見出し画像

一期一会がせつない「素敵なポルトガル8日間」

夫の還暦祝いに、この夏の旅行はいつになく大奮発をして、夫婦でポルトガルを縦断する旅をした。
「素敵なポルトガル 8日間の旅」と題するパッケージツアーである。

これまでにも旅行会社の企画する海外ツアーに参加したことはあったけれど、どれもほとんど個人旅行に近いものだったので、今回のような長い期間を添乗員つきで、しかも初めて会う方たちと、大所帯で回るのは初めてだった。だから慣れないことも多く、同じツアーの方たちとの距離感にも戸惑いながら、一週間に及ぶ旅はめまぐるしく過ぎていった。

わたしたち夫婦を含め、ツアー客は総勢23名。
事前に何人、と知らされているわけではない。
初日に到着したリスボンのホテルで、集合した際に「なんとなく」知った人数である。旅を終えた今も、彼らのことは「なんとなく」しか知らない。
名前さえ知らない方も、半数ほどいる。
毎日同じバスで各地を巡り、同じテーブルを囲んで食事をし、同じ宿に泊まって、あれこれと話をしたにも関わらず、だ。

「どうしてこのツアーに?」
「ポルトガルは初めて?」
「毎年海外に行かれるんですか?」
終始、そんな差し障りのない会話だったからだと思う。
皆、どんな人なのか、何をしてどこに住んでいるのか、仕事や個人を特定するような話は「なんとなく」憚られたのである。

そしてそんな微妙なメンバーたちの空気をものともせず、旅のスケジュールはきっちりと、分刻みに進んでいった。

最初に訪れたのは、城壁に囲まれた白い街「オビドス」。

奇蹟が起きたという、カトリックの聖地「ファティマ」。

歴史深い、大学の街「コインブラ」。

ポートワインで名高い、川べりの賑やかな「ポルト」。

夫はワイン蔵で試飲した本場のポートワインに感動し、お酒の飲めないわたしはこの街で、ハリー・ポッターの作者J.K.ローリングが物語の着想を得たという、美しい老舗書店(「レロ・イ・イルマオン」)にうっとりした。

ほかにも、北スペインの巡礼の地「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」に足を伸ばしたり。世界遺産「シントラの王宮」やヨーロッパ最西端「ロカ岬」の海を眺めたり。

本当に毎日、様々な名所旧跡、観光地を巡った。

最終日リスボンでは楽しみにしていた路面電車に乗り損ね、最後の夜にはおなかを壊してしまうなど、ハプニングもいろいろあったけれど、盛りだくさんの旅はあっという間に終わった。

いまこうして写真を整理していると、それぞれの土地での陽ざしや眩しかった海の色がよみがえってくる。とてもいい旅になったと思う。

心残りがあるとすれば、ほかのツアー客の方との写真が一枚もないことだ。
なかには気の合った方もいたのに、わたしたち夫婦が写っているものしかない。時々、意図しない場所にちらっと映り込んでいる方は数人いるけれど、その程度である。

名前も職業も知らなくていい。たった一枚でいい。
皆で揃って、カメラに収まっても良かったなと思う。
添乗員のSさんも含め、24人で。

Sさんには、夫の誕生日をどこかで祝いたいと事前に相談したら、日本から数字のろうそくを持ち込み、驚くほど大きな誕生日ケーキを用意して下さった(サプライズの夫はもちろん、頼んだわたしも、デザート用の小さなケーキだと思っていたのでびっくり!)。

60代の夫婦がいちばん多かったけれど、40代らしき若いカップルもいて、年齢も構成も様々だった。80に近い両親を連れて家族四人で参加している方たちや、旅好きな母娘、シニアの友人男性同士、奥さんと予定が合わず1人で参加している男性もいた。皆、集合時間10分前には揃っている、真面目で優しい人たちだった。
おなかを壊した夜、なんと診察して下さった医師もいた。翌日は日本に帰るという段になってはじめて「お医者さんだったんだ」と、感謝しながら知った。

もう二度と会えないと思うと、よりいっそうセンチメンタルになってしまう。そんな、一期一会だった。

いつかどこかでまた巡り合うことはあるのだろうか。
すれ違う程度だったら、わからないかもしれない。
わかったとしても、声をかけられないかもしれない。

「なんとなく」そう思う。
そして、
「なんとなく」さみしい。



この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?