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人事の問題を考える(人的資本のストックシステム・理研の雇い止めを考える)

■人手不足

飲食業、サービス業など、時給を上げても人が集まらないというニュースを見たことがある。短気でまわす人材不足はパートやアルバイトに依存せざるを得ず、彼らを調達するための価格競争の他に、その仕事の面白さも重要な要素なのかもしれない。

正社員だとしても十分な人材が集まらないと嘆く経営者も多いのだろう。
 それまで、非正規社員、あるいは契約社員、派遣社員でまかなってきていても、能力不足から生産性向上への戦力にならない人材しか集まらないと不満を漏らす現場社員の声を知っている。

人手不足を解消するためにリクルートが盛んのようだが、まだハードルは高いのだろうか。特に「研究・開発」の人材不足解消は何か手はないのだろうか。

■知的生産部門

既存ビジネスの強化、新ビジネスの探索に当たっては、今までの知識・技術の核心が必要になり、オペレーション能力ではなくナレッジワーカーとしての能力が求められる。
 明示的に「研究部」という名称でなくても、そうした機能は配慮すべきだろう。
 実際、研究開発投資と売上の伸長は高い相関があると言われている。

○統計トピックス No.124 我が国の企業の研究費と売上高 総務省
令和2年4月 13 日

〔要 約〕
【企業の研究費と売上高の推移】
・この 10 年間は、企業の研究費及び売上高共に増加傾向で推移
・企業の研究費と売上高は高い相関
【売上高研究開発費比率】
・2018 年度の売上高研究開発費比率は、「学術研究,専門・技術サービス業」、「医薬品製造業」等で高い。
・この 10 年間において、「プラスチック製品製造業」、「輸送用機械器具製造業」等の売上高研究開発費比率が拡大
【研究費と売上高の増減率の関係】
・「学術研究,専門・技術サービス業」、「鉄鋼業」等では、研究費の伸び率に比して、売上高の伸び率が高い。

https://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/topics/pdf/tp124.pdf

■投資の特徴

では、そうした研究投資はどのような分野であるのか。

○企業の研究開発の約7割が「短期的」「既存事業」「ニーズプル型」
2020.11.13

日本企業はどのような分野・目的で研究を行うために予算を投じているのか。文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が2020年1月に発表した調査結果によると、民間企業の研究開発の7割以上が「短期的」(1~4年で実施)かつ「既存事業向け」で「ニーズプル型」(顧客ニーズ主導)の案件だった。「中長期的」(5~10年)や「新規事業向け」「シーズプッシュ型」(自社技術主導)の案件はいずれも2割程度だった。

https://www.tanabekeiei.co.jp/t/fcc_magazine/2020/7.html

どうしても目先の利益にとらわれがちである。一方で長期的な視野をないがしろにしていいはずもなく、一定の投資をしているのだろう。

■人材の調達

そうした中で、気になる報道もある。

○理研600人雇い止め問題の本質は何なのか
2022.06.02

研究者コミュニティーの中では、学会や論文発表を通じて、優秀な人がいる、良い仕事をした人がいる、という評判が自然に生まれる。その結果、別の機関にリクルートされ、人材の循環が起きる。逆に、そうした評価が得られなければ、研究の世界では生き残ることはできまい。またコミュニティーの中で異端であったとしても、競争的研究費を獲得できる研究者であれば、大学や研究機関は大いに歓迎してポストを用意するだろう。

非常に厳しい言い方になるが、今回の問題で職を失う少なくとも300人は、一定の時間、研究に専念できる環境があったにもかかわらず、外部から評価される成果を出せなかった人ということになる。

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/082400008/052500228/

成果とは何か。
論文の数などが指標になるとしたら、研究のバックヤードで働く人たちは処遇されないことになる。先端的な研究者だけで研究ができるわけではない。チームとしての評価をしなければドロップアウトさせられてしまう人たちが発生する。

■失われた人材

企業の中でも、ある技術領域が衰退すると単純にリストラすることを厭わない所もある。
私自身はIT企業に勤めた経験があり、その時の経験だがCOBOLからJavaに移行時に、旧技術者をリストラした。一転、直後の2000年問題はレガシーシステムの技術者が不足して右往左往した。

現在でもCOBOL技術者のニーズは一定程度あるが、高齢化も進むのでいずれいなくなるだろう。失われた人材が市場に戻ることはない。たしかに理研のリストラの対象者は主力の人材ではないかもしれない。しかし、彼らに継ぎの職場を自力で探させる今の労働市場は適切ではない。

彼らのような特定技能向けの派遣システムがしっかり機能してくれることを願う。
欲を言えば、人的資本のストックを行ない、戦略的に人材を流通させるシステムが欲しい。
会社に帰属するのではない。仕事に帰属するのだ。

そうすれば、中堅企業でも「研究開発」にもう少し積極的に取り組む気風が生まれるのではないか。

<閑話休題>

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