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【読書コラム】技能実習生は、後に、新たな慰安婦問題になる - 『ルポ技能実習生』澤田晃宏著

技能実習生は、後に、新たな慰安婦問題になる。

金を稼ぐために日本へ来て、満足している人もいれば、酷い扱いを受けた人もいる。

つい、極端なケースにばかり目が向いてしまうけれど、実際は様々なケースが量子的に重なり合っているのだと、この本は教えてくれる。

全体的ポップな書き方だから読みやすく、技能実習制度の明暗、両方がバランスよく示されていて面白い。

そして、問題があるのは制度以上に、日本の管理団体と受け入れ先の日本人のモラルのなさだってことがよくわかる。

性暴力や売春接待など、読んでてしんどくなってくる実態も描かれていた。

こういう社会リポート系では珍しく、週刊誌の記事みたいに筆者の主観が出まくっているのは新鮮。

特に冒頭、ベトナムの地元に帰って名士のような暮らしをしている実習生に対し、露骨に嫉妬するアラフォー独身男性の悔しさがにじみ出てるところは超最高!

とはいえ、通奏低音として流れているのは、実習制度の矛盾点に対する正論である。

もはや、誰もが、実習生は安価な労働力であることを知っている。

そして、日本人はその労働力によって安価に作られた食品や製品を消費している。

この時点で、我々は皆、共犯なのだ。

技能実習生たちを可哀想な人たちとして、自分とは遠い場所で起きている出来事にしてしまうのは、ある意味、無責任な態度かもしれない。

NHKのドキュメンタリーで描かれているのも、真実であるのだろう。

ただ、違う角度からも真実を眺める必要がある。

例えば、ベトナムという国は政府も一丸となり労働力を輸出する体制をとっているという事実も真実の一面かもしれない。

あるいは、似たような制度をヨーロッパも導入し始めて、いまや、安価な労働力を巡り試乗バトルが繰り広げられているという事実も同様。

悲劇にするのは簡単だ。
もしくは喜劇にすることも。

そうやってフィクション化してしまえば、自分は無関係な存在でいられるから。観客でいられるから。

でも、技能実習制度を巡るすべては現実の出来事であり、我々も当事者なのだ。

この本は常にその姿勢が貫かれていた。





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