニュアルで、ぴったり合ってはないけど、今目の前に広がるこの風景の感覚を忘れたくなくて、何度も撮った。
ラオスに来てから、星や月に本気で励まされるようになった。
どんなに孤独を感じていても、星や月はいつでも明るく照らしてくれる。
ラオスは仏教の暦で人々は生活するのだけど、それも月の動きに沿っている。綺麗な星や月を見ると、力をもらえる気がする。
だから、夜空を見上げるのが習慣になった。
雨季も終わりになってきて晴れの日が増えて、そんな楽しみがまたちょっとずつ増えそうだ。
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