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【ショートショート】怪盗Xのため息 (1,089文字)
その夜、美術館の前にはパトカーが何台も止まり、厳戒態勢が敷かれていた。動員された警察官は百人を超し、みんなをまとめる警部は自信ありげに指示を出していた。
「どうだ。これだけ対策をすれば、さすがのミスターXもお宝には手が出せないだろう。毎回、堂々と予告状を送りつけてきやがって。今度こそ、やつに引導を渡してやる」
ところが、すぐにあたりは騒然とし始め、警部に報告が入った。
「なに! 早速、お宝を盗まれただと。それで、やつはどこにいるんだ」
慌てて、伝令役の刑事は遠くの方を指差した。その先にはぴゅーっと通りを走り去っていく、金ピカの人影があった。
「ばかもん。あのド派手な姿。どこからどう見てもミスターXじゃないか!」
警部は声を張り上げると、近くのパトカーに乗り込み、怪盗Xに切迫した。だが、流石にそう簡単には捕まえられない。路地へと逃げ込まれてしまう。
「くそ。ちょこざいな。俺は降りて、やつを追う。お前らは反対側へ先回りしろ。他の連中にも、すみやかに出口を塞ぐよう伝えてくれ」
そして、統率の取れた警察隊は作戦通りに動いたのだが、挟み撃ちはうまくいかなかった。怪盗Xの姿はどこにも見当たらなかった。
「おいおい。どうなっているんだ。すり抜けられてしまったんじゃないのか」
怒り心頭の警部の元へ、一人の部下が老婦人を連れてきた。
「なんだ。この婆さんは。え。たまたま、この路地を歩いていただって。なら、金ピカのスーツに身を包んだ怪しい男を見ているんじゃないか? え、そんな男は知らないだって。はあ。なんの役にも立たないなぁ。きっと、入れ違えで逃げられてしまったんだろう。そうと決まれば、周辺の道路を封鎖し、撤退的に追い詰めねば」
◇
やつら、本当にいなくなっちまったね。やれやれ、わたしは「怪しい男を見ているんじゃないか?」と聞かれたから、見ていないって答えただけなのに。
まったく、予告状にはXとしか書いてないっていうのに、勝手にミスターXと呼ぶんだからね。どうして犯人が男だって決めつけてしまうんだか。まるで、女には大それたマネができないと言われているようじゃないか。
おかげでたんまり稼がせてもらったわけだけど、さすがに歳をとりすぎた。わたしとしたことが、警察に囲まれちまうとは。そろそろ潮時なのかもしれないね。
それにしても悲しいよ。歴史に残る大怪盗は軒並み男ってことになっている。きっと、わたしの業績もミスターXとか言う男の仕業になっちまうんだ。
こんなバカな話はないね。要するに、捕まるような間抜けは全員、男だっただけのことだろ。一緒になんて、してほしくないよ。
……はあ。
(了)
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